LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/3/4   日暮里 Bar Porto
 
出演:スズキイチロウ+小森慶子
 (スズキイチロウ:ag、小森慶子:ss,cl,b-cl)

 Bar Portoはこじんまりなショット・バー。店内の奥スペースがステージになる。照明は白熱灯のみ。もうちょい下へ向ければいいのに。下手に座った小森慶子は陰になってしまった。
 それと。出来れば立って演奏して欲しかった。ステージがフラットなため、演奏姿が見づらい場合も。
 
 さて。スズキイチロウ・カルテットの名前は知ってたが、彼のギターをちゃんと聴くのは初めて。ガットギターをアンプに通して演奏した。ちなみに管は生音。バランスはよかった。
 ギターの背に肩当てみたいな物がついて、なんだありゃと首をひねる。演奏を始めて分かった。左利きの人(と限らないか)が、膝へギターを載せるためのアタッチメントなんだ。初めて見た。

 ほのぼのしたMCのあと、演奏へ。観客のほとんどが常連かミュージシャンの顔見知りらしく、寛いだ雰囲気だった。
 1曲目はスズキイチロウのオリジナル"ほぼブラジル"から。
 元はボサノヴァ・タッチの曲だったけれど、過去の共演者が変拍子を上手く処理できず改訂したそう。
 
 この曲では小森はソプラノ・サックスからバスクラ、さらにソプラノへ持ち替える。バスクラの単音でベース・パートを押しまくる、ドライブ感がいかしてた。
 キーの動きが気になるのか、演奏中たまにキーの位置を確認。
 足を組んで屈みがちで、身体をくるくる回し滑らかな音を奏でた。
 ソプラノを吹く途中で左手をふわっと宙へ遊ばす、独特の仕草もたっぷり。

 曲によってはオープンで吹くシーンも。デュオだから細かな音までばっちり聞こえる。アンプ経由の大音響だと聞分けづらい、じわっと揺らぐビブラートは、クラよりもソプラノで良く響いた。
 全体であまりビブラートを使わない。たまに音の末尾が揺らぐくらい。だからこそ、たまに白玉でうねる音飾が心地よい。
 クラではたまに指穴を軽く押さえ、ビブラートっぽい効果を出した。
 
 続いて劇団「発見の会」に昨年、小森が提供した曲。ドラマティックな展開だった。
 今夜は曲によって小森はss、クラ、バスクラを持ちかえる。細かな弾き分けは残念ながら覚えてない。
 クラリネットをきちんと吹く姿を、日本ジャズの中で見る機会は少ない。突飛な奏法に頼らぬ、優雅で確かな音楽が心地よかった。

 スズキイチロウはネックを上にあげ気味に、快速ギターを聴かせた。譜面台に隠れて見えづらいが、たぶん全てがフィンガー・ピック。
 低音弦でベースパートを爪弾き、あとは和音とソロをめまぐるしく切り替える。ベース音はそっと撫でる程度。高音弦はきっちりとピッキングする。
 左手がめまぐるしく動き、装飾した。ざらりとかき鳴らし、コードとメロディが軽やかに切り替わって楽しい。
 
 中盤二曲はスズキが共演する、若手ミュージシャンの曲だそう。やはり物語性の強い曲。小森は初見だったようす。
 そもそもスズキや小森の志向がシアトリカルな音楽なのか、たまたまそういう曲調が続いたのか。どっちだろう。
 今夜はロマンティックに展開するメロディが多い。後半セットで選曲されたのも、そのタイプだったし。

 1stセット最後はスズキのオリジナル、"Free Way"。
 フュージョンのように複雑で爽やかな旋律だった。小森はたしかssで快調にソロを飛ばす。アンサンブルがすぱっと決まって小気味良かった。
 
 後半セットはスズキのオリジナルから。
 MCはさりげなく入った。寛いだ雰囲気の喋りで観客から笑いが飛ぶ。
 「ヒット曲だ」とスズキが主張したのが、加藤の"皇帝"。しかも次は林の"ナーダム"。渋さをイメージさせる音楽世界から、離れて演奏すると予想したので、意外な選曲だった。

 スズキのアコギで紡がれる土台へ、メロディアスなアドリブが乗っかり続ける"皇帝"。そしてスピーディな"ナーダム"。どちらも練られたアレンジだ。
 "皇帝"は穏やかなギターがしみた。"ナーダム"ではテーマがフェイクし、高らかに幾度もソプラノが鳴る。アドリブとテーマの行き来が抜群だった。

 次のスズキのオリジナルは"missing child"と言ったかな。中盤でギターもサックスも、完全無伴奏でソロ交換をやった。
 さらにもう一曲やって、2ndセットも終わり。アコギがひときわ力強く弦をはじいた。
 ここで小森が吹いたのはクラかな。首をぶんぶん降りながら、ひたむきにソロを取ってた小森の姿が脳裏に残る。

 アンコールの拍手がやまず、選んだ曲は"犬姫"。これをやるか。
 3フレにカポをはめたスズキはバッキング中心で、小森がソロをたんまりとった。
 フリーに殺伐と斬りあう雰囲気は微塵も無い。あくまでソロを交換し、アンサンブルを成立させる。
 
 スズキのギターは、めまぐるしくソロとバッキングが交錯するスリルがあった。ときにフラジオを取り混ぜ、小森もリラックスしたメロディを沸き立たせた。 
 このデュオ、音響のいいところでも聴きたいぞ。出来ればきちんとしたホールで。空気に溶ける残響は、さぞかし気持ちいいだろう。

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