LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/1/21   新宿 東京厚生年金会館 ウェルシティ東京

  〜Shinjuku New Year Jazz Festival 2006:新宿ピットイン 40周年記念〜
出演:渋さ知らズ、三好“3吉”功郎ユニット、梅津和時 KIKI BAND、
   Pain Killer、室内楽団 八向山

 新宿の老舗ジャズクラブ、ピットイン開店40周年の記念で、二日間にわたってイベントが開催された。
 今日は初日。15時開演で、終ったのが21時半くらい。およそ6時間半の長丁場だった。しかしホールでの着席イベントなため、さほど身体は疲れず。もちろん面白くて引き込まれたってのも理由のひとつ。
 進行はせわしないくらい。個々のバンドが始まる前にベルが鳴らず、休憩時間が読めない。セットチェンジに多少時間がかかっても、ちょっと食事休憩するには短い。あっというまに時間がたっていた。

 キャパは1500人くらい。ステージも広いのに、どのバンドもこじんまりと使ったのが印象に残る。ライブハウスのステージ奥行きや幅に敬意を表したか。それともミュージシャン間のコミュニケーションや、セットチェンジの都合かなあ。
 "3吉"ユニットやKIKI Band、八向山は、もっと広々ステージを使ってもいいのに、と思った。
 それに2階席だと、客席からステージがあまりにも遠い。よけいライブハウスで見たくなった。ホールで演奏を聴くことで、なおさらライブハウスの楽しさが強調された。意図してないとは思うが。

 この日はちょっとした事情で、二階席からの観戦。
 PAはちょっと回り気味か。音の反響が良く、エレキギターのディストーションは、細かなフレーズを聞き分けづらい。冒頭の渋さのPAが、かなり物足りない。尻上りに良くなったが・・・。
 最後のバンドは某氏の好意で、最前列観戦。だいぶ音が違ったね。ぱあんと音が上へ抜けていた。

 バンドの紹介のみ、司会がきちんつとめた。この進行が、正統ジャズフェスな気分。オーナーの挨拶を挟み、まず渋さ知らズが紹介された。

渋さ知らズ
 (不破大輔:ダンドリスト,片山広明, 広沢 哲,佐藤 帆:ts,川口義之,立花秀樹:as、ヒゴヒロシ:b、
  小森慶子:ss、鬼頭 哲:bs、北陽一郎,辰巳光英:tp、高岡大祐:tuba、鈴木新:EWI、
  勝井祐二,太田恵資:vln、内橋和久,斉藤良一,大塚寛之:g、中島さちこ:key、
  芳垣安洋,倉持 整,磯辺 潤:ds、関根真理:per、室舘アヤ:fl、ペロ:dance、東洋組 、渡部真一)

 軽く吹きながら、メンバーがぞくぞくステージへ上がる。
 冒頭は"ひこーき"。不破はハンドキューで、ゆったりホーンの隊に音を伸ばさせる。東洋組が登場。袖から、客席からも。しなやかに身体をくねらした。
 関根のボーカルが伸び、室舘アヤの声がまとわりつく。片山広明のソロがじわっと響く。たおやかに幕を開けた。

 メドレーで"股旅"へ。アップテンポに盛り上がる。ステージがぐっと明るくなり、ペロがさっそうと上手から登場。なんと松葉杖をついた渡部真一まで。テーマにあわせ、渡部はマイクへ吼えていた。
 上からはオーケストラ・ピットを挟み、客席とステージに距離あり。しかも観客は誰も立たず、静かに聴いている。ここ最近の渋さから考えたら、すごく新鮮な絵面だった。
 どしゃめしゃな盛り上がりに欠けるが、ゆったり渋さを聴ける贅沢が嬉しい。

 各ソロはさすがに短め。まずは内橋和久が、ギターをざくざくかき鳴らす。続く太田恵資は、力強い即興歌声をフロア一杯に広がせた。
「40周年おめでとう!」
 シャウト一発。さらにソロはヴォイスからバイオリンへ。
 高岡大祐と小森慶子のアドリブへ。低音が豪快に響くが、ちょっとこもり気味で残念。ソプラノ・サックスのフレーズは、メロディアスに展開した。
 ホーン隊のリフがぐいぐいと押す。ドラム・ソリへ。芳垣安洋はジャンベも叩いてた。3人のドラムが勇ましく連打する。

 いったんホーン隊も加わったリフへ戻る。不破がぐいぐい盛り上げ、指を一閃。音を叩き切る。
 同時に川口義之のハーモニカ・ソロ。
 勝井祐二とデュオで、川口は吹き鳴らした。次第に楽器が増えて厚みを増す。小森が座ったまま、楽しそうに踊ってた。

 いくつかソロが続き、"仙頭"に。ちょっと長めのテーマ回し。渡部が中央でミュージシャンをあおる。
 約40分のステージ。"すてきち"を吹きながら、メンバーが退場した。あっけない。進行上、やむをえないか・・・。

三好“3吉”功郎 スペシャル・ユニット
 (三好“3吉”功郎:g、村田陽一:Tb、原朋直:Tp、
  井上陽介:B、村上“PONTA”秀一:Ds、仙波清彦:Per)

 仙波清彦の出す、鳥の鳴き声から幕を開けた。
 三好功郎の音楽ははじめて聴く。約一時間のステージ。
 フュージョン要素ある、洗練されたジャズだった。キメも多い。管の二人もさすがに上手く、綺麗な音が響く。ベースが粘っこく弾き、ジャズの香りを繋ぎとめた。

 全部で5曲くらい。ふだんのステージをそのまま取り入れた感触だった。ステージ中央にミュージシャンが固まって配置され、上から見てるとステージ袖の余白部分に寂しさが滲む。。
 サウンド・カラーでは、二日目が似合いそう。初日は藤井郷子や南博あたりをブッキングのほうが、統一感あったのでは。渋谷オケと入れ替えてもよかった。

 ともあれリズム隊。ポンタと仙波清彦。二人の演奏に釘付け。
 ポンタは生で聴くの初めて。がっしりした2バスのドラムを、スティックやブラシが踊るように動く。まるでタムの上を水が流れるよう。小節を感じさせぬ叩き方だが、音楽にぴたりと吸い付き、離れない。極上のリズムだった。

 仙波は小物をどっさり準備し、次々に叩きのめしては横に置く。オモチャ箱をひっくり返すようなパーカッションぶりだった。
 圧巻は最後のソロ。まずシェイカー類を軽快に振った後、テーブルに置いた金物をダブル・ストロークで高速連打しはじめた。右手一本で平然と打ち鳴らすスピードは、何度見てもすごい。

 続くポンタのドラム・ソロは連打しつつ、常に優しさの残るダンディなドラミング。仙波が合いの手を入れ、デュオになった。
 ソロ交換ではオレカマのフレーズが幾つか飛び出す。このリズムの掛け合いだけでも、聴く価値あった。

梅津和時 KIKI BAND
 (梅津和時:as,ss、鬼怒無月:g、早川岳晴:b、ジョー・トランプ:ds
    + 今堀恒雄:g)

 新ドラマー、ジョー・トランプが加わって初ステージだそう。ラフなところもある、パワー・ドラマー。しかしポンタのあとは分が悪い。誰が叩いても、リズムがラフに聴こえてしまう。アップテンポで叩きのめすさまはパワフルだった。

 梅津和時無造作に現れ、前置き無しにサックスを鳴らした。さすがの貫禄。ステージが小さく見える。
 袖のバリライト数本が動き、客席天井を明るく照らした。
 3曲目にバラードを挟み、小刻みに4曲演奏。ソロ回しを抑えながら、ソロは梅津も鬼怒もたっぷりとった気持ちになる。イベントを意識したスピーディな演出が、すごく良かった。

「今日の演奏は全て新アルバムに入ってます。物販にありますので、裏を見てください。曲名分かります。
 買っていただけると、じっくり曲名を眺められます」
 と、梅津は客を笑わせる。

 ゲストの今堀恒雄が登場し、さらに2曲を演奏。アップ・テンポを続けた。鬼怒とのソロ交換もあるが、さすがにあっさりめで物足りない。
 バッキングでストロークをしてるふうだが、ソロ以外での今堀は良く聞こえずじまい。
 最後は梅津がソプラニーノを吹き、鬼怒と今堀のソロがブルージーに続く。

 ここで早川岳晴の太いソロ。この日、早川がソロ取ったのは2回程度だった。ドラムはソロが無かった気がする。
 梅津のアドリブが終りかけたとき、大声で鬼怒のカウント。テーマへ雪崩れた。鬼怒の生声は二階席にまで届いたよ。
 約40分強のステージング。あまりにも短いぜ。

Pain Killer
 (ジョン・ゾーン:as、ビル・ラズウェル:b、吉田達也:ds、
  +近藤等則:Electric Tp、大友良英:g)

 
 前日までピットインで2daysをしてた、ペインキラー。これまで出演者の顔写真や、イベントのロゴ、スクリーンセイバーみたいな画像を映してた背後のスクリーンが隠される。
 三人だがステージは広々使った。横からライトをあて、赤めに舞台を染める。

 挨拶抜きで、ジョン・ゾーンはアルト・サックスをフリーキーに軋ませた。上手いと思うが、想定外まで進まない。フラジオや循環呼吸を延々続けた。
 ラズウェルはエフェクターをたんまり通し、シンセサイザーのような広がりあるベース。ぼくの席では音がもやけ、詳細は聴き取りづらかった。

 吉田達也のドラムは左横にサブ・スネアを起き、次第に手数が上がる。
 ペインキラーは初めてライブ見たが、どうやら完全即興みたい。闇雲に疾走を基本に、ときおり緩急効いかせ飽きなかった。

 最初、三人のみ。続いて近藤等則や大友良英が加わり、ノイジーにふくらむ。
 大友のギターは、なんとなく歪ませてるのが分かる程度。二階席には、上手く聴こえず。
 トランペットもゾーンとデュオで吹くのに、互いがてんでに演奏するため音塊となって拡散してしまった。あくまで、二階席の印象です。

 ラズウェルはなにが面白いのか、ずっと客席に背を向け吉田を見つめる。最後の方ではファンキーなオスティナートを弾いてたが、吉田はかまわずフリーに叩く。

 吉田のボイスは無し。マイクが一本だけ余分に立ってたが、ボーカルではなくエフェクト用だった。中盤でシンバルやタムの打音をショート・ディレイで飛ばす。ちょっとしか使わず残念。もっとあちこちで挿入して欲しかった。

 4曲くらいやったかな。
「アリガト〜!」
 ゾーンが一声上げ、さっとステージを去る。約40分のステージ。コンパクトだが、ステージとしての完成度は高かった。過不足なく終った気分。

大友良英 ニュー・ジャズ・オーケストラ
 (大友良英:g,指揮、カヒミ・カリィ:vo、アルフレート・ハルト:ts,Bcl、
  津上研太:as、大蔵雅彦:as、青木タイセイ:tb、石川高:笙、
  Sachiko M:Sine waves、宇波拓:PC、高良久美子:Vib、
  水谷浩章:b、芳垣安洋:ds,tp、近藤祥昭:sound + 菊地成孔:ts)

 セットチェンジに時間かかり、やっとONJOの始まり。ゲストの菊地成孔は、冒頭からメンバーの一員のようにステージに座ってた。
 まず"Eureka"。
 大友がギターを爪弾き、カヒミの歌声が静かに。
 水谷浩章のベースが強く唸りを上げ、トランペットを吹いてた芳垣安洋がドラムへ座りなおす。

 テーマは津上研太が口火を切り、菊地成孔が続いた。津上がテーマをゆったりフェイクさせ、菊地は冒頭から自在にアドリブを続ける。野太い響きが素晴らしい。
 この日で一番、ふだんのライブと同じ色合いを見せたのがONJOだった。3吉もそうかな?聴いたことなくて比較できない。
 長丁場でじんわり疲れた身体には、かすかなサイン・ウエーブのみが響く音像よりも、もっと刺激が欲しい。しかしPAは彼らが抜群。二階席まで綺麗に細かな音が聴こえた。笙がちょっとこもったくらい。

 じっくり"Eureka"を20分ほど。"Something Sweet Something Tender"にうつる。ホーン隊がけだるいテーマを、滑らかに提示。
 冒頭のソロはアルフレッド・ハルト。宇波拓のカタカタ言わせるスピーカー・パーカッションだけをバックに、青白いソロを紡いだ。
 全員が同時演奏ではなく、大友のキューでメリハリつけたアレンジ。サインウエーブと笙だけの、静寂もたっぷり保った。
 この曲も20分くらいやってた。大友は音の響きをたっぷり楽しむ。

 いったん袖に消えたカヒミは、たしかエンディング部分で戻った。菊地の物悲しいサックス・ソロの横で、フランス語の呟きを乗せた。 

 続く"Gazzelloni"は明らかにショート・バージョン。サックス隊のソロがさくさく回され、芳垣はドラムを雷のように打ち鳴らした。
 最後が"Out to Lunch"かな?カヒミの呟きをインサートしながら、大友は額に指を幾度もあて、キューを次々飛ばす。
 菊地のソロをひたすら続け、バンド全体で一打ち、また一打ち。大友はギターを横に置き、指揮を行った。

 やがてテーマへ。ハルトはソロでバスクラをばらばらに解体し、ネックだけで吹いていた。大友もギターを構えなおす。
 60分強のステージ。今夜、一番長かったと思う。それだけ密度の濃い、味わい深いライブだった。

室内楽団 八向山
 (山下洋輔:p、向井滋春:tb、八尋知洋:Per
  + 早坂紗知:as,ss、川嶋哲郎:ts)

 八向山は初めて聴く。山下洋輔はベスト姿で颯爽と登場した。安定したステージングだった。
 向井滋春のソロを存分に聴かせ、ピアノのソロ。クラスターも登場するが、基本はオスティナート多用でポップだった。もっと破壊的なジャズをやるかと思った。顔ぶれからありえないか、それは。
 
 2曲目の"八向山"で、ゲストを二人とも呼ぶ。軽快なテーマからアドリブ回しに繋げた。"八向山"が終ったとたん、「今日最後の曲です」と向井が言う。まだ20分しか立ってないのに。

 3曲目の向井の曲で、存分に各人のアドリブが聴けた。
 早坂紗知は黒尽くめに赤いミニスカートの、ステージ栄えする衣装。循環呼吸しながらアルトサックスをぎいぎい鳴らし、しまいにソプラノと二本吹き。豪快なアドリブだった。
 川嶋哲郎はいくぶん抑え目。メロディをしっかり捉えるが、破綻はしない。
 向井もふくめ、存分にソロを回す。進行がジャズの王道っぽい。サウンドでは、フリー要素も強いんだが。

 ソロ回しでは、早坂はほぼ無伴奏。向井は八尋知洋のバッキングのみで吹く。カホンも取り入れ、軽快なビートでジャンベを八尋は叩いた。
 手で叩くことがほとんどだが、竹のスティックでシンバルを打つとき、破片がぱぁんと宙へ舞う。
 八尋のソロでは、足につけたブラジルのパーカッションもコミで、盛大なリズムをばら撒いた。

 あっさりとコーダに。約40分のステージ。てきぱきとステージを去る。アンコールはなし。若干タイムテーブル押したが、まさか山下が時間調整したわけじゃあるまいな。
「お祭りですから」って山下のコメントがステージのありようを象徴した。コンパクトでありつつ、ミュージシャンをしっかりアピールする。こういうステージが出来ることが、キャリアであり実力のなせる業だろう。
 
 ともあれピットインの夜の部で聴ける、尖ったミュージシャンを集めた夜だった。だけどこれでも全員じゃない。さらに昼の部にも様々なミュージシャンがいるだろう。これからどんなジャズが産まれるんだろう。

 アンコール無しでもおなか一杯。最初は各ミュージシャンが、普段の1ステージを切り取った、のんびりな進行を予想してた。しかしセットチェンジに時間かかったためか、どれもコンパクト。聴き足りなさが残る。6時間もぶっ続けでライブ聴いてたのにね。
それぞれがコンパクトなステージであるがゆえに、好奇心を刺激された夜だった。

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