LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

05/12/7  大泉学園  In-F

 「『七夕』セッッション」
出演:太田+喜多+黒田
 (太田惠資:vln、喜多直毅:vln、黒田京子:p)

 2002年からやってるというこのセッション、ぼくははじめて聴く。今まで行きそびれてたのを、深く後悔した。とびっきりのライブだったよ。

 中央に喜多、太田は上手に立つ。司会も太田。エレクトリック・バイオリンも準備したが、ほとんどアコースティックで通した。
 喜多はコンタクトマイクでリバーブをかける。太田はいつものように、上からマイクで拾う。バランス難しいのか、演奏を始める前に、二人はリバーブの量を調整してた。
 
「バイオリンの鳴りが違うから」と太田は言う。確かに太田のバイオリン、音が今夜は小さめ。前で聴いてたせいか。ほとんど生音で聴いていた。
 ここはスピーカーが、客席の中あたりに位置してる。もしかしたらカウンターで聴いてた人は、きちんとバランス良かったのかも。
 
<セットリスト>
1.即興#1
2.心の板橋区
3.ワルツ
(休憩)
4.喜多ソロ
5.夢〜即興〜夢
6.オリエンタル・シャッフル
7.即興#2
(アンコール)
8.ラブ・イズ・オーバー

 冒頭の即興から、気持ちがもってかれた。鮮烈な音楽が空気を引き締める。
 とにかく喜多のバイオリンがきれい。ダイナミクスもppからffまで、幅広く豊かに響いた。身体を揺らし足を踏みかえて弾く。
 太田は対照的に、足を動かさない。上半身が動いても、両足はしっかりと地を踏みしめていた。

 二人の音量に合わせたか、黒田はピアノの蓋を大きく開ける。これがなおさら、喜多のリバーブを強める。
 グランドピアノの中からも、バイオリンの残響が響いた。

 冒頭の即興は喜多が強く前へ出る。時に弦へ弓を強く叩きつけ、メロディをすべるように操った。トリルが軽快に響いた。
 太田と滑らかにフレーズを交錯。ヨーロッパの雄大で鮮烈な響きが飛び出した。いちおう4拍子が基調ながら、しょっちゅうフリーに旋律が広がる。

 二人のメロディを、黒田ががっちり支えた。鍵盤一杯に音を広がらせ、素早く身体が動く。ほどいた髪が顔を覆い表情が見えないほど。激しく鍵盤を叩いた。
 ぐいぐいとフレーズを包み、ドライブさせて。ピアノは大きく音楽の道を広げる。
 ときおり踏むペダルの残響がが、エレガントに溶けた。

 最初の即興だけで20分くらい。
 場面ごとにじっくり音像を構築し、するりと次の風景へ移る。
 この三人の演奏も相性が絶妙だった。

 喜多の曲"板橋区"は、鬼怒無月らと組むバンドが"Plays tango and more"と名乗ってた頃、ライブで数回聴いたことある。
 今夜はバイオリン二本とピアノのアンサンブルが、静謐な雰囲気を醸した。
 すっと視線を太田へ投げ、テーマを受け渡す喜多の姿勢は堂々たる物。即興部分も、自信に満ちていた。

 確かここで、太田はエレクトリック・バイオリンに持ち替え。テーマはアコースティックで弾き、アドリブの合間にアンプとエフェクターへ火を入れた。喜多と黒田のデュオの横で、静かにあれこれ弾いて準備してた。

 そしてピアノのソロへ。コケティッシュなメロディのピアノの伴奏を、エレクトリック・バイオリンがつとめる。ディレイで積んだ深いフレーズが、静かに流れた。

 最後は喜多と黒田がテーマをふくよかに。メガホンを取り出す太田。
「次は板橋駅〜」
 きれいなメロディをあえて壊す。コミカルな喋りで、駅のアナウンスを模した。
「危ないですから白線の後ろに・・・下がれって言ってるだろうっ!」
 と、ドスを効かせた。予定調和を崩した終り方に、黒田も喜多も笑ってコーダをきめた。

 続く"ワルツ"は鬼怒の曲。彼らのバンドのレパートリーかな?優雅なピアノの響きが、柔らかく包む。
 ここではくっきりと3拍子を意識した。だからこそ優雅さが引き立つ。
 三人のアドリブはくるくると役割を変え、いっときも弛緩しなかった。

 アコーディオンを黒田が持ったのはここだったろうか。
 ソロでは立ち上がり、優雅に身体を揺らしながら、踊るようにアコーディオンを操った。
 温かく滑らかなアコーディオンの響きを、二人のバイオリン奏者が盛り立てた。
 
 エンディングはバイオリン二人の指弾きピチカートでテーマ。ユニゾンで、ときに掛け合いで。
 2コーラス目は、二人とも弓を構える。刹那、ピアノも滑り込む。
 一転して、とびきり豊かな響きに変わった。
 その場のアイディアだと思うが、べらぼうに綺麗なアレンジだった。

 後半は喜多のソロ。即興だろう。
 椅子に腰掛け、フリーなテンポから。複弦でじっくり伸ばして組みあげ、唐突に単音で旋律を奏でる。
 5分くらいと短くても、聴き応えあり。寛ぎ志向はあえて避けたか。常にどこか、緊張を残した。

 続いて黒田の提案で、「夢」をテーマにした即興。
 冒頭は喜多の曲「夢」。中盤をインプロでつなぎ、フォーレの「夢」に繋げる構成だった。
 優しげに響く「夢」のテーマから、きりっと張った即興へ。

 中盤での即興は、飛び入りあり。観客で来てた役者が、唐突にカウンターからセリフを投げた。
 そのとたん音楽が、劇伴のようにかっちりと大人しくなる。即興セリフにあわせ、優しさをそぎ落とした。
 太田はタールへ持ちかえる。黒田と喜多が怒涛の流れを見せ、タールも同じ譜割りで強く叩いた。リズミカルに音像が雪崩れた。

 さらに。最後のクラシックな部分がとびきりだった。
 ここまでもヨーロッパの雄大な風景の連想が頻発する音像だった。とはいえクラシックだと、和音の響きが異なる。
 黒田のピアノがとってもきれい。和音をゆったりと奏で、穏やかな世界をぞんぶんに味わえた。

 "オリエンタル・シャッフル"は太田の選曲。グラッペリとジャンゴの曲だそう。
「ほかの二人は、どんなテンポなのかすら知りません」
 さらに前置きする太田。
「イントロでヨーロッパ人が勘違いした日本の印象を弾き・・・それ!」
 すっと即興で弾いた喜多に、太田がひざを打った。

 中国交じりの勘違い日本なフレーズが基本。冒頭の即興から、なんだか腰砕け。演奏はばっちりだが、擬似オリエンタルな音像がコミカルでさ。
 優雅な"オリエンタル・シャッフル"のフレーズすら、イントロのあとではユニークに聴こえてしまう。
 ソロ回しも勘違いオリエンタルにこだわったフレーズ作りで、笑いがずっと飛んだ。

 最後の曲も即興。「終りにふさわしい即興を」と太田のアイディアで始まった。
 前半は力をこめてエレガントに。短いフレーズを交換し合う、バイオリンの対話がスリリングだった。
 コミカルだったのが後半。クリスマス・ソングも挿入した。太田がバイオリン片手に歌いだす。喜多をあおるようにアラブ風のボーカルを入れた。
 ところがこれがあまりにも中途半端で着地してしまう。
 楽器を構えたまま音を出さず、顔を見合わせる三人。

 「・・・"ちゃんちゃん"って入れれば、終りますよね」
 太田がおもむろに提案し、コーダへ。なんとも愉快なエンディングだ。

 このままでは終らない。大きな拍手が起こった。
 アンコールを想定してなかったらしく、黒田も太田もペラペラ譜面をめくり続ける。
「その、印刷された譜面はなんですか?」
 黒田がめくる譜面を、喜多が覗く。結局、その曲をやることに。
 欧楊菲菲の"ラブ・イズ・オーバー"。なんでそんな譜面があるんだろ。喜多の譜面集みたいだが、レコーディングに参加したのかな。

 一つの譜面を黒田と喜多が見ながら弾く。残響いっぱいのピアノをバッキングに、喜多がメロディを奏でた。
 アドリブは太田へ繋げた。エレクトリック・バイオリンを構えた太田は、短めながらセンチメンタルなアドリブをきめる。
 最後にテーマへ戻ったら、ちと泥臭い。さすがにそんな終わりはない。
 メロディをフェイクさせ、優雅に着地した。

 太田と黒田は黒田京子トリオや大黒山など、あと一人のミュージシャンを違えたセッションを幾度もやっている。それぞれで独自の相性を見せ、懐の深さを感じる。太田+黒田プロジェクトとして、コンピ盤を作って欲しいな。

 この組み合わせはタンゴがベースか。ヨーロッパの雄大で深くも穏やかな世界が広がった。
 おっとりしつつも、しっかり筋が一本とおってる。お互いの美意識がぶつかり合った。
 観客がかなり少ないのが、どうしても納得いかない。ほんとうに素晴らしい演奏だったぜ。聴いてて贅沢な気分だった。

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