LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/1/13  西荻窪 アケタの店

出演:緑化計画
 (翠川敬基:vc、片山広明:ts、早川岳晴:b、石塚俊明:ds)

 新年初の緑化計画はゲスト無し。翠川敬基は5時に前の仕事が終り、時間をもてあましたとか。居酒屋でいっぱい呑んだか、ずいぶんMCも多く明るい進行だった。
 「板谷(博:tb)がメロディ吹いたら綺麗だろうな、と作った曲です」
 そう前置きして、"Cris"でライブの幕が開いた。

<セットリスト>
1.Cris
2.Blue in green
3.Izmir(?)
(休憩)
4.Tango
5.Tres
6.A-hen

 最初はアンプを通さず、生でチェロを弾く翠川。全体に音が静かめ。石塚俊明はスティックで撫でるようにランダムな打音を鳴らした。
 早川岳晴は4弦エレベを使用。翠川のフリーを導くように、明確なグルーヴでドライブさせた。そっと青白いサックスで加わる片山。音像へ気を使ったか。
 翠川は小節線をまたいでフリーに弾きながら、足は明確にリズムを踏む。片山は片足をぐいっと前へ出し、せわしなく床を叩いた。

 ベースのグルーヴはみるみる強固に鳴り、トシがプラスティック・ブラシへ持ちかえる。かっちりとビートを刻んだ。恐竜が首をもたげるように、テナーの音へ力がこもる。音量大きく、厚みも増した。
 さすがにチェロの音が聴こえない。演奏しながら翠川がアンプへ火を入れた。つまみをあれこれいじり、音色を調整する。
 4人のバランスが揃い、全体が自由に膨らんだ。しょっぱなからすさまじく聴き応えある。

 最後は静かに着地。三人の音は消え、翠川だけが残った。ピアニッシモで単音を伸ばす。弓がゆっくりと引かれ、ギリギリの場所までボウイング。弓を使いきり、ついに曲が着地した。

 「なんか珍しい曲やりたいな・・・。あ、これは片山、やったことないだろ」
 譜面をめくりながら翠川が曲を探し、一枚の楽譜を指す。片山が簡単に進行を確認し、演奏したのがマイルスの"Kind of blue"に収録の"Blue in Green"。
 前触れ無しに演奏は始まった。早川とトシのイントロに載せ、翠川はにっこり笑って曲名を言う。DJ風の曲紹介が面白かった。

 片山は最初、じっくり譜面を眺める。翠川はテーマをユニゾンで弾きたかったようだが、まずは最初にスタートを切る。
 やがてサックスも加わり、チェロとユニゾンのメロディ。ピッチが綺麗に溶ける響きが快感だった。ビブラートのかけ方が二人で違うので、音の余韻は微妙に音が震える。 
 テナーの音にどんどん色気が出た。アドリブがぐいぐい進み、メロディアスなフレーズをたんまり。

 トシはリズムをまったく出さぬ、ランダムなドラミングで支える。早川のベースがファンキーに揺れた。翠川は自由に音を遊ばせる。果てしなく拡散するのに、それでいて破綻しない。リラックスできる、柔らかなフリージャズだった。
 エンディング間際・・・混沌が静まりかけた刹那。
 すっとチェロが抜け出し、美しいアドリブを奏でた。

 片山はそこへ青白いオブリをぶつける。まったく違う世界観で。その違和感すら、緑化計画では成立した。
 テーマも彼が導いたかな。テーマは譜面を眺めながら。もともと譜面が足りず、片山と翠川は同じ譜面で弾いていた。
 そこへ早川も首を伸ばし、覗き込んでのプレイ。にじり寄るような早川のさりげない仕草が、なんだか面白かった。

 前半最後は曲紹介無し。"Izmir"と思うが、勘違いしてるかも。
 文字通りのクライマックスだった。冒頭から早川は、ファズを効かせたベースで力強く叩き込む。止めかけると翠川が振り返って、「もっと!」とあおるそぶり。
 片山のアドリブは冴えっぱなし。野太くブルージーに延々と吹きまくった。チェロの弓が激しく動き、刻みながらフラジオも織り交ぜて曲想を膨らます。

 ソロ回し進行は取らぬ緑化だが、このときは片山から翠川へソロを繋ぐ。一転してロマンティックなフレーズでチェロが歌った。演奏中、翠川自身もしょっちゅう吼えてたっけ。
 ちらと早川を見る翠川。ベースは一転、グルーヴィーなソロへ切り替える。翠川は弓を置き、指弾きでベースラインをとった。ただしひとつところにとどまらぬ、自由なバッキング。

 トシがマレットに持ち替えた。ハイハットをリズミカルに踏み、軽々とタムを叩く。スタック・シンバルのアクセントが、絶妙に響いた。
 続くブラシではシャープに。腕を素早く交錯させ、立て続けに決めるフィルが痛快だった。

 前半は45分ほど。休憩も短く、後半へ進む。
「やってない曲を何か・・・でも、そうすると誰も弾けないんだよね。俺も含めて」
 と、笑いながら譜面をめくる翠川。
 選んだ曲を見つけ、早川や片山へ尋ねた。トシはどっちみち譜面見ないから、問題ないみたい。
「あ、(イースタシア・)オーケストラの曲ね」
 ちらりと譜面見て、片山が頷いた。
「緑化でははじめてかも。FMTで録音しました。藤川(義明:sax)の犬の名前で、(音楽の)タンゴとは何の関係もありませ〜ん」
 翠川がにやりと笑う。

 トシの刻むスネアとチェロによるメロディに、僅かタンゴの香りを感じた。けれどすぐ、濃密で穏やかな緑化の世界に融けていく。片山のサックスがばりばり鳴った。チェロとがっぷり組みあう。ベースがやたらとファンキーに動いたのはここか。
 翠川のボウイングはひとときも留まらない。メロディは美しくふくよかに流れた。

 エンディングで片山は、苦しげなロングトーン。ぐるりと身体を回し翠川へ向く。のけぞるように吹ききった。
「(チェロの弓で)引きったところがエンディングかと思って。ずっと音を伸ばそうとしてた。弦はいいよな、音がいっぱい伸ばせるから」
 翠川の尋ねに、苦笑して片山がぼやいた。

 続く"Tres"は前半部分のみ、と翠川が指定する。曲想がかぶるのを避けるため。おごそかにテーマが奏でられた。欧州風メロディで盛り上がる曲だが、前半の楽想のみだと、静かな優しさの強調となった。
 前半テーマだけから、さらにわずかなビートを載せたベース。飛びっきりの聴きものだった。早川の音がどんどん刺激を与え、多彩に展開した。
 
 トシのアプローチも優雅だった。スティックを持ち、静かなテーマの後ろでドラムセットの上を手が泳いだ。
 各種シンバルだけが微かに鳴り、高音の響きは重なる。やがて一つ、また一つ。スネアやタムがピアニッシモで足され、イントロの世界観はぐいっと広がった。

「最後は『ぱるっぱぱん♪』って曲をやろうっ」
「・・・何言ってるか、わかんないよ」
 譜面を見せながら、翠川は説明。トシが笑いながらつっこんだ。

 キッチリした4ビートを意識した曲。といっても、トシや早川のアプローチ次第で、ノリは変わる。スタック・シンバルへ吊るした幾つかのベルを、トシがミュートしつつ4ビートで刻んだ。
 片山が極上のソロを。翠川から早川へソロが移っても、サックスは止まらない。音を絞り気味だが、しょっちゅうオブリで突っ込んだ。
 そしてこの曲二度目の片山のソロ。ぐんっと音がひときわ太く、ふくよかに鳴った。

 エンディングは軽やかに着地。「ってなとこで、終わりです〜」と、翠川がコミカルに締めた。
 後半も45分ほど。22時には演奏終ってた。しかしすごく長丁場のライブを聴いた気分。アイディアがたんまり凝縮された、ひとときだった。
 互いがてんでに動きつつ、不思議と統一感ある。文句なく充実した、素晴らしいライブ。緑化計画は今年も健やかに力強く育ちそうだ。

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