LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/1/22   新宿 東京厚生年金会館 ウェルシティ東京

  〜Shinjuku New Year Jazz Festival 2006:新宿ピットイン 40周年記念〜
出演:What is HIP?、渋谷 毅 ORCHESTRA、佐藤允彦、日野皓正クインテット、
   辛島文雄ユニット、森山・板橋グループ、渡辺貞夫グループ

 新宿ピットイン40周年2daysのホール・イベント二日目。席は1回中央とまずまずを確保した。前日に比べ、音が段違い。最初は高音がキンキンするが、ステージが進むにつれて滑らかに鳴った。
 ほとんどのバンドで、音がふくよかに響く。PAが向上したか、席のためかはわからない。おかげでオーソドックスなジャズに浸れた。

What is HIP?+ ケイコ・リー
 (松木恒秀:g,野力奏一:key,岡沢章;b,渡嘉敷祐一:ds+ケイコ・リー:vo)

 このバンドははじめて聴く。山下達郎ファンとしては、一度体験したかった。全員が何らかの形にて、達郎のバックで弾いてたから。特に松木と岡沢の演奏に興味あった。
 
<セットリスト>(不完全)
1.  ?
2.  ? (〜+ケイコ・リー)
3.And I love her
4.Route 66
5.My love
6.You've got to a friend

 一曲目はWhat is HIP?だけのインスト。オリジナル曲かな。とにかく松木のギターが素晴らしい。エフェクターは強調せず、ブライトなトーンで弦をはじく。音数は多くないし、派手でもない。しかしリズム感が良くて、聴き惚れた。
 なぜかドラムが、コンマ数秒遅れて聴こえて残念。グルーヴが寸断される。曲調はフュージョンよりか。ジャズをキッチリ意識するが、洗練された音楽だった。

 2曲目で何の紹介も無く、無造作にケイコ・リーが登場。コード進行の凝った英詩の曲を歌った。曲名は分からず。ポップスかな。岡沢がチョッパーできめる。
 続いてビートルズの"And I love her"。女性が歌ってるためか、大サビのフレーズを"I love you"と置き換える。メロディまで。だからどうも違和感ある。ジャズ・ボーカルでフェイクするのはかまわないが、大本のメロディを根本から変えるのって、ちょっと違うのでは。

 ほんわか和んだ"Route 66"は、拍の頭で叩く杭打ちリズムが残念。なんでバックビートで叩かないんだろ。
 おまけに次はポール・マッカートニーの"My love"。演奏は上手いが、選曲はもうちょいひねって欲しかった。フェイクするボーカルは、もっと歌い上げれば好みなんだが。

 ステージ最後はキャロル・キングの"You've got to a friend"。観客から手拍子が起こる。ちなみに3拍目でのみ叩く、観客の拍手がおおいに戸惑った。約40分のステージ。とにかくギターが聴きものだった。

渋谷 毅 ORCHESTRA
 (渋谷毅:p,峰厚介:ts,松風鉱一:sax,fl,林栄一:as,津上研太:as,ss,
    松本治:tb,石渡明廣;g,上村勝正:b,古沢良治郎:ds
  +坂田明:as.酒井俊:vo)

 渋オケは結成二十年だそう。生演奏聴くのはひさびさ。メンバーが登場すると大きな拍手が湧いた。無造作にピアノへ渋谷が座る。馴染みのメロディがホール一杯に響いた。

<セットリスト>(不完全)
1.Great type
2.Ballad
3. ? (〜 +坂田明)   
4.Crazy love (+酒井俊)
5.Country life
6.Soon I will be done with the troubles of this world

 渋オケのテーマ曲ってイメージある、"Great type"から。ホーン隊へソロが回るが、あっさりめ。渋谷はピアノとオルガンを弾いた。
 ドラムが鋭く鳴る。張ったタムの音が心地よい。一気にステージが引き締まった。そして"Ballad"で雰囲気をリラックスさせる。

 最初のゲスト、坂田明は2曲目から登場した。渋オケでは前に、林のトラで聴いたことある。
 サックスではなく、マイクを手に持つ。盛大に唸り始めた。
 渋谷は腕組みをしてピアノの前に立つ。静かな趣で聴き入っていた。
 おそらく坂田明の曲だろう。ひとしきり唸った後、高速ソロを吹きまくった。彼はこのまま、渋オケのステージに最後まで残って演奏した。

 次いで現れた酒井俊が歌ったのは、ヴァン・モリスンの"Crazy love"。意外な選曲だ。ちょっとひねって歌ったが、ねちっこくはない。
 この一曲を歌って、酒井はあっというまにステージから去った。

 松風鉱一が冴えたプレイを聴かせたののが、自作曲"Country life"。フルートやバリトン・サックスを次々持ち替え、暖かいソロを取った。
 松本治がホーン隊へ合図し、カウンターでリフを入れる。繰り返し、繰り返し。ばっちり決まってた。

 ステージ最後はおそらく"Soon I will be done with the troubles of this world"。イントロはピアノのソロ。暖かい空気がステージから伝わる。
 きっちり渋谷のピアノを聴けたのは、ここだけ。ピアノのソロは控えめ。PAバランスもピアノは埋もれてた。むしろソリストをぐんと全面へ出す。
 ピアノ・ソロのあと、古沢良治郎がテーマを鼻歌する。そしてイントロを叩いた。
 ゆったりとテーマへ。ここでは峰厚介が美しいアドリブを吹いた。

 約50分のステージ。あっというまに時間がたった。"猫"をやらず残念。あのファンキーな曲を、大ホールで聴きたかったな。

佐藤允彦 plays Masahiko Togashi
 (佐藤允彦:p)

 登場前、ステージ後ろに富樫雅彦の写真が大写しになった。
 幕がするすると下りて、ステージは黒に包まれる。
 中央にグランドピアノが一台。すたすたと佐藤允彦が登場し、いきなりアップテンポのメロディを弾き始めた。場内の静寂が、ステージへ集中する。

「富樫雅彦は叙情的な曲を多数書きました。しんみりするのも何ですので、今日は違うタイプの曲を選びました。
 持ち時間は15分です。つまり、あと2分。喋ってないで、演奏しますね。」
 一曲目を5分ほどかけて弾いたところで、唐突に佐藤允彦が告げた。てっきり1時間近い、通常の持ち時間と思ってたから驚いた。

<セットリスト>
1.Monk's hat blues
2.Mr.Joke
3.The arch

 一曲目は富樫や佐藤が組んでいたバンド、JJスピリッツのテーマ・ソングだそう。
 他の曲もうねうねとグルーヴする、ファンキーな印象だった。
 スポットライトがまっすぐに佐藤を照らす。うっすらとスモークが漂った。

 予告どおり、15分程度のステージ。曲へ浸ろうと思った瞬間に終ってしまった気分。物足りない。
 ソロピアノの長丁場で進行がだれるのを、回避する演出は分かる。しかしせっかくだから、もっと聴きたい。佐藤のピアノも、富樫の曲も。
 たとえば翠川敬基をパートナーに富樫雅彦の曲を演奏ってセッションなども、面白かったんじゃないか。

日野皓正 クインテット
 (日野皓正:tp,多田誠司:as,石井彰:p,金澤英明:b,井上功一:ds)

 4〜5曲演奏。もろのハードバップな演奏。もっと尖った志向だと思ってたので、最初は戸惑った。アンサンブルはシャープで、スーツ姿がびしりと決まるダンディなジャズ。日野皓正だけじゃなく、サイドメンの音もぐいぐい前へ出た。

 1曲目の途中で、袖からいきなり別の男が登場。ハイハットを軽く叩きつつ、ドラマーの肩を叩く。刻んでたドラマーは立ち上がり、別の男と交替。 そのまま男は2曲目も叩いた。ところが3曲目あたりで、再び元のドラマーが戻り、またもや交替。なんなんだ、あれ。何かのパフォーマンス?

 ソロ回しがえんえん続く。45分の演奏が長く感じた。
 最後の曲で日野が、トランペットをグランドピアノへ向かって、ぱぁんと吹く。ピアノの残響で余韻がじわっと残り、きれいだった。

辛島文雄 ユニット
 (辛島文雄:p,池田篤;as,TOKU:Flh,Vo,井上陽介:b,ジョージ大塚:ds)

 ライブを聴くのは初めて。約45分のステージ。前バンド同様、オーソドックスなビバップ。このライブが初セッションな顔ぶれだそう。前衛じゃない。が、ベテランの底力を見せた。
 特にジョージ大塚。手数が多いわけでも、リズムがソリッドなわけでもない。なのに聴いてて存在感がびんびんつたわった。

 Tokuのフリューゲル・ホーンも、池田のサックスもカッチリしてる。アンサンブルが滑らか。もっと毒があるほうが好みだが。
 エルヴィン・ジョーンズに捧げた曲など、5曲くらいを演奏。Tokuの歌は3曲目かな。スキャット付で唸るが、ちょっと力任せな気も。

 辛島のピアノは紳士の雰囲気が漂った。響きがきれいなんだ、とにかく。
 軽やかに指が動くが、手癖で弾きすぎない。メリハリ利いた、上品なピアノだった。

 ラストの曲でジョージ大塚のソロを前面に出す。ポイントのみをびしりと叩くシンプルなドラムが、どっしり重く響いた。

森山・板橋 グループ
 (森山威男:ds,板橋文夫:p,林 栄一;as,井上淑彦;ts,音川英二;ts,望月英明:b)

 「いよ〜ぉっ!」
 森山威男が一声。シンバルをひっぱたく。それを合図に、演奏が始まった。
 森山・板橋 グループは30年ぶりの再結成らしい。猛烈なテンションに圧倒された。板橋だけじゃない。森山も。古くからの観客が多いのか、声援もすさまじかった。

<セットリスト>
1.アリゲータ
2.渡良瀬
3.サンライズ
4.グッドバイ

 すべて板橋の曲。初手から板橋はトップギア。せわしなく立ったり座ったりしつつ、鍵盤をひっぱたいた。冒頭のソロは林栄一。しかしソロを吹いてる間も、ピアノはアドリブで弾き殴る。まるでソロを同時に取ってるみたい。
 バッキングでは静かに刻む森山も、ソロのとたんパワーを炸裂させた。
 二人の濃い音に挟まれながら、きっちりグルーヴを紡いだ望月英明はさすが。ベースソロが無く残念。一曲目ですでに15分くらいたっていた。

 演奏された曲は全て、板橋のオリジナル。
「"渡良瀬"と"サンライズ"を続けてやります」
 板橋が継げたとたん、拍手が盛大に沸いた。

 ロマンティックな"渡良瀬"から、アップテンポな"サンライズ"へ。静かなピアノから叩き壊さんばかりのコブシによるクラスター。そしてひっきりなしのグリサンドまで。
 板橋は背中に汗染みを噴出させての熱演だった。
 ホーン隊も負けずにフリーキーなソロを取る。たしか"サンライズ"で、井上淑彦や音川英二もアドリブをたっぷり吹いた。井上淑彦は、がっしり地に足をつけたソロを取った。

 "グッドバイ"では、ピアノのソロが基本。ホーン隊やベースが交互にリフを入れて、盛り立てる。ピアノとドラムのデュオ、ベースが入ったトリオでも十二分に音楽は成立したろう。
 しかしホーン隊が入ることで、テーマの響きに幅が出る。ソロもどしゃめしゃで面白かった。
 
 どのくらい長丁場で演奏するかと思ったら。きっちり時間通りに終らせたのはさすが。約50分のステージ。
 普段のライブから考えたら、そうとうあっさり。けれどもパワーは凝縮して注がれ、濃密なライブだった。

渡辺貞夫 グループ
 (渡辺貞夫:as、小野塚晃:p、吉野弘志:b、石川雅春:ds、ンジャセ・ニャン:per)

 「一分でも一秒でもステージに早く上がりたいと言うため、よけいな前置きはしません。渡辺貞夫グループ!」
 シンプルな司会のコールで登場した渡辺貞夫。
 今年で73歳らしいが、かくしゃくたるもの。肩慣らし代わりの短い曲を皮切りに、10曲くらい立て続け。MCもほぼ無く、吹きまくった。
 オーソドックスなラテン・ジャズ。ブレスの間隔こそせわしないが、柔らかい音色でメロディアスなアドリブを次々提示する。
 バックの面子もタイト。かっちりと高速で弾く小野塚晃、そしてぶんぶんグルーヴさせる吉野弘志を軸に、さくさくステージが進んだ。

 メインはナベサダのアドリブだが、ピアノも積極的にソロを取る。
 さらにンジャセ・ニャンのファンキーなパーカッションも、グルーヴを強靭にした。
 ナベサダはほぼ、聴いたことない。こういう爽やかなジャズだったんだ。
 黒っぽさは皆無だが、フュージョンとは違う。バックのメンバーの演奏力も手伝って。着実なステージ進行。ナベサダは活き活きとサックスを吹いた。一曲終るたび、にこやかに笑って大きく両手を広げ、メンバーへエールを送る。

 演奏で圧巻だったのはンジャセ。ある曲では達者なアフリカン・ボーカルを聴かせる。セネガルの国立音楽隊のトップ・メンバーらしい。
 後半には無伴奏でジャンベのソロをたっぷりと。場内にビートが轟く。えっらい迫力だった。
 ナベサダは太鼓が立ち並んだンジャセの位置へ移動し、鈍く叩いてアクセントをつける。
 約1時間のステージ。たっぷり時間をつかってステージを終えた。結局20分押しかな。

 前日が今現在のジャズを集めたとしたら、今日は日本ジャズの奥行きを見せた格好か。ベテランミュージシャンがぞくぞく登場し、層の厚さと蓄積を感じさせた。
 めったにライブを聴かないミュージシャンを、次々見られた点でも充実した一日だった。

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