LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/2/8   祖原 Cafe 楽屋

出演:ふかみあや 
 (ふかみあや:p,vo)

 一泊二日の福岡出張。上手いこと仕事が終り、いそいそライブへ。
 楽屋は地下鉄の西新駅から徒歩で10分程度。20席ほどの喫茶店。週に数回のレギュラーライブをやっているようだ。
 開演時間が21時からとずいぶん遅い。その時間から1ステージ、30分程度のライブを行うそう。
 
 店内は板張り。奥にアップライト・ピアノがある。
 ふかみあやは21時ちょっと前くらいに、店内へ現れた。マスターと話したあと、ライブの自作チラシを観客へ手渡しす。
 そして無造作にピアノの前へ座った。蓋を開け、鍵盤へ指を乗せる。同時に店内の明かりが消され、彼女にあたるスポット・ライト。
 前触れ無く、ごく自然にライブが始まった。

<セットリスト>
1.ひなた水
2.コイゴコロ
3.コトブキ
4.氷の魚
5.柘榴の曲〜青の女の子〜
6.空のうら
7.雨の中で
8.kikuchi
9.魚の話なんかやめて

 全て彼女のオリジナル曲。(1)はまず、ゆったりしたアルペジオを左手で奏でる。イントロは即興かな?じきに右手のメロディも乗る。くっきりしたメロディ・ラインが提示された。
 アップライト・ピアノが、ずいぶん深い音できれいに響いた。PAは使わず、生で聴かせる。ふかみは柔らかいタッチで鍵盤を押さえた。そっと、なめらかに。
 
 メドレーで(2)へ。ボーカルが優しく響く。ピアノの音より、いくぶん控えめ。ピアノと声が混ぜ合わすよう。
 アップライト・ピアノだから、歌う表情は良く見えない。しかしピアノが鏡のように、ふかみの顔をおぼろげに映した。
 冒頭の二曲は、先日行われたチェロとのデュオ・ライブと同じ構成だそう。(2)では彼女独特の、手のひらで鍵盤を押さえるクラスターが登場した。

 この店のトイレには、ふかみの手製カレンダーが飾られる。ほぼ2年位ぶん、あったかな。演奏の合間に、2月のカレンダーを紹介。
「黒田京子トリオのCDを聴きながら、描きました」
 にっこり笑って、抽象画の描かれたカレンダーを掲げる。
 
 (4)は歌詞つきの曲だが、この日はインスト。ドライブする左手が、右手のメロディをがっちり支えた。
 手のひらクラスターを合間に挿入する。手のひらで白鍵と黒鍵を交互に押さえるように弾いた。
 あくまでも優しく押さえるため、クラスターでも響きは柔らかく弾んだ。
 さらに"弥生弾き"と彼女が呼ぶ奏法も。こぶしを鍵盤の上で転がし、一種のクラスターを出す。
 ともすればノイジーなのに、あくまでも優雅に音を転がすセンスが独特で面白かった。
 
 一曲ごとに短いMCが入る。きちんと曲紹介もある、丁寧な進行だった。
 続く(5)は中盤へ"青の女の子"という、別曲のモチーフを挿入したそう。
 チェロとのデュオ用のアレンジをきっかけに、新モチーフの挿入で印象ががらっと変わった、と紹介する。
 右手で奏でるテーマの和音がくるくると変わる、美しい響きの曲だった。
 
 どの曲も即興があっても、数分程度で終ってしまう。インプロを延々と続けない。
 コーダへ到達した音をペダルで響かせたあと、次第に消えてゆく。
 名残惜しげに鍵盤から、そっと指を離す仕草。

 短い曲を続き、ステージはテンポ良く進む。この日はセットリストを作らず、その場で曲を決めたそう。
 (6)も歌いながら。ハイトーンはファルセットをとりまぜ、繊細にたっぷり声を伸ばした。ロングトーンから推測するに、本当はかなり声量ありそう。

 (7)をロマンティックにきめて、(8)へ。この"菊池"がインプロ好きなぼくには、今夜のベストだった。熊本県の菊池渓谷をモチーフに作った曲という。
 ダイナミックにスケール大きく、テーマからアドリブへみるみる展開。手のひらクラスターも、グリサンドも頻繁に挿入される。
 音楽のテンションがぐいぐい高まった。
 かなりアヴァンギャルドな演奏なのに、あくまでも響きは柔らかかった。

「何曲やったか忘れちゃいましたが・・・最後の曲です。"魚の話なんかやめて"」
 優しげなワルツ。ここまでペダルを多用したふかみだが、あえて響かせず。シンプルに演奏した。
 歌いながらピアノを弾き、中盤で手拍子を打つ。小節の終わりで裏を強調する、ちょっとひねったパターンだった。
 軽やかにコーダで、ライブの幕を下ろす。およそ45分のステージ。

 メロディに日本風味をほんのりと漂わすのが、彼女の個性だろうか。
 さまざまな方向性へ進化の可能性を感じた。
 クラスターを多用しても、おっとりと上品な世界が広がるのが独特。楽しいひとときだった。
 福岡がメインの活動なため、そうそう聴きに行けないが・・・東京でもライブやって欲しいな。

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