LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/3/3   新宿 Pit-inn

出演:Ned Rothenberg+佐藤+高橋
 (Ned Rothenberg:as,b-cl,cl,尺八、佐藤允彦:p、高橋悠治;p,Comp)

 ネッド・ローゼンバーグのピットイン3days初日は、観客が8割の入り。もっと混むかと思った。
 この顔ぶれでの演奏は初めてだそう。挨拶代わりか、まずはネッドのクラリネット・ソロで幕を開けた。口をマウスピースにあてては離し、また咥えなおす。慎重にタイミングを測った。
 ぽんっと大きく、リードをタンギングで鳴らした。

<セットリスト>
1.Rothenberg(cl solo)(約10分)
2.  〃          (as)+佐藤(p)(約15分)
3.  〃          (b-cl)+佐藤(p)+高橋(Comp)(約20分)
4.  〃          (as)+佐藤(p)+高橋(Comp)(約5分)
(休憩)
5.Rothenberg(as)+高橋(p)(約10分)
6.  〃        (b-cl solo)(約10分)
7.  〃         (尺八、as)+佐藤(p)++高橋(Comp)(約30分)
8.  〃         (cl)+佐藤(p)++高橋(Comp)(約5分)
(アンコール)
9.     〃         (b-cl)+佐藤(p)+高橋(Comp)(約5分)

 ネッドを生で聴くのは初めて。ジョン・ゾーンに良く似たNYスタイルのフリーキーなサックス吹きだった。しかし彼ほど大胆さは無い。
 循環呼吸に軸足を置き、じわじわとシステマチックに音を続けるタイプのようだ。

 最初のソロは、正直かなり辛かった。ただでさえぼくは、木管のフラジオが苦手。鳥肌立っちゃう。これをえんえんと強調させ、循環呼吸で10分程度を息継ぎ無しに吹ききった。

 上手いとは思う。しかし呼吸法がいくら上手くても、音楽の出来とは無関係じゃないか。肉体の曲芸を見せられてる気分だった。
 おまけにフレーズがあまりにも単調。バロックみたいに同じフレーズを淡々と聞かせるのみ。アンビエントを狙うには、フラジオの音色が耳ざわり。この時点では、いまいちかと思ってた。実は。

 佐藤允彦が加わり、ネッドはアルトサックスへ持ち替える。野太い音はあんがいマシだが、メロディはやはり希薄だった。
 佐藤はネッドをたてるように、音数が少ない。探りあいで終ってしまった。
 しかし端整な佐藤のピアノは、単純に心地よい。
 テンション上げて疾走しない。けれどもずっと吹き続けなネッドの隙を縫い、きっちりソロを決めるのは佐藤のキャリアがなせる業だろう。

 高橋悠治がパワーマックで加わって、やっと音にメリハリ出てきた。
 どうやらマックに、各種ノイズやサンプリングのサウンドファイルを準備し、ランダムに再生してるようだ。波形そのものをリアルタイムでいじってなさそう。時に頬杖をつき、無表情で高橋はマウスを動かした。
 パンニングも含め、わずかなノイズが空間を埋める。

 バスクラに持ちかえたネッドは、ちょっと吹いては口を離し、二人の音を聴く。音そのものは親和性が無くても、スタンスそのものはセッションの形を成していた。
 やはり佐藤がアンサンブルの軸か。高橋もかなり自由にノイズを出していた。
 メロディを弾かず、ましてやリズムも出さない。どこまでもフリーなピアノだが、優雅な奏でるサウンドが心地よかった。

 1stセットの最大の聴き所は、最後のセッション。
 アルトに持ち代えたネッドが高らかにフラジオを出し、高橋のノイズが滑らかに絡む。ピアノががっちり二人を支え、妙なる瞬間だった。
 あっというまにこの曲は終ったが、魅力が凝縮されていた。

 もっとも今夜は2ndこそが聴きもの。ネッドのアルトと高橋のピアノで始まった。
 高橋のピアノは訥々と音を刻む。ときにたどたどしいほど。それがネッドのメカニカルなサックスと絡み、奇妙な味を出した。

 続くバスクラのソロは、かなり良い。ネッドは循環呼吸を駆使し、時にフラジオを響かせる。芸風はあんがい狭い。
 しかしバスクラは丁寧に鳴らされた。フレーズこそ単調だが、じわじわ音世界を広げる構成に力がある。
 やはり長めのソロだったが、時間はすぐにたった。

 今夜のクライマックスが、ネッドの尺八が活躍した次の曲。
 どの楽器よりも、ネッドは尺八の演奏が上手かった。ブレス・ノイズをほとんど効かさず、首を振ってきれいなビブラートを出す。こんな素直な尺八をはじめて聴いた。クラやサックスもこうやって吹いてくれたらなあ。 
 フレーズはシンプルだが、尺八を素朴に吹くスタイルそのものでカバーした。

 佐藤も高橋もがっちり組んでネッドと盛り上げる。途中でテンポアップして疾走する。フリージャズとはいえ、今夜は基本的に穏やかさを全員が保ってた。だからこそ、ちょっとしたハイテンポがメリハリをつくる。
 ネッドはソロだと、テンポもあまり変えないようだから。

 ふっと音が消え、長尺のセッションが終った。
 最後は本当に短く、息を整えるようなフレーズの交換で短くセッション。ステージの幕を下ろした。
 アンコールの拍手にも応える。バスクラをネッドは選び、軽く三人の出し合いでソロ交換ぽく絡み、すぐ終った。

 こういうライブはCDでは魅力が伝わらないと思う。ましてや今夜のステージそのままをCD化しても、退屈で耐えられないだろう。
 あちこち編集し詰めてこそ、幾度も聴き返すパッケージとして成立する。

 だからこそ。その場で聴くことの醍醐味こそが、肝心だろう。
 ステージ上でぽつんと三人が位置し、アイコンタクトも交わさない。
 なのに音楽のコミュニケーションは、さりげなくもしっかりと成立してる。ベテランぞろいだから構築できる、ゆとりを持った即興だった。

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