LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/1/15   渋谷 La-Mama

出演:JOHN ZORN'S COBRA 東京作戦2006 新春部隊
 (大熊亘:cl、植村昌弘、ds、四家卯大:vc、関島岳郎:tuba、中村仁美:篳篥、
  長須与佳:琵琶、ナスノミツル:b、横川タダヒコ、vln,PC、大野由美子:synth、さかいれいしう:vo、木ノ脇道元:fl、巻上公一:プロンプター)

 コブラをラママで見るのは03/9/13ぶり。開催もそれ以来かな。
 客席はギッシリ満員だった。出演予定だった青木慶則はインフルエンザで欠場だそう。少なめな人数のぶん、各人の個性がより強調されて良かった。

 各セットが5〜6ゲームくらいで、2時間弱。冒頭のゲームこそ探りあいっぽかったが、2ゲーム目から濃密な即興が続く、良いコブラとなった。
 殊勲賞は植村昌弘だろう。陰のオーガナイザーとして、ぐいぐいゲームを引っ張った。
 メロディアスな即興を誰かが始めると、腕を横に広げて「もっと膨らまそう」って、独自のサインを巻上へ送る。巻上が意を汲んで、他のサインを止めるシーンもしばしば。後半のゲームでメモリー番号を巻上が勘違いしたとき、すかさず口パクで訂正したりも。

 他のメンバーもルールに慣れており、進行に戸惑いが無い。その分、じっくり即興を楽しめた。
 全般的にメモリーが頻繁に登場し、カットアップも綺麗に決まった。

 植村はシャープなドラミングも決めたが、むしろ進行に軸足を置いたプレイ。横にいたナスノミツルと組んでグルーヴィーなリズムで走る瞬間がいかしてる。前半の2〜3ゲーム目くらいかな。
 頻繁にゲリラにもなったが、ソロではなくアンサンブルを志向する。自分を含まぬデュオや演奏交換をひっきりなしにサインした。

 ゲリラ暗殺のサインも送る。四家卯大がゲリラのとき、植村はさりげなく斬首を巻上へ送った。ハテナマークのカード、久しぶりに見た。四家が慌てふためき、結局当てられず。ぺろっと舌をコミカルに出した植村の表情が印象に残った。

 四家卯大は対照的に、ソロを巧みに織り込む。拡散気味だった最初のゲームで、ゲリラに立候補。ゆったりとソロを決め、音像を落ち着かせた。
 サインも積極的に出す。前半の別ゲームでは長須与佳や中村仁美、木ノ脇道元らと組み、クラシカルな音世界を巧みに作った。
 
 大熊亘は割を食うシーンが多かったと思う。サインを送っても採用されないケースも幾つか。クラリネットのソロもあまり目立たず、むしろ小物へ切り替えて演奏してた時間のほうが長そう。

 圧巻は後半最初のゲームか。大熊は新聞を読み上げ、くしゃくしゃに投げ捨てるパフォーマンスを披露する。だれかが面白がって、メモリーを指示。その瞬間の呆然とした顔がすっごく可笑しかった。
 恨めしげに床を眺めるが、投げ捨てた新聞は取れない。仕方なく手持ちのきれっぱしの新聞をくしゃくしゃするもんだから、見かねた横川タダヒコやさかいれいしうが、床の新聞を拾ってたっけ。

 あとは帽子。大熊はずっと帽子をかぶったまま演奏する。ゲリラのときどうするかと思ったら、緑のヘアバンドをつけた別の帽子にかぶり直して爆笑だった。

 ヘアバンドはナスノミツルも変なつけかたしてた。わざわざ頬かむりのように顔の真ん中へ、大真面目な表情でくっつける。
 ナスノはエレベとエフェクターを準備。一番大きな音だった。
 後半の2ゲーム目だったかな・・・じわじわと低音をなぞるテーマがメモリーされた。次のメモリーは、エフェクターを使ったディストーション。すぱすぱそれらのメモリーが交錯され、慌てながら弾き分けていた。
 サインよりもむしろ、柔軟な演奏のほうが印象深い。

 関島岳郎がその点、バランス取れてたかも。最初こそチューバを吹いてたが、前半3ゲーム目くらいから、もう横においてしまう。
 リコーダーやポータブル・シンセのような楽器を次々取り出し、自在な演奏を聴かせた。

 サインも積極的。あれは後半3ゲーム目だったか。ひっきりなしにサインを飛ばし、次々に音楽を切り替える。自らはポータブル・シンセでドローンを出し、メモリーさせた。自分の出す音をアクセントに、膨らみある即興をつくって、コーダのあとで巻上が大きな拍手をした。

 そのゲームのあいだじゅう、ずっと悲しそうな表情なのが不思議。顔をくしゃくしゃにさせ、もどかしさ一杯にサインを飛ばしてた。
 あと、音をスライドさせる指示のとき。関島は一生懸命にリコーダーをしごいてたのを覚えてる。音出てたんだろうか、あれ。

 最初は慣れなさそうだったが、後半にぐんと前へ出たのが木ノ脇道元。後半最初のゲームで、いきなりゲリラに。
 中央へ歩き、飛び切り大きなフルートでひとしきりソロを取った。全員がフリーに演奏が始まっても、片端から親指で切ってしまう。メロディアスじゃないが、なんだかぴたりとハマってた。

 コミカルなボイスを聞かせたのがさかいれいしう。ぐいっと前へ出ることは少ないが、ときおりボイスの応酬でアクセントとなった。
 コブラはどのくらい馴染みだろう。横に座った中村仁美と組んで動いたイメージが強い。ボイスだけでなく、小物も使用してた。

 中村仁美は最も上手に座る。篳篥の渋い音色を伸びやかに聞かせた。一番下手に座った長須与佳とデュオった時の、純和風な響きがきれいだった。
 下手側で聴いてたため、細かいところは見えず。幾つか楽器を持ち替えたみたい。

 長須与佳の弾く琵琶の音色は面白いが、コブラを引っ張るまでは行かず。後半最初のゲームで、朗々と謡を唸ったのはさすが。
 四家や横川ら、弦同士での相性は良い。前半ゲームで四家と連れ立って、ぐいぐい弦をはじき倒した瞬間はスリリングだった。
 ゲリラになるとき、やたらヘアスタイルを気にしてたのは、女性ならではか。髪の毛をさんざん撫でつけ、結局ヘアバンドせずにゲリラをやっていた。

 大野由美子もあまり前面に出ず。関島のミニシンセとペアで音像を作ったシーンを、ぱっと思い出す。ほとんどサインも飛ばさなかったな。比較論だが。
 植村や大熊、四家や関島にナスノと、個性を存分に出したミュージシャンに埋もれてしまったかも。

 地味な動きながら、決めるところは決めたのが横川タダヒコ。前半ではバイオリンを弾くが、後半はラップトップやボイスの印象が強い。ただしラップトップが出す音は、今ひとつ識別付かなかった。
 マイクはエフェクターをかましてるらしく、ディストーションを思いきり効かす。

 後半最後のほうのゲームで横川は、ボイスを始めたさかいに、マイクを渡して音加工する。あまり効果は分からなかったが。
 次に関島の足元へマイクを置きはなつ。同じくぼくの耳には、上手く聞き取れなかったけれども。しかし他のミュージシャンの行為を巻き込む方法は、今日のメンバーで唯一だったろう。

 あまりテンポアップはせず、じっくり即興を膨らます場面が多かった。いかしたフレーズでると、巻上は楽しそうに身体を揺らす。
 エンディングもコーダありのほうが多い。たまにある、飛び上がってのカットアウトは見られなかった。

 音楽がおふざけや有名曲の引用に留まるシーンは、ほぼ無い。それでいてユーモアあふれる即興だった。
 後半ゲームが終っても、拍手がやまない。
 
 アンコールでは、植村が真っ先に手を上げた。
 まっすぐ巻上を指差す。演奏に加わらないそぶりの巻上は、負けじと植村を指差す。
 しばらく二人のにらみ合い。植村は一歩も引かない。
 根負けした巻上は苦笑し、早口でボイスを叩き付けた。植村のドラムが応える。二人の音交換は、全体の演奏と交換で進行した。

 巻上はカードを振り下ろすたびに、違うアプローチのボイスで応酬。
 アンコールらしく、スリリングかつ猛烈に駆け抜けて幕を下ろした。

 久しぶりに聴いたけど、やっぱり面白い。コブラはミュージシャンの力量によって、出来がかなり左右される。けれどもアンサンブル志向で、個々の演奏も全体像も弛緩せず、すっごく楽しめた。

 4月に次回、5月にはジョン・ゾーンを呼んでのコブラが可能性あるらしい。ぜひ実現させて欲しい。それともう少し広いハコでやって欲しいな・・・。今日も超満員だったもの。

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