LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

05/12/24  恵比寿 Liquidroom

  〜koolhaus of jazzV〜
出演:芳垣安洋スペシャル・アンサンブル
 (芳垣安洋:ds、内橋和久:g、Daxophone、鈴木正人:b、高良久美子:per、
  塩谷博之:cl、青木タイセイ:tb,pianica
   Guest vo:オオヤユウスケ(Polaris)/高田みち子/土岐麻子/永山マキ(モダーン今夜)/松田美緒/菊地成孔/首里フジコ/CANTUS(聖歌隊)

 芳垣スペシャル・バンドをバックに、ジャズを歌うイベント。ミュージシャンの顔ぶれが興味深いのと、菊地の生演奏を目当てに行った。
 開演まで空いてたフロアは、照明が落ちるころにほどほどな混みよう。

 オープニング・アクトはCANTUS。4人の女性ボーカルが聖歌隊のように歌うユニット。後ろで軽く、キーボードを弾く男性がいる。アカペラだったから、ピッチを示す役か。
 フロアの壁へ雪結晶かなにかのスライドが、赤と緑で映された。クリスマスっぽいな。
 CANTUSの出番は30分ほど。歌ってたのは全て賛美歌?
 最後に"清しこの夜"を英詩や日本語詩で歌いわけ、すっとステージを去った。

 間を置かず芳垣らが姿をあらわす。前面の下手はドラムセット、上手に内橋がずらりギターを並べる配置。
 すぐに最初のボーカリストを呼び、ライブが始まった。
 ボーカルが数珠繋ぎに司会する、さくさくした進行だった。最初はバンドだけでインプロやると思った。

 芳垣アンサンブルはバック・バンドに徹した。営業一歩手前のかっちりしたアレンジながら、シャープな演奏は飽きさせない。
 内橋がエフェクターを控えめに、ストレートな音でジャズ・ギターを弾きまくるのが一番の聴きものか。とびきりの西海岸クール・ジャズなサウンドだった。
 ときおりかぶせる、薄いディストーションの響きもスタイリッシュにきまる。
 
 つらかったのがベース。PAのせいか、微妙にリズムがずれる。遅い。
 芳垣と内橋がシャープに進む演奏なため、アンサンブルがちぐはぐになってしまいがち。
 高良はほとんど目立たず。ヴィブラフォンを中心に叩く。もっと前へ出て欲しかった・・・。
 
 この夜は誰がアレンジしたか知らない。ゲスト・ボーカルが7人で、おのおの20分程度の持ち時間。くるくると次へ繋ぐ。
 20曲以上やったはず。しかしバックのアレンジはまとまってた。即興要素が少ない分、破綻がない。
 アドリブの順番も決まっていそう。青木や塩谷は戸惑わず、次々ソロを取る。ときおり内橋のエレキギターとツイン・ソロを聞かせた。

 芳垣のドラミングはジャストに刻む。トリッキーさを控え、つぼを押さえた演奏だった。
 スティック、各種ブラシ、マレットを使い分け、ときおりひねったフィルを入れた。

 ゲストのボーカリストは菊地以外、初めて聴いた。
 出番の順や、歌った曲はもう忘れてます。ごめん。印象深い人たちだけでもメモします。

 松田美緒はポルトガル語でジョビンを3曲。それまでのステージに漂う、ジャズ・ボーカルな世界をきれいに切り替えた。
 最初はなにを歌ったっけ・・・。2曲目は"コルコバード"。芳垣がマンボ風にコンガを叩いたのはこの曲?
 最後は"シェガ・ヂ・サウダージ"。朗々とアップで歌いきり、熱く盛り上げた。

 高田みち子も面白かったね。ジャクソン5のクリスマス・ソングを歌う。曲名は忘れちゃった。
 曲のよさもあるが、歌い上げる光景はキュートだった。
 ふわっとステージが輝いて見えた。

 誰が歌ったか記憶があやふやだが、"My favorite sings"も爽やかで良かったな。

 菊地成孔が登場したのは5番目。黒尽くめのコートに帽子をすっぽりかぶる。手袋もはめ、シルバーの指輪か何かをちゃらつかせた。
「ぼくはロシア系ユダヤ人だから、クリスマスは別に特別な日じゃないんですよ」
 いきなりぶちかまし、フロアから笑いが飛んだ。最後まで自分はユダヤ人だと言い張った。

 まずユダヤ人系の曲を2曲。バカラックの"Look of love"、アーヴィング・ヴァーリンの"White Christmas"と続ける。
 いつもの鼻歌っぽい小唄。楽器を持たず、無造作にマイクへ向かった。
 ひさしぶりに菊地のMCも聴く。歌詞を肴に軽い喋りで、毒は控えめ。

 どの曲もダークにアレンジされた。"Look of love"はコードもいじってそう。最初は内橋に同じコードでギターを弾かせ、菊地の歌で和音進行を意識させる。浮遊感を強調した。
 さすがに菊地のときが、演奏もいちばん自由度高い。内橋はフロアへ背をむけ、エフェクターを次々切り替えた。音の断片をみるまにギターでばら撒く。
 芳垣のリズムもだいぶフリーに変わった。

 "White Christmas"はヴァース付きのフル・バージョン。西海岸の人が憧れる、擬似的なクリスマスの風景を強調した。スペクターのクリスマス・アルバムを思い出す。あれもこの曲、ヴァース付でやっていた。
 リズムは抑え目。芳垣はコンガを叩いてたっけ?
 陰を常にまとい、タイム感を存分に伸ばして菊地は歌った。

 おもむろにポケットから取り出した香水。フロアへ向かって幾度か吹かせた。
「後ろにまで、匂いが届くといいな」
 呟いて、手の甲で払うように香りを押し出す。

 最後は曲の説明無し。いきなり歌いだした。

 オリジナルは甘ったるいバラード。しかし演奏は、みるみる重たくなる。
 内橋のギターは前衛さをまし、ノイジーに軋ませた。
 塩谷と青木のソロが降り注ぐ。
 リハでは演奏を「もっと地獄のように」って、バンドへ要求したらしい。
 
 歌いながら、菊地はバックのミュージシャンを、くいっと手まねき。演奏のボリュームがぐんと上がる。
 当時、さんざんテレビで流れたCMソング。女性ボーカルの舌足らずな歌い方を、菊地はクルーナー調にたどった。

 いくども、サビが繰り返される。
 松田聖子の"Sweet Memories"を歌った。
 甘さ一杯な香水が、かすかに鼻をくすぐった。

 3曲だけで菊地はステージを去る。けっきょくサックスを吹かない。うーん、残念・・・。

 トリをつとめたのはオオヤユウスケ。彼も始めて聴く。
 サッチモの"What a wonderful world"をレゲエ調に演奏した。この曲ってレゲエのスタンダートと化してるの?
 芳垣は曲によっては、大太鼓を胸に担いで演奏した。
 レゲエは詳しくないので、コメント避けます。いままでのロマンティックな雰囲気はどこへやら。脱力モードのクリスマスになった。
 内橋のダクソフォンはここでやっと登場。コミカルなフレーズを、バイオリンの弓で弾いた。

 最後はプレスリーの"Can't help falling in love"を、やはりレゲエ調に。UB40のおかげで、すっかりこれもレゲエの曲なのか。
 ハッピーに明るく、そしてリラックスした空気のまま、メンバーはステージを去った。

 観客からは拍手がやまない。ずいぶんたって、芳垣バンドが登場した。 
 実は何も、アンコール考えてなかったそう。
 結局オオヤを呼び出し、もう一曲やってステージを締めた。あれはオオヤのオリジナルだろうか。

 グランカッサを担いだ芳垣は、メンバーをステージ中央へ呼び寄せた。亜コースティックで聴かす趣向。高良は青木のピアニカを借りて吹いていた。
 メンバーを集めて演奏を始めたところで、内橋を眺める。
 ダクソフォンの前に座った内橋は苦笑して、そのまま演奏を続けた。

 各人のソロが回され、塩谷や青木がメロディアスなソロを披露した。
 ダクソフォンがコミカルに鳴る。
 最後は観客へメロディを唱和させ、ステージを去った。 

 歌手によって音世界が違うため、実力がくっきり分かる。
 贔屓目だが、独自のサウンドを作った点でも、菊地が一番楽しめた。
 どのボーカリストも持ち時間は20分強。実に2時間半にわたる、長丁場なライブ。
 やっぱり座って聴きたいです、こういうの。年寄りの発想ですが。

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