LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

05/10/29   大泉学園 in-F

出演:黒田京子トリオ
 (黒田京子:p、翠川敬基:vc、太田惠資:vln)

 レコ発ライブからほとんど間をおかず、ホームグラウンドでのライブ。
 ミュージシャンも寛いで、刺激に満ちた演奏となった。

 「ピットインではアンプを通したので、音が大きかった。今日は全て生。即興をやります」
 と、翠川敬基が提案し、アンプラグド・セッションになった。太田恵資が生で聞かせるのは、相当珍しい。ただ、今日は太田に選択肢はなかった。

 というのも別の仕事が押したか、太田がなかなか会場へ姿を見せない。
 心配げだった二人だが、まずは到着を待たずピアノとチェロのデュオで始まった。
 まず黒田京子が鍵盤に指を乗せ・・翠川を見つめる。探り合う視線。互いの呼吸が交錯し、静かに音楽が始まった。

 宣言どおり、翠川は極小音が続く。柔らかく指板へ手を乗せ、フラジオを多用して微かに響かせた。
 黒田もランダムに音を鳴らす。最初は小さな小さな音で。
 しだいに高まるテンション。二人ともメロディはほとんど使わない。

 アドリブ回しも無く、ただひたむきに音を重ねる。互いに高みを目指した。
 翠川がつと弦を弾くだけで、ジャズの匂いが漂う。
 黒田と翠川だと、こういう音楽になるんだ。黒田トリオと明らかにテイストが違う。新鮮だった。
 
 5分くらいたった頃。in-Fのドアが静かに開く。
 黒田はちらりと眺め、微笑む。翠川は目を閉じたまま音楽を続けた。

 かちっと斬りあうフリー・ジャズ・デュオが続く。
 ドアの側では、かすかなビニールを揉む音。
 やがて。にゅっと手が伸び、タールが椅子に置かれた。
 バイオリンの弓がにょきっと立つ。ドア前の台の陰から。

 ほぼ同時に、黒田と翠川の音がシンプルに変化、収斂する。
 すっと立ち上がる、太田恵資。
 バイオリンの音がふくよかに流れた。
 翠川がカウンターでメロディを太くぶつける。ピアノも心なしか、音が柔らかくなった。
 三人での演奏は音色が変わった。黒田京子トリオの音へ。

<セットリスト>
1.即興#1(翠川+黒田〜黒田京子トリオ)
2.即興#2〜Seul-B
 (休憩)
3.即興#3
4.即興#4
5.即興#5〜Lonly woman

 即興#1は、太田が加わってもしばらく続いた。
 何も決めてないからこそ、自由に動く。スリリングだったな。

 太田が小さくなりながら遅刻を詫び、改めてのメンバー紹介。次の即興へ移った。
 こんどはミニマルな要素が多かったと思う。
 
 しょっぱなはバイオリンの独奏。
 端の弦を開放で鳴らしながら、同時に隣の弦でメロディを弾く。
 アラブかインドあたりの風景が広がった。すごい。あの奏法は初めて聴いた。ハーディ・ガーディがああいう音だっけ?
 
 やがて翠川も開放弦を多用し、ミニマルに加わる。ループのようにひたすら、同じ音列を続けた。
 黒田もぴしりと芯の通ったピアノを鳴らす。体を揺らしながら、鍵盤を広く使い、ダイナミックなメロディで音を広げた。

 ソロ回しだけでなく、アンサンブルの組み立てに耳が行く。ずっとメロディを続けるのは太田が多い。
 翠川も黒田も音楽に空白があると、すかさず展開させる。もっとも反応が早いのは翠川。隙を許さず、旋律とフリーキーな音を瞬時に使い分けて弾いた。

 それでも音楽はふっと途切れる。
 チェロがそっと"Seul-B"のテーマを提示。
 バイオリンが、ピアノが加わる。二度、三度。三人がじっくり楽器で"Seul-B"の旋律を歌わせた。
 店内一杯に生音で空気を震わせるさまが、快感だった。

 休憩のあとも即興。特に打ち合わせたようす無し。たしかミニマルな要素が多かったと思う。
 黒田がバイオリンの演奏にあわせ、鈴をピアノの中へ入れたのはここだっけ?
 
 メロディをくるくる絡み合わす驚異的な親和度を踏まえ、あえてミニマル要素を前面に出したかのよう。
 時に翠川は、あえて不協和音を注いだ。
 だからこそ黒田や翠川が提示する、旋律の美しさが引き立つ。
 太田も翠川も目を閉じて音楽に向き合う。黒田は、たまに目で二人に視線を投げていた。

 静かに始まり、ぐいぐいテンションが上がる。
 単なるフリーのぶつかりじゃない。三人のメロディが高まって、みるみる絡み合う。
 一丸となって突き進んだ。

 後半2曲目は一転してコミカルに。
 太田のホーミーがマイクなしでデッドに響く。やがて語りに入った。
「26億光年のかなたで・・・そのころ、チェロ弾きは雲の上の存在だった。その頃私は、ウンコから食べ物を作る研究に没頭していた。
 ・・・しまった。話題を間違えた。
 10億光年のかなたに・・・チェロ弾きは雲の上の存在だった」

 いつのまにか優しいピアノの音色が太田の語りを伴奏する。
「長くなるぞ〜」
 翠川はチェロにもたれて、ニヤニヤしながら太田に茶々を入れる。
「・・・めでたし、めでたし」
 そのとたん、いきなり太田は話を終わらせ、客席に笑いを呼んだ。

「そしてアフリカでドラムを叩きたくなった」
 タールを持ち出し、指で弾く。チェロが指弾きで加わり、ピアノも音を転がした。
「(キーが)C#だぞ。シャープが7個だ。ソロをよろしく」
 タールの響きにあわせたピアノを聴いてた翠川が、太田へ告げた。弦楽器だと弾きづらいキーらしい。
 バイオリンへ持ち替え、ソロのとたん。わずかに音の感触が変わる。
「なんだと〜!」
 翠川が笑いながら吼える。
 どうやら途端に黒田が、弾きやすいキーに換えたみたい。

「あと一曲やって、終わりにしましょう」
 黒田の提案。ピアノの音使いがスリリングだった。
 ふくよかなメロディを奏でるのに、けっして音を伸ばさない。続けない。流さない。
 一音一音くぎって、綱渡りのように繋ぐ。フリーな音ならばまだしも、とびきり柔らかな音列なのに。
 もどかしく、危うく、鋭く。スタッカートでもない。まして力任せでもない。
 腹筋に力を入れて繋げるように、じっくりと黒田はピアノを鳴らした。

 翠川も太田も、いろいろな曲の断片を入れてたようだ。
 エンディングでは"ロンリー・ウーマン"へ収斂し、幕を下ろした。

 生演奏でもバランスは良い。ピアノがかなり気を使っていたのかも。
 チェロの極小音がかき消されることもほとんど無し。
 ピットインと11/1レコ発ライブの合間が、今夜。
 ここぞとばかりにアイディア豊富な即興をばらまく、鋭い演奏となった。貴重なのを聴けたな。

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