LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2005/12/30   西荻窪 アケタの店

出演:明田川荘之オーケストラ
 (AKETA:p,オカリーナ、渡辺隆雄:tp、宮野裕司;as、榎本秀一:ts、
  松本健一:ts、津村和彦:g、吉野弘志;b、楠本卓司:ds)

 年末恒例のアケタ・オーケストラ。ホーン4管のマイクが、ステージ一杯にずらっと並ぶさまが壮観だ。
 メンバーは明田川と共演してきた、気心知れたメンバーばかり。
 まずはピアノ・トリオの編成から、無造作な雰囲気でライブが始まった。
 テーマで分厚くホーンが鳴る。

<セットリスト>
1.亀山ブルーズ
2.オーヨー百沢
3.ブラックホール・ダンシング
4.室蘭アサイ・センチメンタル
(休憩)
5.Mr.板谷の思い出(incl. "Over the Rainbow")
6.アケタズ・グロテスク
7.いかるが桜
8.アルプ
9.エアジン・ラプソディー
 
 すべて明田川のオリジナル。MCで曲名紹介をしてくれて嬉しい。
 4管態勢ながら、ホーン隊の位置づけはバックリフくらい。実質はトリオもしくはギターが加わる程度の、薄いサウンドで成立した。
 ソロ回しもごくわずか。一人がソロを取るのは1ステージで1〜2回程度だ。そこで各人のアドリブの時間はたっぷり確保する。そこで存分に弾けさせる格好だ。
 めまぐるしさが無い、こういうアレンジは面白いな。

 ホーン隊の指揮をとったのは榎本。さほどバック・リフはぶつけない。だからこそテーマで、ホーン隊の厚みが生きる。

 "亀山ブルーズ"では聴いてるほうも肩慣らし気分。
 ピアノ・ソロに継ぎソロを取ったのは渡辺と津村。二人とも爽やかでスピーディなアドリブで駆け抜けた。
 PAバランスは曲が進むにつれ馴染む。ベースとギターはアンプを通し、ピアノをわずかスピーカーから出したのかな?ほぼ生音で演奏された。
 しかしホーン隊に熱がこもると、音量でピアノが埋もれてしまう。残念。せっかくの熱演だったのに。

 続く"オーヨー百沢"はしっとりと風景を変えた。アップとスロー、交互な選曲だ。
 ソロは宮野と吉野。宮野は独特のこもり気味なアルト・サックスでメロディアスにしっとり吹く。
 つづく吉野は無伴奏でソロを披露した。指弾きでじわっと弦をはじき、みるみるテンションを上げて前のめりなアドリブを。聴きものだった。

 前半の選曲は渋いイメージ。"ブラックホール・ダンシング"は、武田和命とよくやってた曲だそう。最近良く演奏すると言う。
 明田川のライブを最近は行きそびれてるからなあ。初めて聴いたよ。
 これまでもソロを取り続けた明田川だが、ここでじっくりとアドリブを回す。階段状に動くリフを、幾度も榎本のキューで挿入した。

 とびっきりだったのが、松本のアドリブ。猛烈なテンションで豪放にテナーを鳴らす。
 ドラムの打ち鳴らしに一歩もひかず、若々しい力技で押し切った。むろん、旋律使いも極上。ベテランぞろいの本日メンバーの中で、枯れない力強さを見せた。
 ひたすらソロが続き、ついにクライマックス。バックリフのホーン隊と溶け合った瞬間は、快感だった。アケタのジャズの響きが、鼓膜へしみこむようよう。体がカッと熱くなった。
 
 榎本が負けじと雄大なソロを聞かせたのが、"室蘭アサイ・センチメンタル"。タイトルどおりのセンチメンタルな空気を滲ますように、みるみるアドリブが跳ね上がる。
 がんがんフラジオが続くフリーキーな展開に、メンバーも微笑みながら榎本のアドリブを聴いていた。

 コーダの前に渡辺のソロが再び現れる。バックリフのオブリのごとく、しゃきっとアドリブが流れる。
 後ろで明田川はクラスターを連発する熱演だが、ホーン隊の響きでほとんど聴こえないほど。コーダをみごとに決め、1時間強の前半が終った。

 休憩は30分ほど。いつのまにかホーン隊がどこかへ行ってしまう。客電が落ちても戻らない。
「最初はオカリーナソロだし。いいから始めちゃおう」
 明田川のアバウトな提案で、静かにライブが進んだ。

 立ち上がってピアノ横のマイクへ、屈む姿勢でオカリーナを吹く。
 中、小、大。ひとしきり一つのオカリーナを吹いては、大きさの違うやつに持ちかえた。このまにメンバーもステージへ現れた。
 おもむろに奏でられた、テーマの旋律。
 すかさずホーン隊がメロディを、そろって吹き始めた。
 
 "Mr.板谷の思い出"ではピアノのソロもじっくりと。
 途中で"Over the Rainbow"が挿入される。この展開は前にも聴いた。故・板谷博に捧げた曲だが、彼は"Over the Rainbow"が好きだったのかな。

 アドリブは宮野と吉野。二人とも、完全無伴奏でソロを取った。
 なので宮野はサブトーンたっぷりな音色がひときわ目立つ。頬と喉を大きく膨らませ、素朴なムードでアドリブを取った。

 吉野のソロが素晴らしい。アルコ弾きでじわじわメロディを展開する。
 どういう仕組みか知らないが、低音の倍音がすさまじい。演奏にリンクして、オクターブ下の音が強烈に響いた。
 屈み込んだ渡辺がブレスを、トランペット越しに響かせアクセントをつける。
 
 エンディングでは榎本が幾度もキューを送り、次第にテンポが上がる。
 畳み込むように曲をまとめた。この曲だけで30分くらい。すさまじいペースだ。

 けれど自然体でステージはすすむ。"アケタズ・グロテスク"は津山と榎本がソロ。
 エフェクターなし、楽器の音だけ。余分な飾りをそぎ落とし、ストイックに早弾きしたギターも、フリーキーに吼えた榎本も、曲調に良く合っていた。

 ペースを変え、明田川をたっぷり全面に出したのが"いかるが桜"。
 こういう曲がぼくの幻の郷愁をくすぐる。切なく滴るように、彼のピアノがいつまでも響いた。

 "アルプ"はテーマのリフが性急に奏でられた。もっとじわっと弾いてくれたほうが、ぼくは好み。ソロはたしか宮野だった。
 ラストがコミカルだった。テーマが終って、終りそうなのに。
 明田川は"猫踏んじゃった"を連想するフレーズを、ぽろろろんと弾く。そしてまとめの和音。
 ・・・と見せかけ、最後の和音だけ宙に浮かす。再び、ぽろろろん。そんな遊びを無邪気に弾いて、なんだか中途半端な終わりを見せた。

 すでに1時間が経過。しかしステージは終らない。
 最後は"エアジン・ラプソディー"だった。フリーなイントロをはさみ、全員がうねうねと音を動かす。
 ついにテーマが高らかに奏でられた。

 ソロは渡辺、そして松本。ふたりとも一気呵成に音を貫いた。特に松本はパワーが有り余ってるのか、アドリブがみるみる溢れる。テナーを存分に吼えさせた。

 ここまで一切ソロを取らなかった楠本の、ドラム・ソロ。
 手数自慢でなく、フロア・タムを幾度も叩きのめす。日本土着リズムを連想した。
 脂っこさを抜いた響きは、この曲に似合わない。地面へ杭を打ち込むようなドラムのリフが興味深かった。

 あとはエンディングまで一気呵成に。明田川は盛大に唸りながら、クラスターを続けまくる。
 後半ステージは80分あまり。熱演のせいか、アンコールなし。たっぷりステージで音楽味わって、おなか一杯だった。
 立ち上がると、ジーンズが汗で湿っぽい。座ってリズム取りながら聴いてただけなのに。すっかり熱中してたんだ。

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