LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

06/1/14   渋谷 O-EAST

出演:渋さ知らズ
 (ダンドリスト:不破大輔、ゲスト:カルメン・マキ、
  ミュージシャン、舞踏:いっぱい)

 場内ぎっしり満員。スタンディングで格闘する体力無いし、一階席後ろで聴いてました。若いファンを中心に、幅広く詰めかけたようす。
 18時半開演と、渋さにしてはえらく早い幕開け。そのためみっちり3時間の演奏を堪能できた。ミュージシャンは30人弱かな。

 ドラムは3人かな。あと、関根真理他、パーカッションが複数。ベースはヒゴヒロシか。遠目で見えませんでした。
 PAで楽器バランスを取っており、ソロはくっきり聴こえる。ところが低音やリズム楽器は、後方スペースだとモコモコしてしまう。ハイハットはほぼ聞分けられず。意図的なものだろうか?

 不破の指揮についていけず、PAやスポット当てが遅れるシーンが散見された。明らかにソロを取ってるのに、マイクが生きないシーンも幾つか。太田恵資のアラビック・ボーカルなんて、まったく聴こえなかったもの。枝葉末節かもしれないが、惜しい。

 学園祭などでなく、きちんと渋さ知らズが仕切るライブホール・コンサートは久々に聴く。たぶん03年5月ぶり。あのときよりグッと、エンターテイメントを意識した、オーケストラの統率が取れたアレンジに大きく変化した。

 不破の指揮がぐっと細かくなり、アンサンブルはすっきり整理。03年5月時点のように、ソロが同時多発する複雑なアレンジから、ソリストを前面にじっくり立たせ、バッキングでオーケストラが整然とリフをぶつける構成が多かった。
 演奏と舞踏とペインティングとVJと。さまざまなパフォーマンスが総力戦でベクトルをあわせ、とびきりのエンターテイメントを成立させた。
 
<セットリスト>(不完全)
1.?
2.股旅
3.火男
4.ひこうき
5.Lilly was gone with windowpane(With カルメン・マキ)
6.?(With カルメン・マキ)
7.世界の果ての旅(With カルメン・マキ)?
8.ナーダム
9.本多工務店のテーマ
10.千頭
11.すてきち

 セットリストはかなりあやふや。曲順ちょっと違う気がする。もう1〜2曲やったかも。

 客電が落ちステージ後方に、骨折のカルテが映される。画面が流れ、病院のベッドに寝転んだ男に変わった。はっぴ姿の渡部真一だ。観客がどよめく。入院してたんだ。大写しな、渡部の顔。
「すまんな。こういう状態だ。個室じゃないから大きな声は出せないが・・・紹介しよう。・・・We,are,渋さ知らズ・・・オーケストラ!」
 小さい喉声で前口上をぶちかました。

 二階席後方から、リフが聴こえた。ホーン隊が登場し、練り歩く。階段からフロアへ。ステージへ向かった。袖からもメンバーは次々に舞台にのる。 不破大輔が現れ、咥えタバコでハンドキューを飛ばした。
 
 一曲目は新曲かな?シャープなビッグバンド・リフのメロディ。中央で室舘アヤが激しく踊る。東洋組が幾人も現れ、花道も使いムードを盛り上げる。さやかとペロも姿を見せた。
 威勢の良いテーマから真っ先にソロを取ったのは、中央に陣取った片山広明。がっしり立って力強いブロウをたんまりと。ぐいぐいテンションが上がる。

 この日はソロをじっくり聴かせ、前半どれもが1曲あたり30分に渡った。渡部の不在で図らずも、演奏に軸足置いたステージとなった。
 
 印象深いソロは山盛り。太田恵資は一曲目から、無伴奏ソロを指定された。赤いエレクトリック・バイオリンを弾く。なんだかソロの鳴りが硬質だ。ステージ後半で青の方へ持ちかえると、ふくよかなフレーズが満ちる。楽器で弾き分けたのかも。
 別の曲で太田は小森慶子と掛け合いのソロをとった。サイケな香りが漂う。小森はソプラノ・サックスだったかな。互いに探るフレーズが、やがて厚みを増していった。

 立花秀輝は辰巳光英とツインのソロ。彼の硬質なサックスがトランペットと融け、痛快に響いた。高岡大祐はチューバでぶいぶいと、地鳴りのような低音アドリブを決める。
 バックのホーン隊は広沢哲や鬼頭哲らが主につとめた。勝井祐二はするすると音を滑らせる。ハコが大きいせいか、エコーの響き具合が心地よい。
 
 テーマへの戻り具合はダイナミック。ひっきりなしにタバコを吸う不破の指が幾度も折られ、一閃。すぱっと場面が切り替わる。
 単独ソロだけでなく、複数のメンバー指定も。ひときわハンド・キューがシャープに決まった。

 "股旅"が始まると、上手でするすると白幕が上がる。線を幾重にも折り重ねる絵が、リアルタイムで描かれ始めた。
 ヨーロッパ・ツアーの合間に録ったと思われる、ビデオが流されたのはここかな。さまざまな町で渡部がひたすら疾走。
 スピード感溢れる映像の音楽をつけたのは、鬼頭ら。音楽は牧歌的な風景が産まれる。弾かないミュージシャンがこぞって、後ろの映像を興味深げに見てたのが面白かった。

 大塚寛之は、ディストーション効いたエレキギターで吼えた。途中でスピーカーが飛んだか、アドリブのクライマックスで音が出なくなるアクシデントも。即座に須賀大郎のピアノ・ソロへ切り替わる。
 両手を合わせ頭を下げる大塚。おかげでギターが復活するまで、オーケストラのリフに合わせて大塚が踊る、稀有なシーンも見られた。

 東洋組は神出鬼没。次々に現れてはひとしきり踊り、消えてゆく。ダンスもスローモーションから激しい動きまで多彩。さらに大きな本を頭に載せ、落とさずに立ち尽くした。

 "火男"のイントロは、もちろん北陽一郎のトランペット。
 高らかなファンファーレに歓声が上がり、後ろで聞いてた観客がどっと前へ押し寄せた。

 さやペロはアメリカの無声映画みたいな振り付けを取り入れ、ステージ左右を駆け抜ける。もちろんいつもの、ぴっと腕を伸ばしたステップも。
 大塚と斉藤"社長"良一、両名のエレキ・ギター・ソロが投入された。
 わんわんエフェクターをかませた音色で、ひたすら二人ともギターをかきむしる。ぶんぶんギターを振り回す社長がかっこいい。

 "火男"ではテーマを様々にアレンジした。威勢の良い一丸となったテーマだけでなく、リズム抜きのテーマだけを滑らかに効かす。さらにバック・ビートだけを執拗にホーン隊に吹かせ、がんがんあおった。

 "ひこうき”は関根真理がメイン・ボーカル。バッキングは中島さち子のエレピだったかな。
 室舘アヤのカウンターを入れるボーカルが白眉。寄り添う歌声が複雑に絡み、妙なる響きとなって一杯に広がる。とびっきりの"ひこうき"だった。

 ステージ後方のスクリーンでは、VJがリアルタイムな映像処理も行った。"ひこうき"で鳥のようなシンプルな印の下に、いくつもの色線が引かれる。真っ黒な雫をいくつも載せ、やがて"鳥"はゆっくりと画面上へ飛び去った。

 画面に渡部の顔が、再び大写しになった。囁く渡部。
「ゲストを紹介しよう。・・・カルメン・マキ!」
 彼女は下手から、ゆったり現れた。ギターのネックをちょこんと持ち上げ、進むスペースを作る社長。中央へすっくと立ち、朗々とマキは喉を震わせた。

 まずカルメンマキのバンド、サラマンドラの"Lilly was gone with windowpane"を。
 絵を描いていた上手の幕が、するすると上がる。鬼のように細い線が絡み合った抽象画に見えていた絵は、紅蓮の火を吐く龍となっていた。
 勝井が軽やかにバイオリンを響かせる。この曲だと大塚のギター・ソロがばっちりはまる。
 エンディングでマキは、いつまでも声を張り上げ続けた。

 バラードを挟み、サラマンドラの"世界の果ての旅"を歌う。大編成なだけあって、厚みあるサウンドが豪華にはまった。しかし渋さが単なる歌伴と化してしまい、物足りない。でもボーカリストと即興混ぜたら、収拾付かなくなるか。

 マキが姿を消し、ステージがまばゆく輝いた。"ナーダム"のイントロが雄々しく広がり、アップテンポで邁進する。
 レオタードに多くの糸を垂らしたスカート姿なさやペロは、くるくると回転した。
 小森は立花と応酬でフリーキーにアルトを軋ませる。片山も加わりフラジオ満載なアドリブを豪快に決めた。オーケストラ全体がボリュームを次第に上げ、3人のソロを包む。

 そして、ギターのストロークが轟いた。
 メンバーがゆっくりと腕を回す。
 フロアは誰もが手を突き上げ、大歓声で応えた。
 上手から、下手から、幾枚もの白幕が掲げられる。どれにも様々な龍の絵が描かれていた。
 ホーン隊が立ち上ってテーマを吹く。クライマックス、"本多工務店"。

 フロアが大きくうねった。東洋組がステージのそこかしこで身体を揺らす。トレンチ・コートの巨漢が現れ、テーマにあわせて吼えた。あれ、誰だろ?
 片山のテナー・ソロ。豪腕さと優しさを兼ね備えた、頼もしいアドリブをたんまり吹いた。 
 間をおかずに"千頭"へ。室舘は花道へ突き進み、あおりながら踊りまくる。オーケストラは最後の音を力強くヒットさせ、どっしり着地した。

 "すてきち"を吹きつつ、メンバーがステージを去ってゆく。後ろのスクリーンに「どうもありがとう」と文字が太く映った。最後までステージへ残ったのは、さやペロと室舘に数人の東洋組。深く礼をする。
 しかし拍手はやまない。不破が缶ビール片手に登場した。後ろからさやペロも。

「おとそを飲み始めてしまいました。本当にどうもありがとう。」
 缶を掲げて笑う。幾度も礼を言ったあとで、不破がステージを去る。さやかとペロの投げキッスをつれて。

 興奮でフロアはすっかり暑い。ロッカールームでは汗を噴出させた若い観客が、「面白かったね〜」と口々に言っていた。ぼくも隙の無い演奏に、すっかり頭も身体も熱くなっていた。

 最初に渋さを生で聴いた8〜9年前。一騎当千のミュージシャンが無造作にユニゾンでテーマを吹き、奔放なアドリブを絡ませ合っていた。混沌と自由が混在した演奏へ夢中になった。
 そして渋さは様々に変化した。今夜の渋さは今まで聴いてきた渋さと、また違う。より"渋さ知らズ"として、サウンドが一丸とまとまった。
 
 今と昔のどちらかが良い、って意味じゃない。もちろん。渋さ知らズの存在感を、今夜改めて感じたって言いたいんだ。
 "渋さ知らズ"のオーケストラが明確に確立し、収斂して野太く突き進む。そんな一体性とパワーを浴びたライブだった。

目次に戻る

表紙に戻る