LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/1/19   大泉学園 in-F

出演:太田+壷井+喜多+鬼怒
 (太田惠資:vln、壷井彰久:vln、喜多直毅:vln、鬼怒無月;ag)

 太田恵資が開催を密かに(?)進める企画、"バイオリン・サミット"の前哨戦で本ライブが企画されたらしい。
 司会は太田がつとめる。店内は立ち見がギッシリの超満員だった。

<セットリスト>
1.インプロ
2.マサラスコープ
3.夢
(休憩)
4.板橋区
5.ファースト・グリーティング
6.モスクス
(アンコール)
7.カントリー

 まずは太田の提案で、バイオリン三人だけによる即興から。最初から力がこもり、終った直後に太田は腕をぶんぶん振っていた。充実した演奏に、顔をほころばせながら。
 鬼怒無月は腕組みしてドアに寄りかかり、3人の演奏を興味深げに聴いていた。

 最初は三人ともアコースティック・バイオリンを持つ。マイクの使い方が、全員微妙に違う。太田はいつものようにマイクで拾い、壷井彰久はピックアップのついたアコースティック・バイオリン。そして喜多直毅はコンタクトマイクで音を増幅させる。
 喜多がもっとも鳴っていた。アンプのバランスか、僕が聴いてた位置のせいか、壺井の音がこもりがちに聴こえた。

 三人三様のアプローチを、改めて実感。太田と喜多が積極的にアドリブを取る。もっとも奔放に弾きまくったのは喜多。身体を大きく揺らしながら、ロマンティックな旋律をばら撒いた。
 壺井はピチカートを多用し、ベースラインを確保する。
 中盤で太田と壺井はエレクトリック・バイオリンに持ち替えた。すると壺井のボリュームも若干上がる。エンディングで太田は再びアコースティックへ。
 最初の即興だけで20分くらい演奏してたろうか。冒頭からいきなり、膨らみある演奏だった。

 続いて太田の"マサラスコープ"を、鬼怒が加わって演奏。鬼怒はこの日、ガットギター一本で全て通した。
 ソロも取るが、一歩引いた格好。リフを切れ味鋭く決めて、3人の演奏を盛り立てた。

 何度もライブで聴いた"マサラスコープ"。しかしテーマが奏でられたとき、あまりのかっこよさに背筋がぞくっとした。
 冒頭のメロディは太田が弾き、喜多が加わって微妙にハモらせる。テーマの中盤は壺井が伸びやかにエレクトリックで弾く。
 そして最後のテーマはバイオリン3本がユニゾン・・・。滑らかでふくよかで深みがあって。バイオリンが重なった響きが、べらぼうに優しく耳をくすぐる。

 3人がソロに突入すると、アドリブは果てしなく展開する。喜多はがっつんがっつん弓でバイオリンを叩きながら、情熱的なフレーズをたくさんばら撒く。
 太田は自在にメロディを花開かせた。壺井はベースラインを押さえつつ、ソロではエッジの整った旋律を美しく奏でた。

 鬼怒はメカニカルなソロをめまぐるしく展開。がしがしアコギをかき鳴らす。壺井のバックではマシンのようなリズムで刻み、サイケな雰囲気を提示した。
 全員のアドリブが思いっきり展開し、やがてテーマへ。三人のかもし出すユニゾンの響きは耳をがっしり掴んだ。
 
 喜多の曲"夢"も圧巻だ。ふくよかなテーマもさりながら、アドリブが飛び切り際立つ。
 太田はエレキとアコースティックのバイオリンを細かく弾き分ける。さらにタールを持ち出し、軽く打った。
 そしてなによりも。ソロの途中で、情感たっぷりに歌いだす。カンツォーネ風かな?ヨーロッパ調の即興歌が延々続き、終ったときには大きな拍手が飛んだ。

 鬼怒が自らのソロで、思いっきりチョーキングを聴かせたのもここか。ネックを逆手に持ち、思いっきり下に押し下げる。
 弦二本分くらい、チョーキングしてた。豪快な技がシャープなストロークで鋭く鳴った。

 短い休憩を挟み、喜多の曲"板橋区"から。何度かライブで聴いてたが、バイオリン三本での響きは格別だった。
 ギターソロでは、胴ギリギリの部分をかき鳴らす。右手はボディ中央で弦全てをミュート。がっちり弦を押さえ込み、ピックが弦を激しくはじく音だけが、リズミカルに強く響いた。

 壺井の曲"ファースト・グリーティング"は、先日完了したというeraの新譜へ録音されたそう。鬼怒が抜け、バイオリン3本だけで演奏された。
 最初は太田の横に立ち、鬼怒が譜面を覗き込む。

「なんかダメだしされそう・・・」
「レコーディング終ったし。隅々までこの曲のことは知ってますよ」
 ぼやく太田へ、鬼怒がにやりと笑った。結局、鬼怒はコートを手に店外へ。外でタバコを吸いながら聴くかたちになった。
 
 滑らかでクラシカルなメロディを、壺井はゆったり弾く。バイオリン三本だと美しさが際立つ。
 喜多は中央で大きく身体を揺らし、泰然と演奏を続けた。一番のびのび弾いてるよう。太田はアンサンブルを意識しながら、合間にソロをさしはさむ。
 ソロの途中、喜多が「もういいかい、ま〜だだよ」のフレーズを軽く弾いた。太田は「鬼怒に『戻って来い』って知らせ」と解釈し、壺井は「バッキングはまだか、って催促と思った」という。真相はいかに。

 2曲やっただけで、かなり時間がたっていた。とにかくインプロがどんどん発展、止まらない。
 ちょっと相談して、演奏したのは太田の名曲「モスクス」。猛烈なスピードでテーマが演奏された。

 鬼怒はテーマをユニゾン気味に弾きながら、ポイントで強くストローク。すぽんっと音を止め、ブレイクで曲を盛り上げる。
 エンディングへ向かって、テンポがどんどん速くなる。飾り音符まで弾ききる太田、勢いでつっぱしる喜多。冷静にフレーズを重ねる壺井。三者三様の弾き回しが面白かった。

 アンコールの拍手が、店内一杯に響く。演奏されたのは鬼怒の"カントリー"。壺井も太田もアコースティック・バイオリンに持ち替え、軽快に疾走した。
 圧巻は最後のソロ回し。8小節くらいでソロ回しするが、全員がみるみるテンポを上げる。相手に繋ぐとき、必ずテンポ・アップ。小節数は4小節から、もっと短い掛け合いに。
 崩れそうになりながら、それぞれ猛烈な高速フレーズを弾き倒すさまに圧倒された。
 
 バイオリン・サミット前哨戦にふさわしい、めちゃめちゃ濃いライブ。
 三人の個性が強いぶん、絡み合ったときの溶け方が素晴らしい。
 本番ではさらにバイオリンを増やし、バック・バンドも一通り準備するそう。出演者の候補を言ってたが、交渉を済ませてないそうなので、ここでは伏せます。
 実現したら、一騎当千の顔ぶれが勢ぞろいの、壮烈なライブになりそう。ぜひ、聴きたいなあ。

目次に戻る

表紙に戻る