LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

05/10/1   西荻窪 アケタの店

出演:明田川荘之ソロ
 (明田川荘之:p,occa)

 明田川荘之の月例深夜ライブへ数ヶ月ぶりに行った。時計が0時半をまわった頃。
 「そろそろやろうか」
 と声をかけ、明田川はピアノへ向かう。
 椅子に腰掛けて、何の前起きもなく鍵盤へ指を下ろした。

<セットリスト>
1. ?
2.りぶるブルーズ
3.マイ・フェイヴァリット・シングス
 (休憩)
4.杏林にて
5.マジック・パルサー
6.Mr.板谷の想い出(incl. Over the rainbow)
7.侍日本ブルーズ
8.アケタズ・グロテスク
9. ?

 最初の曲は聴き覚えあるが、曲名が浮かばず。ゆったりしたテンポで、穏やかなメロディだった。
 メロディがどんどん変化し、うなり声が静かに漏れる。
 そのままメドレーで"りぶるブルーズ"へ。この曲好きで、よくCDで流してる。ひさしぶりに生で聴けて嬉しかった。

 メロウさとフリー寄りの二面性を持つ曲。冒頭ではそれらが交互に提示され、次第に情感が高まる。
 今日はどちらかといえば、無骨なアレンジだった。
 鈍く音が響き、柔らかな部分のテーマも旋律をフェイクさせ、指をごつごつと動かす。
 アドリブではしばらく、ペダルを踏まずに延々とフレーズを溢れさせた。

 クロージング・テーマに向って、メロディアスな比率が高くなる。
 明田川はテンポをがらがら揺らし、ソフトな雰囲気を振り回した。

 いったんコーダへ。続いてフリーなイントロが始まる。
 コード進行が似てると思ったら・・・想像通りのテーマがピアノから零れた。
 コルトレーンで、そして明田川のCDで幾度も聴いた、"マイ・フェイヴァリット・シングス"。
 これまで体験したアケタの深夜ライブでは、まず弾かない曲だ。
 
 テーマへ入ったとたん。いきなり、鈍い音がピアノの奥で弾ける。
 「あ、切れちゃった」
 ぽつりボヤく明田川。そのまま演奏は続行。
 1オクターブ上のドにあたる、ピアノ線が切れたみたい。この音へ指が行くたび、ホンキートンクに鈍く鳴った。

 アドリブがたっぷり。途中で気持ちよくなって、ぼおっとしながら聴く。
 雄大にフレーズは拡がり、柔軟なテンポで即興フレーズが舞った。
 そうとう力のこもった演奏だった。

 いったんここで休憩。すでに深夜の1時をまわってた。
 ピアノ線の交換を明田川が始め、調律も手早く済ます。
 タバコを吸いながら、その姿を眺めてた。

 後半は明田川が観客へ、リクエストをつのった。ここ数回のライブで行ったら、面白かったからだという。
 リクエストはすべて、明田川のオリジナル曲が続いた。

 "杏林にて"はアケタの大晦日ライブぶりに聴く。
「ひさしぶりなんだよなー」
 呟き、明田川はコード進行をぽろぽろ弾いて確認してた。

 いったん弾き始めるが、いきなり中断。響きすぎるらしい。
 譜面台をピアノの上へ載せ、仕切りなおした。

 透明でロマンティックなメロディが魅力の曲。この日は次第にテンポが上がる。
 溜めて盛り上げるのではなく、前へ前へ。押すような演奏だった。
 ディキシー・ジャズを連想するフレーズが、幾度か登場して興味深かった。

 "マジック・パルサー"でもめまぐるしさは変わらない。ひっきりなしに唸りながらアップテンポでドライブした。性急なほどに。
 この曲はひりっとしたスピード感が興味深かった。

 続く"Mr.板谷の想い出"では、イントロにオカリーナを吹く。今夜のステージで、オカリーナを使ったのはここだけだった。
 まずちょっと大き目のオカリーナで、バロック風旋律を織り込みながら切々と吹く。
 ピアノのテーマへ。そして一度中断、小ぶりのオカリーナで再びアドリブに向かった。

 この曲もセンチメンタルさ控えめ、次第にテンポが速まる。
 アドリブの終わりでさりげなく、"Over the rainbow"を挿入した。板谷博に捧げたこの曲だが、彼は"Over〜"へ特に思い入れあったのかな。それとも明田川による、アドリブの一環だろうか。

 前に明田川が深夜ライブでリクエストをつのったことはある。でも、それはほんの数曲だった。ところが今夜は延々と「次はなにがいい?」と気さくに観客へ尋ね続ける。
 "侍一本ブルーズ"もリクエスト。岩のように角を強調したハードなアレンジを採用。
 俯いてうなりながら、ペダルを踏まずにアドリブを延々と弾いた。
 
 「何か簡単な曲をやろうか?」
 明田川の提案に"アケタズ・グロテスク"をリクエストしてしまったため、「簡単じゃないよ・・・」とこける。
 しかしそのままリクエストを受け入れ、猛スピードで演奏を始めた。
 
 蹴飛ばすように強く、ペダルを一踏み。
 アグレッシブなメロディに装飾をたんまり付与し、みるみるテンションが上がる。
 小刻みなペダル操作で、めまぐるしい音の流れをすっきりと響かせた。  クラスターから肘うちへ。両腕は幾度も鍵盤へ叩き落ちた。
 
 これで終わりかと思ったら。最後に静かなバラードを持ってきた。
 "アケタズ・グロテスク"のエンディングから間をおかず、ピアノを弾いた。
 テーマは聴き覚えあるような・・・曲名は不明です。
 前曲のハイテンポをそっと和らげ、軟着陸な終幕を選んだ。

 コーダのあと、微笑みながら軽く一礼。無造作にステージを降りる。
 時間はすでに夜中の2時を回った。
 とびきり味わい深く、リクエスト多用で新鮮なセット・リストだった。
 深夜ライブは明田川が、自分と向かいあう雰囲気が時に漂う。ところが今夜はとても親しみ深い。ぐっと寛いだライブだった。

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