LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

05/9/19   西荻窪 アケタの店

出演:緑化計画
(翠川敬基:vc、片山広明:ts、早川岳晴:b、石塚俊明:ds )

 緑化の月例ライブを聴くのは、去年の12月ぶり。ずいぶん間あいちゃったな。満員の盛況。
 演奏前、片山だけがステージにすわる。リードをつけ替えて音色を確かめていた。
 20時15分頃、落ちる客電。
 演奏の幕開けは"サウザンド・アイズ"から。インプロがふわっと広がった。

<セットリスト>
1.サウザンド・アイズ
2.メノウ
3.オホン
(休憩)
4.トレス
5.アグリの風
6.ウエスト・ゲート

 全て翠川の作曲。曲は耳馴染みあるので、インプロとテーマの交錯がよくわかる。すごく面白かった。

 "サウザンド・アイズ"では、インプロの途中で片山広明がテナーを吹くと、翠川がさりげなくテーマの断片を提示した。
 すかさず早川岳晴がベースで応える。ちなみにこの日は、すべてエレベで通した。
 片山はかまわず即興を続け、一呼吸置く。そして全員がテーマへ歩を進めた。

 冒頭は静かな展開。唐突に早川がファンク風味で細切れな低音フレーズをばら撒く。
 石塚俊明がするっと拾い、シャープなドラミングであおった。
 いっきにリズムをアップで攻めたてる。トシのドラムはブラシなのに凄い音量だ。
 合間でトシは、ダラブッカを叩いた。
 
 アドリブでアップな展開は、"メノウ"でも採用。
 渾然一体なアドリブが緑化計画の持ち味だが、ここではくっきりとテナーが片山から翠川へ繋がる。
 チェロは今夜、ほとんどがアルコだった。指板より先へ指を延ばし、超高音をのフラジオを響かせる。
 ソロでおもむろに奏でた、翠川のメロディがべらぼうに美しかった。

 「『ゴホン』という曲です」
 どの曲を弾くか、例によってその場で相談しながら決める。
 これも冒頭はインプロだったかな。中盤ではファンキーなジャズへ、軸足を力強くずらした。
 トシはダラブッカも叩く。曲によってマレットやブラシ、スティックと素早く持ちかえた。

 片山のサックスが、ステージを通していきいきと鳴り渡った。
 フリーキーに軋ませるだけでなく、ふんだんにアドリブの旋律をふりまいた。
 太く、そして優しく空気を貫く。隙がない。
 片山の左足はテンポと無関係に、せわしなく床を踏んでいた。
 
 果てしなくテナーのメロディーが展開し、チェロはオブリを弾きまくる。
 メロディ楽器二人の絡み合いっぷり、とびきり刺激的だった。

 ぎざぎざなシンバルの破片をスタックしたクラッシュを、トシは力任せに叩く。
 シンバルだけでなく、スタンドまでユラユラ揺れる。
 片山や翠川の額に汗が滲んだ。特に翠川は、幾度もタオルで汗をぬぐってた。

 しばしの休憩。後半最初の"トレス"は、メンバーごとに記憶してた曲名が違ったみたい。
 翠川の曲紹介に「おれは"xxx"って曲かと思ってた」との声が飛び交う。
 クリアファイルで緑化の譜面をきっちり管理する翠川だが、あれこれ譜面の順番が入れ替わってたようす。
 
 ベースを含めた三声の配分を、さっと翠川が決める。いきなりテーマから入った。
 ささやくような音量で。微かに、早川は弦を弾く。トシはシェイカーをそっと振った。やがて手のひらでドラム・セットを叩く。
 
 アドリブに進むと、次第にサウンドは瑞々しさを増す。
 ぞんぶんに音を展開したあと、柔らかくテーマへ。ドラマティックなアレンジだった。

 "アグリの風"もフリーなイントロ。翠川がなにげなくテーマを匂わせた。早川が続くフレーズをエレベでなぞる。
 アドリブをクローズさせる片山。全員でテーマをくっきりと提示した。
 片山のアドリブが、ひときわ冴えてたのがこの曲。

 トシも早川も遠慮なくあおる。ロックンロールなビートをいきなり叩き、にわかにハードな展開となった。
 早川はボリューム・ゼロで弦を強くはじき、直後につまみを拡大。余韻だけを響かせる奏法も使ってた。
 コーダも余韻なし。連打ですぱっと切り落とした。
 
 「静かに終わらせよう」
 翠川が"ウエスト・ゲート"を提案。そのままソロでインプロをはじめた。
 ベースを肩から外し、ピアノに置く早川。すっかり聴く態勢だ。
 それに気づいたか、翠川がちらりと視線を投げる。
 チェロの音はインプロからテーマへ、するりとずれた。
 あわてて早川はベースを担ぎなおし、演奏へ。そんな一幕がユニークだった。

 テーマこそ穏やかながら、アドリブではやはり力がこもる。
 刻まぬパーカッシブなトシのドラムをうけいれ、すっかりノービートでアドリブを展開した。
 まっさきにソロを取ったのは片山。たんまりと吹く。

 やがてテナーを膝に乗せ、タバコをくゆらす。
 アドリブは翠川が継いだ。チェロの無伴奏ソロで、豊潤な旋律をじっくりと奏でる。
 目を閉じ、俯いて翠川は自分の音楽と対峙した。

 唐突にトシがマレットで、フロアタムを強打。空気がゆらぐ。
 そのままロールへ。タムやシンバルへまわす。
 ビートの輪郭はくっきりし、グルーヴが復活した。

 けれども最後はピアニッシモで。早川は弦を撫ぜ、翠川はpppでアルコを微妙に操る。
 弓の動きを注視する片山。完全オープンで吹きながら。
 片山はそっとサックスへ息をそそぎ、翠川の呼吸で音が消えていった。

 ぐっと骨太な印象の緑化計画で、どのアドリブもばっちり。とびきり充実したフリージャズのひとときだった。

 久しぶりに緑化を生で聴いたが、即興の方向性が黒田京子トリオとは微妙に違う。
 緑化計画は全員が、あけっぴろげに音を展開させる。着地点すらあやふやにして。
 しかし演奏は破綻しない。誰もが自由に展開していながら、スムーズに音楽は成立する。しぶとく脈々と息づく、"フリー"な生命力が素晴らしい。

 今夜はソロ回しを前面に出すことで、個性が強調されて良かった。
 もちろんどこまでも自由で、破綻しないフリーの構成力も健在だ。大満足。

目次に戻る

表紙に戻る