LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/2/5   新宿 Pit-inn

出演:南博GO THERE!
 (南博:p、竹野昌邦:ss,ts、水谷浩章:b、芳垣安洋:ds)

 Go there!の魅力を思い知った夜だった。いったい前に行ったライブでは、なにを聴いていたんだろう。
 それぞれの演奏だけじゃない。アンサンブルの妙味と、強靭なグルーヴにやられた。
 
 Go there!を聴くのは久しぶり。新譜レコーディングの進行とは関連なし。南博のMCは、曲目紹介くらい。
 自然体で、極上のジャズを演奏した。

 20時をまわった頃、メンバーが無造作にステージへ。まず、竹野のソプラノ・サックスが無伴奏でソロ。続いてピアノがそっとバッキングする。
 ドラムとベースは様子を伺う。ウッドベースを抱え、頬杖ついて水谷は音楽を見つめた。
 ひとしきりデュオが続いたあと。ふっ、と空気が揺れた。
 ジャストのタイミングでドラムとベースが加わる。その瞬間、背筋がぞくっとした。あまりのかっこよさに。

<セットリスト>
1.Oracion
2.Four distinction
3.December(?)
4.Windows in the sky(?)
(休憩)
5.Deep thoughts between the fourth
6.Serene
7.Peaceful destruction
8.Praise song
(アンコール)
9.Blue Monk

 一部あやふやなところあり。(3)は作曲した月か季節かの名前を、てらいなくタイトルにつけた曲。細かくは忘れちゃった。
(4)はキャスパー・トランバーグのバンドに提供した曲らしい。基本はGo There!の曲かな。(7)は新譜に入る予定とか。
 (8)は「未CD化」と言ったが、実際は"Body & electric"に収録された。(9)はセロニアス・モンクのカバー。

 個々の曲で感じたことよりも、ライブを通してのノリが印象に残った。
 とりわけドラムとベースのアンサンブルが最高。それにピアノが加わり、極上のジャズを作る。サックスのソロだって、もちろんかっこいい。
 だけどなによりも、ピアノ・トリオが作る音像にやられた。

 アンサンブルの芯をがっしり握ったのはウッドベース。
 水谷は椅子に座り、腿をウッドベースへ押し付けて弾く。ほとんど指弾き。興に乗ると前へ泳いでしまうベースを、ときおりぐいっと引寄せる。
 タイトなグルーヴを明確に確保した上で、奔放にフレーズが溢れた。
 ときおり、アルコで静かに低音を伸ばす。

 芳垣はリズムを愛撫するように、ドラムを操った。1タムのシンプルなセット。とにかく矢継ぎ早にスティックを持ちかえる。
 冒頭は鈴が付いた棒のパーカッションを、スティック代わりに使う。
 さらにマレット、通常のスティック、金属のブラシに硬質プラスチック(?)のブラシ。
 曲の間もそれらを、ひんぱんに交換する。フロアタムの上に各種の撥を乗せ、素早く滑らかに持ちかえるさまは爽快だった。

 ドラミングもさることながら、シンバル・ワークがとってもきれい。(2)の冒頭で金属ブラシを逆手に持ち、金具で縦にシンバルを素早くこすり下ろす。高い金属音が、涼やかに耳へ届いた。
 演奏された曲はどれも、基本的にミドル〜スロー・テンポ。怒涛のドラミングはほとんど無い。しかし曲によってはグイグイ盛り上がり、激しい連打も飛び出した。
 
 今夜の芳垣はあまり刻まぬ。ジャストのリズムだが、パーカッションのように細かくランダムなドラミングでせまった。
 だからこそベースのグルーヴィさがひきたつ。
 頻繁に芳垣と水谷はアイコンタクトで、演奏を展開させる。水谷は満面の笑顔でベースを操り、芳垣も楽しそうな顔を隠さなかった。

 二人の自由な演奏を、南はピアノでさりげなく盛り立てた。アンサンブルを作る。めまぐるしく弾き倒さない。さらに、みるみる変わる和音の響きが飛び切りだった。
 たとえサックスがソロを取るときでも、ピアノはフレーズ展開を続ける。同時進行でソロが進むかのよう。

 それはベースやドラムも一緒。基本はサックスかピアノのソロ。たまにベースのソロが織り込まれる程度。けれども常に全員で音を遊ばせるさまは、4人がてんでにソロを取ってるようだった。
 完全フリーじゃなさそう。滑らかな進行でサウンドはぐいぐい動いた。
 
 サックスのソロも、色っぽいフレーズがたんまり。テナーとソプラノを使い分け、竹野は旋律をつぎつぎ産みだす。
 強烈なブロウやフラジオはほとんど無い。冒頭こそサブトーンを含んだテナーも、ステージが進むにつれてふくよかな響きへ変わった。
 もっとも今日はほとんどサックスを聴いてなかった。実は。
 とにかくベースとドラムのコンビネーションに、視線が釘付けだった。

 まず(1)と(2)を続けて演奏。いつのまにか体がリズムを取り、のめりこむ。
 どちらも初めて聴くので、どう崩しているか分からず残念。

 休憩を挟んで、(5)はごく僅かな時間でコーダへ。後半セットの幕開けを示す、テーマソングのよう。
 (6)はアルバム"Celestial inside"から。自在な展開が良く分かった。どんどん演奏はラッシュして盛り上がる。
 サックスのソロがたんまり続いたところで、元のテンポでゆったりとテーマを奏でるピアノが、とってもダンディだった。

 アップテンポで盛り上がったのが(7)か。全員の演奏がみるみる熱くなった。
 冒頭は静かな展開。芳垣はかかとをフロアタムへ乗せ、ピッチを変えながら叩く。肘を押し付けたりも。しかしピアノやサックスのソロが高まると、いつのまにかスティックで力強くタムを叩きまくった。

 (8)でロマンティックに決め、メンバーはステージをいったん降りる。
 アンコールの拍手へ応え、ステージへ戻った。南や水谷は咥えタバコ。
「CDの宣伝・・・と思ったけど、1枚だけ持ってきたCDは売れたから、ぼくはいいや。水谷君、宣伝して」
 南はマイクを水谷へ渡し、楽屋へ戻ってしまう。手短に宣伝を終らせた水谷は、マイクを持って手持ちぶさた。
 そこへ灰皿を持った南が戻ってくる。
 「宣伝を譲ったんじゃなく、単にタバコ吸いたかっただけ?」と、メンバーが吹きだしてた。
 
 泰然と南はピアノを弾きだす。イントロから、フェイクまみれな"Blue Monk"のテーマに。
 メンバーは楽しげに微笑みつつ、演奏に加わる。リラックスした始まり方だった。
 水谷は指板の中ほどを押さえ、その上を強くはじく。コードをキープしてる様子だったが、スケールっぽいフレーズからアドリブに、すいすい変化した。
 ドラムは刻んでるうちに、スティックを取り落とす。しまいに何本もスティックをほおり投げながら叩いてた。

 演奏は正味で2時間強。すっごく濃密なひととき。
 この日は夜、ひときわ寒かった。だけど聴いてるうちに、体がぽかぽか。
 それほど温かくグルーヴィな演奏だった。

目次に戻る

表紙に戻る