LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

05/10/9   西荻窪 アケタの店

出演:SALT
 (早川岳晴:b、石渡明廣:g、藤井信雄:ds)

 パワー・トリオ、SALTの1st(1986)の再発記念のライブ。今回と、今月末の1回。2回だけの再結成だ。客席はみっちり埋まる。
 SALTは90年代頭に2ndを聴いていた。ぼくが日本のジャズを聴き始めのころ。そのときは正直言って、よく理解できなかった。なぜジャズメンがストレートなロックをやってるんだろう、と。

 HAYAKAWAやCOILでの活動を聴いて、早川はパワー・ロック好きなのかな、と思ってた。ところがSALTのライナーには、プロデューサーに焚付けられたのがSALTの切っ掛け、とある。なにがなんだか、ますますわかんない。
 ともあれ。まずはライブだ、とアケタへ行った。

<セットリスト>
1.Kaminoeko
2.Kome Kome Kome
3.Tochi
4.Sharma tahra no masakari
 (休憩)
5.844
6.Salami
7.Kappa
8.On-Do
9.Aedegemn
(アンコール)
10.Triple spirals

 1st再発記念ライブのわりに、継続活動してるバンドみたいなセットリストだった。
 1stの収録曲は(1)、(4)、(9)、(10)のみ。(2)、(5)〜(7)は2ndからの選曲。
 (3)と(8)はSALTのスタジオ録音すらリリースされてない。(3)は今回の再発で、ライブ・テイクが収録されたが。
 もうちょい1stから聴きたかったな。

 前置き無しに、"Kaminoeko"が演奏された。ギターからベースのソロへ。顔見世みたいな短めのソロ。
 エンディングはいきなり急ブレーキを踏むように、唐突な切り落としだった。

 「14年ぶりのライブなので、久しぶりにスタジオ入りました」
 「曲をほとんど忘れてるよ。譜面も残ってないし」
 「でも、ご安心ください。大丈夫です」
 そんな早川と石渡の会話が挿入される。

 ライブを通して、バンドの基本アレンジは変わらない。
 テーマからギターのソロへ。ベースにソロが受け継がれ、たまに藤井のソロが入る。
 そのアレンジが淡々と続く、奏者の演奏力を前提としたステージだった。
 だからこそ再結成のノスタルジーも希薄で、変に肩へ力がはいらない。

 音そのものはステージが進むにつれ、骨太さが増したが。

 特に早川のベース。最初はスムーズなフレーズを次々重ね、滑らかでスピーディな低音だった。
 これがSALTの持ち味かな、と思ったら・・・ステージが進むにつれ、どんどん太く大きくなる。
 後半ではすっかり、得意の早川流。豪腕でねじ伏せるような、迫力あるベースを聴かせた。

 石渡は対照的に、高音を強調したキンキンする音色を採用する。ベースとかぶるのを嫌ったか。もうちょいふくよかな音でも良かった。
 ステージを通して、壁のベンチへ腰掛けたまま。エレキギターを無造作に弾いた。

 今夜はベースもギターもPA無し。アンプからストレートに音を出す。ドラムは生音。
 しかし音色を分けたため、聴きづらさはなかった。
 
 石渡はソロが終わると、ほとんどはギターを弾きやめてしまう。たまにワウで和音を伸ばすくらい。
 だからたんまりと早川のベース・ソロが聴ける。Coilのライブはしばらく聞いてないが、ここまでソロの長回しはあったっけ?
 どんなに藤井がエイトビートや16ビートを叩いても、基本はごりっとしたジャズだった。

 石渡はステージを一本のギターで通す。藤井もスティックを交換するそぶりはなかった。
 早川のみ、数曲でエレベを4弦から5弦へ交換した。(3)と(5)だったかな。

 HAYAKAWAでも馴染み深い"Tochi"では、ぐっとサイケなアレンジだった。
 たぶんディレイをかまし、ベース・パターンを高速にあおる。
 前半の演奏では、これがベスト。シャープな藤井のドラミングもはまってた。

 "シャーマターラのマサカリ"も演奏は凄いが・・・石渡がメロディを溜めて弾くため、ちょっと違和感あり。
 インテンポの早川とユニゾンで駆け抜けたら、もっとかっこよかったのに。
 
 ここでは石渡がたっぷりソロを取ったあと、最後にテーマのフレーズをフェイクさせた。
 その瞬間、早川もコードを合わせてフレーズをあわせる。あのタイミングの音使いがスリリングでいかしてた。
 
 後半は思いっきりエイト・ビートな"844"から。藤井はシンプルな刻みに織り交ぜ、さりげなくフィルを叩き込む。
 それは早川も一緒。石渡のバッキングでリフを弾きつつ、小節後ろの数拍でオブリを巧みに奏でた。

 藤井のドラミングはシャープな一方、どこか独特の揺らぎあり。
 "Kome Kome Kome"での、タムとフロアタムによるリズム・パターンや、後半セットでの強靭なエイト・ビートには、やはり目が行く。
 ソロだといきなりジャズ寄りのドラミングになっていた。

 後半セットで藤井が、クラッシュ・シンバルを叩くたび、ネジがくるり、くるりと回転する。
 演奏と何の関係もない。だけど回転するさまが面白く、ついクラッシュを叩くたび注視しちゃった。

 「何もなければ、このライブで唯一耳を休められる曲です」
 早川の前置きで、スロー・ブルーズの"Salami"が披露された。
 根本の音量が変わらないので、テンポゆっくりで音数少ないだけ。あまり耳への負担は変わりはしない。
 もっともHAYAKAWAに比べたら、今日はそうとうボリューム小さかった。
 たまに早川が極低音を出す。それは、ふわっと音圧が心地よかった。

 大迫力だったのは"Kappa"。
 「もうライブが終わりみたいな演奏だったなあ」
 と、早川が笑う。猛烈なテンションで、三人が弾きまくった。

 疲れたからテンポを落としてね、と石渡の冗談をまぜて"On-Do"へ。渋谷毅オケのレパートリーな石渡の曲。
 ギター一本でメロディを受け持つため、ざぎざぎにエッジの尖った響きだった。

 最後は"Aedegemn"。ハードロック風のリフを早川が延々弾き倒し、強力に突き進む。
 ベース・ソロではディストーションを痛快に響かせ、しまいに屈みこんで早川はエフェクターをいじった。ディレイの操作みたい。
 えんえんと低音フレーズをリピートさせ、ドラムのソロへ導く。
 石渡もここぞとギターで切り込み、しまいに三人で盛り上がった。こういうアンサンブルももっと聴きたかった。

 止まらぬ拍手に応え、メンバーはすぐにステージへ戻った。
「HAYAKAWAではファンクなアレンジでしたが、当時はもっと速くやってました」
 馴染みの"Triple spirals"。しゃきっと芯の通った演奏だ。

 全員が現役であり、アレンジもソロ回しを軸に置いたため、ステージそのものは安定した進行だった。
 とはいえ一回聴いただけじゃ、バンド・コンセプトまで理解は出来てない。セッションっぽく捉えちゃって。
 ジャズメンのみでの、ロックなコンボ・アプローチは面白そう。HAYAKAWA活動停止の今、KIKI BandやCoil、Mull houseなどとも違ったアプローチで活きそう。
 今だからこその切り口で、改めて活動して欲しくなった。

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