LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/3/1   江古田 バディ

出演:片山広明+渋さ知らズ
 (片山広明:ts、Guest::早川岳晴:b,泉邦宏:as,翠川敬基:vc、
  不破大輔:指揮,北陽一郎:tp,辰巳光英:tp,室舘彩;fl,川口義之;sax,
    立花秀輝;as,小森慶子;as,佐藤帆;ts,鬼頭哲:bs,斉藤良一:g,
    スガダイロー;p,中島さち子;key,倉持整;ds,磯辺潤;ds,関根真理;per
    渡部真一:MC,ちえ;舞踏,ぺろ:dance)

 まるで音楽の宴会みたいだ。むせ返る混沌と熱気が、ステージから大音量で降りそそいだ。
 『片山広明with渋さ知らズ』のレコ発ライブ。テーブル席がほぼ埋まる盛況だった。20時をゆうにまわったころ、おもむろにメンバーがステージへ上がる。
 今夜はレコーディング・メンバーとほぼ同じ編成。ゲストで早川岳晴と泉邦宏が加わった。泉が入った渋さを聴くのは何年ぶりだろ。

 スペシャルゲストで翠川敬基も加わる。渋さ知らズ本体に参加は初めてじゃなかろうか。しかしなんのもったいもつけず、不破が冒頭で「グリーンさ〜ん!」といきなり呼び寄せる。ごく無造作に、翠川がチェロを抱えてステージへ上がった。
 
 音が炸裂した。通常のビッグバンド・ジャズとも、渋さの音楽とも違う。
 力強く色気たっぷりなジャズだった。
 片山がステージへ登場する。ジャケット写真と同じ格好。スーツをびしりと決め、オールバックでサングラス姿だ。ぺろを従え、下手から中央へ進みサックスをがっちり吹いた。

 残念ながらこの日は、前方で聴いてるとPAがいまいち。音量がでかすぎ、音が割れまくり、こまかなアンサンブルはまったく聴こえない。ぼくは上手の席で聴いてたが、下手に立った渡部真一があおる声は、ほとんど聞き分けられなかった。後方席だと、かなりくっきり聴こえていたらしい。

 ともあれサウンドはパワフルで、いきなり心が浮き立った。中央に立った不破は腕をぶんぶん振り回し指揮を取る。
 まず片山と佐藤帆のソロ交換にオーケストラをかぶせ、豪快な音像を作った。

 不破は細かくソロを指示し、場面を切り替える。前半はオーケストラを細かく切り分けソロと対比させた。のべつまくなしに酒を飲み続け、後半セットでは、豪快に突っ走らせるアレンジに切り替える。
 とにかく不破自身が、今日のライブを思い切り楽しんでた。タバコをくゆらせ、満面の笑みを浮かべる。しまいには観客状態で、最前列に座って演奏を味わったりも。

 譜面をメンバーが使う、渋さにしては珍しい光景。片山を主役に立てたためだろう。途中から不破は自分の譜面をわしづかみにして、次の進行をメンバーへ知らせる。
 ついに譜面を床へぶちまけ、かまわずに演奏を続ける。小森慶子がソロのとき、「もっとフリーにやれ!」といわんばかりに、不破は譜面を奪い取り笑ってた。

 何年も前に聴いた渋さ知らズを思い出した。90年代後半は、このくらい奔放な音楽だったっけ。当時は植村昌弘がドラムだから、リズムがタイトに締まったが。倉持や磯部のドラミングはワイルドさが常に残る。関根がシャープに決めても、グルーヴはラフにうねった。
 往年の大騒ぎをもっとも演出したのが泉邦宏。もう、やり放題。
 ソロは吹きまくり、時に笛の二本吹きでぷかぷか鳴らす。最後のほうではタンバリンをばしばし叩き続け、演奏のムードをかまわぬ泉流を見せつけた。

 不破はメンバー全員に配慮し、細かにソロ回しを指示する。しかしどんなに長くソロをとっても、あっというまに時間立っちゃう。片山を主役に立て、かなりの部分で彼のソロを前面に出したためか。長丁場のステージだったのに、物足りなさが残る。
 
 オーケストラに初参加なはずの翠川の絡み具合は、予想したとおりちょっと辛い。いくらアンプを通しても、醍醐味の微妙なダイナミクスは、あのPAで味わうのがキツいだろう。
 不破はいくどか、翠川をソロで抜き出した。
 早川や片山とトリオで緑化計画を演出したり、静かなビートや鬼頭のバリサクをバックにしたり。しかし前者では探りあいで終ってしまい、後者でもビートが大きすぎる。
 不破は磯辺のビートを削ったり、バリサクのボリュームを極力下げるようにハンドキューを飛ばす。
 それでも、翠川の魅力を十二分に引き出せたとは言いがたい。イースタシアみたいな効果出るかと期待したんだが。

 後半セット最初では翠川を完全ソロにして、スガダイローのピアノへつなげた。
 もっとも期待もてたのが、小森慶子とのデュオ。小森はソプラノで応答したかな。探りあいで終わった感もあるが、この組み合わせはじっくり聴いてみたい。
 翠川も立ち位置に戸惑ったか、ソロ以外ではほとんど弾かず。楽器を持って、手持ち無沙汰に演奏を聴いていた。

 一曲目がガンガンに盛り上がり、"Mercy, mercy, mercy"へ。渡部がメンバー紹介をはじめ、短くソロ回し。それでも全員まで回さなかった。
 片山のテナーが強烈にブロウする。あまりテーマはフェイクさせず、メロディをキッチリ歌いきった。
 だからバッキンガムスを思い出す。何人かはシャウト気味にメロディに声を乗せてたが、あの歌詞を使ったらさらに面白かったのにな。

 続く"ハレルヤ"もホーン隊がごっそり揃ったアレンジで初めて聴いたため、すごく新鮮だった。ロマンティックさが極太の芯を備えて突き進む。
 ちえがゆっくりとステージへ登場し、うねうねと身体をくねらせた。
 そのまにぺろはワインを観客にねだり、グラスを傾ける。
 ワイングラスをもったまま片山に寄り添い、ポーズを決めた。

 さらに一曲、パワフルにきめて1stセットが終った。
 ソロはぐるぐる回る。まっすぐに吹ききった辰巳や、やたらフリーキーにサックスを立花がきしらせたのは前半だった。
 今日のギターは斉藤良一のみ。いつにもまして弦を切りまくってた。彼を見るたび、弦を張り替えてた気がする。

 後半セットでは、メンバーは三々五々ステージへあがる。なかなか全員が揃わない。
 いち早くステージへスタンバイした渡部は「休憩時間でずいぶんメンバーがへったな〜」と笑った。
 不破の指示で、数少ないメンバーのみの"My one and only love"が始まる。おもむろに片山がステージへ現れ、ソロをたんまり吹いた。

 耳が慣れたか、後半のほうがPAは聴きやすかった。とはいえ音量はやはりでかく、耳鳴りで細かなニュアンスはボケてしまう。
 泉らがネコの鳴き声をイントロにしたのは、"The cat"か。
 佐藤のサックスは片山と競り合うように強く鳴った。いっぽう小森はキュートなメロディを多用する。
 片山がソロを取ってると、不破がペロと社交ダンスを踊ったのは、ここだっけ。二人のダンスが、のちの伏線・・・?

 後半は4〜5曲やったかな。曲名は覚えてないです。ごめん。たしか"March"をやった気がする。
 川口はハーモニカも吹いたが、PAの関係でほとんど聞こえず。途中でソプラニーノも演奏してたはず。

 最後は"ひこうき"で締めた。関根か室舘が歌うと思ったら、なんと不破がマイクを引っつかむ。吼えるように歌い上げた。観客へも歌を促す。
 ここで早川が翠川へ楽器の交換を提案してるのが見えた。翠川は苦笑しながらチェロを渡す。嬉々としてアルコで力強く、チェロを早川は弾いた。
 翠川はエレキベースでじわりとビートを取る。彼のエレベ弾く姿、初めて見た。

 ぺろはステージへ片山へのバースデー・ケーキをもってきた。不破が横に置いたテーブル上の空き缶や携帯、譜面などを床へぶちまける。
 そこへ正座したぺろが、ケーキを観客へ捧げた。
 片山はソロを取りながら客席を練り歩き、コーダを迎えた。

 最後は"仙頭"。ちえや渡部が端から端まで客席前を駆け抜け、上手の壁を蹴って下手へ飛び戻る。
 全員がたちあがり、大盛り上がりでステージを終らせた。

 しかし。片山自身が物足りなかったようす。斉藤へリフを弾くように手まねした。
 不破が観客へ向かい、カウントとろうとしたら・・・軽快なリズムが一足先に始まる。苦笑する不破。
 
 斉藤のギター・リフ。不破はギター・アンプをどんどんフルテンにして、社長をあおった。
 観客がステージ前へ押し寄せる。"本多工務店"だ。
 モッシュって程でもない。しかしステージ上は混沌とした。
 小森や立花らがステージをおりて、吹きながら客席を練り歩く。
 
 客電もついたが、まだまだメンバーがステージを降りない。泉が「片山さん、演歌メドレーを!」とリクエスト。
 最初は笑って断ってた片山だが、ついに吹きだした。「しょうがねーなー」と呟いた早川がベースを持ち、ドラムは社長がつとめる。不破がつきっきりで、ドラムへなにやら指示をしていた。

 「今夜は渋さ知らずソシアルクラブです!」と不破が宣言。
 観客と社交ダンスまで始めた。ステージ上のメンバーはさらに多くなる。ドラムは関根が叩く。
 思いっきり自由に盛り上がり、いちおうの終わりを見せたのは23時30分。いやはやすごかった。
 今夜は片山を主役に立て、渋さとは違う音楽だ。もっとも泉や渡部の盛り上げかたは、以前の香りがぷんぷん漂った。こういうのもいいなあ。
 満面の笑みを浮かべて、楽しんだライブだった。 

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