LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
05/11/27 西荻窪 音や金時
〜ヴィオロンの太田惠資 ややっの夜〜
出演:太田恵資ソロ
(太田恵資:vln per
vo etc.)
ややっの夜は今年の8月ぶりに聴く。
今日はゲストがなし、ソロで演奏だった。ソロだと自分の引き出しを次々あける、アイディア満載な演奏になるので嬉しい。
店内では太田がセッティングの真っ最中。
各種バイオリンと、足元にエフェクターのペダルをずらり並べる。横に機材も置いていた。サンプラーかな。
ややっの夜のテーマに続き、ちょっと長めのMC。
ドアの後ろで物音がして、来店かと思った太田は「曲者じゃ〜!」と叫ぶ。実際にはたんなる風の音だったが。
この日は昼間も横浜でライブだったそう。
「一日に二回ライブあると『同じことをやっちゃいけない・・・』と考えてしまうんですよ」
と、演奏前のMCでぽつり呟いた。
まず、エレクトリック・バイオリンを構えた。
おもむろに長く、音を伸ばす。そして、次の音へ。リバーブを思いきり効かせた。
しばらく音符をいくつか連ね、サンプリングのボタンを押す。
たった今のフレーズが、ゆったりと繰り返しループされた。
メロディを探り、つかむように。太田はゆっくりと音を重ねる。
オクターバーで音程を下げたフレーズ、ベースライン、そして白玉。
ループで積まれる響きが深くなる。さらに即興で太田はバイオリンを弾く。
リズムは特に無し。すっきりしてプログレ寄りな世界で音楽が広がった。
エレクトリック・バイオリンだけで、20分ほど弾いていた。
アコースティックへ持ちかえる。
サンプリングのスイッチを押し、素早くフットペダルを踏み換えた。
口琴のループが登場。
4拍子なループの上で、今度はアラビックなアプローチでせまった。
ホーメイを取り混ぜ唸る。声が次第に高まった。
クオーター・トーンを多用して、メロディが熱っぽくなる。
かきむしるメロディへ"Mozqus"を連想。しかし曲へ行かず、即興の沼へ沈んだ。
ここでも20分ほどの即興。
再びエレクトリック・バイオリンへ。一つの世界をじっくり深堀りし、音世界を存分に広げた。
フットペダルを踏みかえるたび、サンプリングやループが現れては消えた。
バイオリンの音色そのものも大きく変わる。
ディストーションで鈍く鳴ったと思えば、ショート・ディレイで対話のように音を交錯させた。
深い残響が、店内へ染みとおる。
タブラのループを取り出し、バイオリンを弾きまくった。
さらに口琴リズムも。多重ビートに対し、太田はアクセントの位置をフリーに変えた。
リズムはいちおう4拍子。バイオリンはシンコペーションを利かせ、小節線をまたぐ。ダイナミックなメロディが溢れた。
アプローチはしばしば変わる。アコースティックにまたもや持ち替え、ロマ音楽とクラシカルな世界を行き来する。
複弦奏法も取り入れ、バロック風味のフレーズを執拗に重ねた。
バイオリンは持ち替えても、弓は同じまま。
力がこもるたびに一本、また一本、弓の糸がほつれる。
ざんばらになった糸が、五月雨のようにバイオリンへ垂れ下がった。
すでに演奏は1時間、MCもなくメドレーで続いてた。
そろそろ着地するかな。そこへたまたま、新しい客が現れた。
ちらりと視線を投げる太田。
そこからまた一歩、次の世界へ踏み出したと思う。
クラシカルな旋律を弾きながら、太田は歌いだした。どんどん強くなる。 最後は吼えるように、力いっぱい声をたたきつけた。
「前半は飛ばしすぎました・・・お帰りの時間もあるので、後半はあっさりめにやります」
休憩をはさみ、太田がステージへ戻る。すでに時間は22時に近づいていた。
まずはアコースティックにて。
グラッペリ「フィリンゲンの思い出」を奏でた。
ゆったりとメロディが、店内へ溢れた。
メロディは崩され、やがてアドリブから混沌な世界へ。エレクトリック・バイオリンに持ち替えると、ディストーションを思いきり利かせた。
むせび泣くフレーズが、ひたむきに流れる。
ひとしきり弾いたあと、太田はバイオリンを下ろしてしまう。
一休みと称し、タールを持つ。指で静かに打面をはじいた。
4拍子が基調ながら、ときおり奇数拍子を混ぜる。
タールを目の前に掲げて叩き。ふと、喋り始めた。
「あんまりテレビは見ないけれど。最近、気に入った番組があるんです・・・"24"」
観客は次に続く言葉を待って、じっと聞いている。
「・・・反応が無い」
静寂に太田がぼやき、客席から笑いが飛んだ。
タールを叩いての喋りは続く。今度は「蟲師」の話。たまに見て、気に入ったとか。
とうとうタールを抱え込み、語りに入った。
しばらく喋ってたけど、まとめそこなったみたい。
「責任とって『蟲』をテーマに弾きます」
エレクトリック・バイオリンに持ち替えた。
弦を引っかき、爪弾き、高音部を軽く擦る。
次々とフレーズをサンプリングし、重ねた音世界は思いきりサイケだった。
ビートをぼやかせ、不安をあおる。
アドリブもあえて豊潤な旋律を外したようだ。太田の演奏としては、すごく新鮮だったな。
客電がすっと落ちてゆく。場面ごとに微妙に光量が変わる。
バック・トラックを残したまま、メガホンで喋りに。
「むし」で韻を踏むように、さまざまな言葉が。「むし24」ってのに笑う。
ところが途中で途切れてしまう。メガホンを持ったまま、固まる太田。
興味深げに見守る客から、次第にくすくす笑いが広がった。
「どうやって終わればいいんだ・・・針の「むし」ろです」
って、コミカルに幕を下ろした。
すかさずサンプリングを押す。打ち込みのタブラ。
拍子が今ひとつ取れないが、高速9拍子だろうか。
太田はリズムに乗って、"Mozqus"を弾く。
鋭く音が駆け抜けた。
華麗な響きのアドリブからテーマへ。太田の歌がユニゾンで乗っかる。
勢い良くコーダを叩き込んだ。
大きく一礼。時計を確認し、そしてコルネット・バイオリンを持つ。
「だ〜めだ、だめだ〜♪」
テンションをなだめるように、太田はエンディング・テーマを歌った。
前半のひたすら続く即興が、聴き応えあった。
吼え続けながらバイオリンを弾く姿が、強烈に印象が残る。
特に前半は、引き出しの奥を探るようなインプロの展開だった。
指癖ではなく、メロディの豊潤さに寄りかかるわけでもなく。
心の奥底から旋律を引っ張りあげるむような・・・そんな演奏だった。
"オータのトルコ"は無し。お約束を外そうと意識のゆえか。
2ndセットの"蟲師"や前半セット全体での、実験精神がにじみ出る快演だった。
前半セットでは一つの楽器やアイディアへ真摯に向き合い、じっくり時間をかけて即興を紡いだ。ひたむきな姿勢がにじみ出る、素晴らしいソロだった。
来月はゲストあり。青木タイセイとのデュオだそう。
二人ともマルチ・プレイヤーなので、さまざまな楽器のセッションになるだろうか。ヴィンセントなんかの裏話も聞きたいな。
一期一会なゲストも魅力な"ややっの夜"。けれども、たまにはソロも聴きたい。贅沢な望みですが。
*Thanks to 反町鬼子さま