LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2005/3/5   吉祥寺 サムタイム

出演:早坂紗知カルテット
 (早坂紗知:as,ss、黒田京子:p、永田利樹:b、コスマス・カピッツア:ds)

 昼の部のサムタイムは、きっちり観客で埋まった。純粋なファンだけではなく、ふらっと訪れる子供連れの家族やカップルなどもジャズを楽しんだ。
 2セットのライブながら1セットだけ、もしくは演奏途中で帰る観客もいる。それでも次々、新しい客が来て席は埋まる。これがすごい。
 普段ライブハウスへ行き慣れ、日常と密着した客層がすごく新鮮だった。

 早坂も観客層を想定し、過激さより親しみやすいジャズをこの場では志向するらしい。
「普段はオリジナルをあまりやらないんですが・・・」と、自作を演奏前にことわっていた。
 ステージを通し、ハードな展開や特殊奏法こそ控えめ。けれどもシンプルにぐいぐい押すテンションは痛快だった。

 普段はドラム抜きの三人で演奏してるらしい。コスマス・カピッツアはメンバーとしてフルセット参加した。彼の顔が見えない位置に座ったため、詳細は分からないが・・・ドイツ人かな?
 スネアをハイハットの左に置き、フロアタムがスネア代わりな変則セット。さらに股へジャンベをはさんだ。

 ライド・シンバル1枚、1タムのシンプルなセット。冒頭はブラシ、そしてマレットやスティックを使い分ける。
 だけどリズム感がどうも3人のノリにあわない。ぐっとハマる瞬間も当然あったが・・・正直、ドラムレスのトリオで聴きたくなった。

<セットリスト>(不完全)
1.(エドゥ・ロボの曲)
2.チルドレン、チルドレン
3.(モンクの曲)
4.オブリヴィオン
5.キンバラ
(休憩)
6.ミラロゴス
7.イエロー・モンク
8.(エドゥ・ロボの曲)
9.(スタンダード)
10.ルシファーズ・ビバップ(?)
 
 思い切り不完全なセットリストですが、ご容赦を。ほぼ全て、早坂は丁寧に曲紹介してたが覚え切れませんでした。
 エドゥ・ロボの曲を2曲もやって意外だった。ブラジル音楽へ傾倒してたとは知らなかった。
 
 軽やかに始まる。黒田京子も最初から弾きっぱなし。聴きに入らぬ彼女の演奏は数年ぶりに見た。いままでインプロ寄りのライブで聴いてたから。
 サックスは熱くアドリブを展開しても、印象はあくまで爽やか。観客もジャズに慣れており、アドリブが区切られるたび拍手が飛んだ。
 
 アレンジはタイトにこなれ、ブレイクもびしばし決まった。
 早坂は黒田や永田のソロの終わりはなに、すかさずサックスでノリをつないでしまう。だから彼らのアドリブへ、拍手を送るスペースが無くて戸惑った。
 雰囲気は和やかだし、メンバーもふんだんにアドリブを取る。しかしバンド・リーダーは早坂だと、キッチリ印象付ける構成だった。 

 早坂のオリジナル"チルドレン・チルドレン"は、黒田のピアノソロが格別。おっとりと幻想的なムードで、がらり音像を塗り替えた。
 ベースもさりげなく色々なフレーズを混ぜ、複雑に聴かせる。
 
 1stセットではピアノもベースも、音がこもり気味でもどかしい。2ndでは一気にボリューム上がり、粒立ち良くなったが。

 最新アルバムに収録というモンクの曲では、ゴツゴツなファンキーをサックスのソロをたんまり吹いて演出した。ドラムソロが入ったのもここかな?
 ピアソラの"オブリヴィオン"は、ピアノがしっとりと土台を作る。イントロが黒田のソロって、ここだったろうか。
 アドリブでもピアノはひとつながりにメロディを紡ぎ、美しく空気を震わせた。

 「宜しければ拍手を」
 早坂がうながす。"キンバラ"はブラジルの曲。手拍子は伝統的なリズム・パターンらしい。冒頭が2拍三連で、3拍目の裏と4拍目の頭を8分で連続して叩く。
 ドラムもベースも手拍子とは違うリズムをキープし、観客の手拍子はまちまちになっちゃったのはご愛嬌。
 ラテン風味の軽やかな曲で、浮き立つ旋律がアドリブでも一杯だった。

 後半は早坂のオリジナルを2連発。"ミラロゴス"はぴしっと締まった。冒頭でベースの音がくっきり輪郭つけて響いて気持ちよい。
 早坂は曲によってアルトとソプラノを吹き分けた。前半セットでチラッと循環呼吸を使うも、基本はオーソドックスな奏法。たまにハイノートを織り交ぜ、強烈なビバップや小粋なブラジル風味で迫る。
 サックスはノーマイクながら、きれいに店内で響いた。

 アルトとソプラノの二本吹きが"イエロー・モンク"で飛び出す。早坂のオリジナルで、冒頭のサックス・ソロにて"ブルー・モンク"をフェイクさせた。
 ピアノ・ソロも最初に"ブルー・モンク"の変奏を弾く。他にもモンクらしいフレーズやパターンがたんまり。モンクへ愛情こもった曲だった。

 エドゥ・ロボをさらに一曲。タイトルを紹介無しだが、聴き覚えある曲に繋げた。後の曲はスタンダードかな?
 ピアノ・ソロを始めると、早坂はMCマイクもピアノに向けて音を強調させた。
 PA通しなためか、ダイナミクスはいまいちピアノから聴き取れず。
 旋律は流麗に、次々と積み重なる。"イエロー・モンク"ではバップをあえて弾かない限り、あくまでも黒田独自のグルーヴで繊細に築いた。
 だからこそトリオのアンサンブルで聴きたくなったのかも。ベースとのきっちり絡むゆえ、ドラム抜きでも十二分に成立してた。

 後半では永田のベースも活躍。曲によってはベース・ソロのイントロも。アドリブではメロディを優先した。
 刻み込むように高音をヒットさせ、叩き込む。バッキングでの的確なグルーヴと対比させた。
 長尺のソロ後には、額にびっしり汗を滲ませた。1stセット冒頭でアルコをちょっと使ったくらい。今夜はずっと指弾きで通した。

 そして最後、永田のオリジナル。"ルシファーズ・ビバップ"とタイトル・コールが聴こえた。
 抜群のノリ。力いっぱいファンキーにぐいぐい押す。ソロ回しもばっちりで、豪快な出来だった。
 サムタイムは演奏中も客電が明るいまま。ステージだけを照らすスポットだったら、なおさら迫力が増したろう。

 サックスが冴え渡り、ピアノやベースと切り結んだ。
 アンコールは無し。さっくりとステージ終了。外に出ると、まだ明るい。
 日曜の昼下がり、こういう環境でジャズ演奏を楽しめるんだ。すごく贅沢な気分になれた。

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