LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

05/9/25   新宿 Pit-Inn

出演:アジアン・ミーティング・フェスティバル:セッション
 (大友良英:Electronics,ディクソン・ディ、ホン・チュルキ、チェ・ジュニョン、
  リュー・ハンキル、ジン・サンテ:Electronics、ジョー・フォスター:tp,electronics、
  佐藤行衛:g、Sachiko M;Sine wave、大蔵雅彦:as,sax tube、
   津上研太:as、半野田拓:g、伊東篤宏:optron)

 大友良英が企画のアジア系前衛ミュージシャンを集めたイベントは、3日間に渡って行われた。
 ぼくは3日目の昼間、各メンバーのセッションを聴きにいく。

 ステージ前は各種のエレクトロニクスがずらりと並ぶ、賑やかな絵面だった。
 大友の司会で前半/後半、各10分くらいのセッションが各四つづつあり。時間がきっかり決まってたようで、奏者によっては時計を見ながらの演奏だった。

 構成はこんな感じ。メモ取ってなかったので、かなりあやふや。
 大友のはてなブログの各メンバー写真を見ながら、編成を思い出してますが・・・思い切り組み合わせを勘違いしてたら、ごめんなさい。

1)半野田+伊東+ディクソン+リュー
2)Sachiko M+ジン
3)大蔵+フォスター+?
4)津上+半野田+佐藤+?
(休憩)
5)アストロノイズ(チェ+ホン)+伊東
6)Sachiko M+?
7)大友+ジン+伊東+佐藤
8)津上+フォスター+ディクソン+大蔵

 ステージはさくさく進む。轟音系と小さめなノイズ奏者を上手く組み合わせた顔ぶれだった。しかしセッションと呼ぶにはちと抵抗あり。
 個々の技を相対させる面白さは確かにある。けれどもお互いの持ち味を噛み合わせた、プラスアルファを「セッション」と呼びたいなあ。

 大友や津上、伊東、佐藤、フォスター、Sachiko Mあたりは場数を踏んでか、セッションを意識した音使いだった。
 しかしアジアから来た顔ぶれは、プラスアルファまで突き抜けない。自分の音世界を並列に出して終わりがち。

 いっそとことん我をはるか、アンサンブルを意識するか。より過激に自己表現して欲しかった。それぞれ興味深い音楽だが、CDを買いたくなるほどの個性を、残念ながら聴き出せなかった。
 色々と面白いものをもってそうなのに。

 記憶便りで、特に印象に残ったセッションを中心に、感想書きます。

1)しょっぱなは轟音。伊東がスタッフへ幾度も注文出して、明かりを落とさせる。
 いきなり炸裂するノイズに同期させ、長い蛍光灯を激しく明滅させた。

 来日組はラップトップに向かい、なにやら操作する。それぞれがどんな音を出してるか、いまいち区別つかない。呟くようなエレクトロ・ノイズを操ってたの?
 半野田はギター・アンプに腰掛け、サンプラーをいじる。ボタンを押すと、歪んだ電器ノイズが現れた。

 音楽そのものは半野田と伊東が引っ張る。途中から伊東は演奏をだいぶ控えめにし、来日勢に華を持たせようとしたみたい。
 ところがラップトップから出るノイズはハーシュ寄りに近づいても、根本ではじけない。
 なんだかおとなしくって・・・。あれこそがアジア勢の持ち味なのか、とライブの最後に気がついた。

2)面白い。Sachiko Mのサイン波が静かに響く。あまりに小さい音。ピットインの空調のほうが、よっぽど大きく響いた。
 ジンはラジオをひねってホワイト・ノイズをちょっと出した後は、黒く小さな箱をラップトップへ近づけては離す。

 ギターのピックアップを取り出したものだそう。
 PC画面のノイズや、横に置いたむき出しのハードディスク、電源のノイズなどを拾って増幅してたという。
 ゆっくりとピックアップを動かすことで、小さなエレクトロ・ノイズが揺らぐ。

 ときにラップトップの画面部分を伏せ気味にしたり、いろいろ音を拾う方向や位置を工夫していた。
 あれはライブを見てないと、面白さが伝わりづらいだろうな。
 かすかなサイン波とあいまって、じっとりと寛げるノイズだった。

3)これも静か目のノイズ。大蔵がアルト・サックスへ息を吹き込み、びゅーびゅー音を出す。激しいタンギングで空気を震わせた。
 フォスターはトランペットのマウスピースだけを取り出し、小さなおわんへ押し付けて、微かなノイズを導く。マイクに近づけるとハウってたので、あのおわんも何かのエフェクター?
 
 もうひとりアジア組が参加していたが、名前を失念しました。失礼。
 アストロノイズの片割れのはず。この人はずっとパルスのようなノイズを引き出すことに熱中していた。むき出しの基盤へずっと向かい合う。 
 CPUフィンに紙切れを突っ込んで、ノイズを出してたようだが・・・今ひとつ、なにをしてるか判別つかず。

4)前半クライマックスで、津上がアルト・サックスをもって中央へ立つ。  メロディはほとんど吹かず、フリーキーなフレーズに軸足置いた。半野田が確かギターを持って、轟音を響かせる。
  右利きギターを左利き持ち。津上が構成を組み立てようとしても、他のメンバーはかまわずに、俯き加減でてんでに自分の世界へ。

  佐藤のノイズも面白かったな。エレキギターを机へ横置きし、さまざまな道具でかき鳴らして音を出す。
  縁日にあるような回転して光るオモチャで弦を鳴らしたときは、視覚的にも面白かった。

  もっともいかしてたのは、津上のノイズ。アルト・サックスのベルへマイクを突っ込み、超低音を唐突にぶちかました。
  フロアへビリビリと低音が広がって、本当に気持ちよかったよ。

5)後半は轟音ノイズから始まったっけ?
  びがびがと激しく蛍光灯が瞬く。エレキギターのように蛍光灯を横抱えにし、伊東は思うさま瞬きとフィードバックを奏でた。
  奏法そのものが刺激的だったな。目が痛くなるので、直視は避けてましたが・・・。

  アストロノイズはステージ前へ座り、それぞれがラップトップをいじる。いまひとつ、煮えきらずに残念。
  オプトロンの輝きが、ときおりまばゆく彼らを照らした。
 
6)次がSachiko Mとだれかの共演だったが・・・メンバーを思い出せない。
  やはり静かなサイン波とエレクトロ・ノイズのひととき。

7)やっと大友良英の登場。いったんギターを持ったが、弾かずに置いてしまう。金属の円盤を持ち、ピックアップか何かを押し付け、ハーシュをばら撒いた。
  どういう仕掛けかさっぱり分からない。手に持って降ったり、スピーカーへ押し付けるたびにノイズの色合いが変わる。
  上手手前に腰掛けて、黙々とノイズと格闘した。足元のエフェクターでも音をいじってたみたい。金属とピックアップをハウらせてたの?

  伊東と佐藤が互いに轟音で応酬。三人三様なディストーション効いたノイズを出す。誰がどの音を出してるか、だいたい想像つく。もっともアクティブなステージングだった。
  この三人に囲まれたジンはちょっと立場が弱い。たぶんドローン・ノイズがジンだと思うが・・・今ひとつ聞き取れなかった。

 大友の耳をつんざくノイズって、気持ちいいんだ、これが。

8)もっともセッションらしい演奏だった。ぼくのベストがこれ。
  ディクソンがふわりと大陸的なエレクトロ・ノイズを出す。稚拙なセクショナリズムで音楽を語りたくないが・・・あの広がりと豊かな響きを出す日本のノイジシャンは、寡聞にして知らない。
  ふくよかに薄く甘い響きが拡散し、ミキサー操作で収斂する。

  フォスターは「ミキサーの調子が悪い」と呟いて、とっととステージ後ろのドラム・セットへ下がる。
  トランペットをちょっと吹いたあとは、フロア・タムやタムにマウスピースをおしつけて、空気を震わせた。

  ディクソンとフォスターの土台で津上がアルトを吹いたとき、背筋がぞくっときた。
  ダンディで退廃的な空気に響くサックスの音が、ぴたりはまったんだ。あの瞬間だけで、この日は聴きに来る価値あった。
  
  あと一人は大蔵だったと思う。長いホースの先にテナー・サックスのネックとマウス・ピース、もう端にはサックスのベルをつける。

  マウスピースで鳴らさず、息を吹き込む音で勝負する。
  ベルの上に鉄板やスターバックスのカップの蓋、CDなどを次々乗せ替え、息で上下に震わせた。
  パーカッシブなアプローチだが、リズムは思い切りランダム。
  皆無なドラマ性にもかかわらず、確かにある種の流れがあった。

  アンコールはなし。さくっと終わる。大友が日本語と流暢な英語で夜の部の宣伝を軽く行い、ライブは幕を閉じた。
  来日組のほとんどは韓国から。地元で彼らのノイズがどう評価されてるか、良く分からない。カタルシスとは別ベクトルだし、奏者の目指す視点も見えづらい。

  もっと場数を踏んで、過激になって欲しい。各種の道具を使いこなし、さらに自己主張が激しくなった彼らの音楽を聴きたい。
  ディクソンのサウンドを聴いてて、思った。彼らの発想は、たしかに何か違う。新しいのか、異なる文化性なのかはわからない。
  が、確かに違う。だからこそ、好奇心がくすられる。

目次に戻る

表紙に戻る