LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

05/9/18   荻窪 グッドマン

出演:クラシック化計画
 (翠川敬基:vc、菊池香苗/沢田直人:fl、塚本瑞恵:p、with guest:金井康子:fl)

 奇数月に翠川敬基が開催する、クラシック化計画。聴きに行くのはずいぶんひさしぶり。
 今月のメイン・プログラムは、ブラームスのピアノトリオ1番だと勝手に思い込んでた。昨年に黒田京子トリオで演奏した曲だから。
 実際は自然体。意識はしてたとしても、変に肩の力をいれずに演奏された。

 フランクのチェロ・ソナタも、とレパートリーが事前紹介あり。でも、どんな曲か知らなかった。
 蓋を開けてみるとこちらも大曲。金井康子をゲストに招きながら、翠川が前半後半で長尺二曲と格闘する、ユニークなプログラムとなった。

<セットリスト>(不完全)
1.エマニュエル・バッハ:ハンブルガー・ソナタ(菊池、塚本)
2.フランク:チェロ・ソナタ(翠川、塚本)
(休憩)
3. ?(沢田、金井)
4.ブラームス:ピアノ・トリオ1番(翠川、菊池、塚本)

 ふだんの癖で一切メモ無し。曲の前に翠川が解説を加えたが、いまいち覚え切れていません。したがって不完全なセットリストですが、ご容赦を。
 
 デッドな音響のグッドマンにぴたりとはまったのが、"ハンブルガー・ソナタ"。
 くるくると転がるメロディは、穏やかな空気をまとって店内に響いた。
 フルートの音色が素晴らしい。広々とした空間が広がった。
 エコー無しでドライな響きのクラシックって、いいなあとしみじみ思って聴いた。

 続くフランクの演奏前。翠川はエンドピンの位置を、ステージの片隅に空いた、カーペットの穴にじっくりとあわせる。
 単なる穴ぼこを滑り防止に使ってるそう。でもチェロの演奏位置が、きっちり決まってるみたいで面白かった。

 フランクの曲も、メロディがふくよかに広がる。
 ほんのり陰をまといつつ、進む道の左右に様々な装飾を加えながら。
 二楽章、三楽章あたりが特に優しく耳をくすぐった。

 ピアノがホンキートンクに、ノイズをいくつか出してしまう。しかし塚本はかまわず朗々と弾ききった。
 空調の音だけが響く店内へ、チェロとピアノのアンサンブルが流れる。翠川は今日も振り幅大きいダイナミクスで弓を動かす。
 
 ピアニッシシモのピチカートが印象に残る。あれは、後半のブラームスでかな?
 撫でるように弦をつまみ、かすかに鳴らす。弦へ触るか、触らないかくらい。繊細なピチカートの鳴りが、とてもよかった。
  
 前半は約40分。しばしの休憩が挟まれた。
 BGMはジャズに変わる。えらくファンキーな「A列車で行こう」が流れたけど、あれはエリントンだろうか。

 後半は沢田、金井のフルート・デュオにて。ある作曲家の"Easy なんとか"とタイトルがつく組曲からと、もう一曲。2曲を披露した。
 「・・・これって、簡単な曲かしら?」
 沢田が曲紹介すると、金井が笑って呟く。

 ほんのり硬質な沢田と、柔らかな芯ある音色の金井のフルートが絡む。
 段取り勘違いで中断するハプニングもあったが、滑らかで力強い演奏だった。
 
 そしてクライマックスのブラームス。無造作に翠川はチェロを抱え、曲紹介した。
 チェロがチューニングの途端。前触れ無く、塚本はピアノを弾き始めた。

 黒田トリオより若干早いテンポを採用した。この日はバイオリン・パートをフルートがつとめる。
 アンサンブルとしては面白い。が、弦二本とはやっぱり別物だね。音の溶け方が違う。
 フルートでのアレンジは、より器楽的なかっちりさが目立った。

 ちなみにここでもハプニングあり。
 一楽章の繰り返しで冒頭に戻ったとたん、エアコンの風で翠川の譜面がめくれる。弓の弾き方を変え、二の腕で翠川は抑えようとしたが、かなわず。
 とうとう譜面が閉じてしまった。
 菊地が自分のパートもかまわず、押さえに来たが間に合わない。
 さすがに塚本も弾きやめてしまい、繰り返し無しでもう一度冒頭から。こんなこともあるのね。

 フルートとチェロでのアンサンブルは、楽章が進むにつれ慣れていく。
 三楽章だったかな。しみじみ美しかった。
 そして、ふわりと音楽が着地した。

 最近、クラシックを聴くのはクラシック化計画でのみ。こういう聴き手ってどうなんだろう。
 奏者は普段着、自然体でクラシックと向かい合う。
 ピアノがときたまホンキートンクな響きのときすらも。
 だけど全てをコミで受け入れ、素直にクラシックへのアプローチを味わえる機会って、貴重で贅沢なひとときだと思う。

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