LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
05/9/16 大泉学園 in-F
出演:黒田京子トリオ
(黒田京子:p,acc,etc.、翠川敬基:vc,vo、太田恵資:vln,)
今日の月例ライブは、いつもとちょっと雰囲気違う。ステージも、客席も。
週頭に二日間の東北ツアーを終え、様々なレパートリー披露したのも一因か。珍しく、長尺の即興で幕が開いた。
ミュージシャンらがどう思ってるかわからない。しかし長尺なインプロの親和度が産む魅力へ真っ先に惹かれたため、ぼくはすごく嬉しい展開だった。
<セットリスト>
1.即興#1(約30分)
2.即興#2(約15分)
(休憩)
3.ガスパチョ(新曲)
4.7th
day(新曲)
5.passing
6. ?(ヘイデンの曲)
7.バカな私
楽器をスッと構え、音を出す刹那。黒田京子がピアノの横に置いた袋へ手を伸ばす。
ビニール袋が擦れる音。静かに震わすパーカッション。
黒田の右手は、鍵盤へ乗る。ピアニッシモで音が響いた。
即興の始まりは静かに、さりげなく。翠川敬基と太田恵資は、目を閉じ俯いて楽器を弾く。
翠川はピチカートでピアノに応えた。ピアノの対岸で佇むように。左手のハンマリングだけで、弦を微かに鳴らす。
つと太田が取り上げたのは、コルネット・バイオリン。黒田トリオで、太田がこれ弾くの、ぼくは初めて聴いた。
リバーブをかけたマイク越しの音色は、掠れる倍音を引き連れる。中国を連想する旋律を、太田はゆっくりと奏でた。
バイオリンがソロを取る場面が多かい。世界は次第にアラブ寄りへ軸足を移したと記憶する。
弾きながら、弓でラッパの部分を叩いた。なんども、なんども。
次第に強く。鐘の響きを上手く取り入れ、緊張感を豊かな旋律へ織り込んだ。
つと、バイオリンを抱える太田。メガホンの部分へ顔を突っ込み、猛烈に吼え始めた。
ピアノがうねる。みるみる音世界はストイックさを増す。
チェロもバイオリンも、複数弦を一度に弾く奏法を多用。ぎしぎしと軋む。
翠川はフラジオを巧みに使った。高音が切なく響く。
やがて太田もフラジオで、チェロに返答。
もっとも聴き応えあったのは、バイオリンをアコースティックへ持ち替えたあと。前半は互いが俯瞰しあう、裾野の広さを感じた。
しかし太田がクラシカルなフレーズを提示し、すかさず黒田が応える。
ピアノの音がぐんとリズミカルにシフトし、ぐいっと前へ明るく動いた。
チェロが美しい旋律で応える。ロマンティックなフレーズをいきなり提示した。
いきいきと弾きまくるバイオリン。光景はカントリー寄りに移ったか。
一丸となって、ぐいぐいドライブする。即興とは思えない、ふくよかに音楽がまとまった。
二曲目の即興は、比較的短め。
他の楽器を使わず、長いソロを順回しで終わったろうか。
ピアノとチェロが即興で絡むとき、太田は演奏せずにずっと聴いていた。たしか。
つとバイオリンを構える。一節のバロックっぽい旋律。
二度、三度。太田はフレーズを繰り返す。
メンバーが反応し、くるくると音が舞った。きちんと整えられた、太田のフレーズ提示が強く印象に残った。
テンポは即興の展開で、ぐるぐる変わる。走ったり、ゆったり構えたり。
エンディングできゅっと、太田が強く弓で弾いた。
■
後半セットは、新曲群から。"ガスパチョ"は、以前のライブで披露した"ガンボ・スープ"に続く『スープ・シリーズ』だ、と翠川が説明する。
ライブの前日に書き下ろされた、ほやほやの新曲だそう。
冒頭はなんと、翠川のスキャットにて。チェロを爪弾きながら、喉を震わせる。即興ではなく、譜面かな?
日本的な風景が脳裏に浮かんだ。架空の郷愁を呼び起こす。ユーモアを狙うより、切なく誰かへ言いきかせるムードだった。
バイオリンは弓でなく、鉛筆に刺した金属のキャップで弦を叩いて音を出した。
テーマは一転、アップテンポへ切り替わる。くっと裏を食って始まる、バイオリンのテーマ。ピアノは軽快なリズム弾きから、ソロへ。
リバーブ・ペダルを踏まずに、黒田はソロを組み立てた。
ころころ音が転がり、コケティッシュな魅力をふりまく。
テーマへ戻ると、方針は変わる。リバーブ・ペダルを小刻みに踏み抜いて響きを操った。
かなりかっちりした構成。翠川のボーカルを前後にはさみ、ピアノとバイオリンのテーマも幾度も顔を出す。
"7th
day"は緑化計画ではいくどか演奏したそう。黒田トリオとしては、新曲になる。
アコーディオンを前面に立てるアレンジで、翠川は黒田をステージ中央へ呼び出した。
バイオリンやチェロのソロももちろんある。しかし、メインはアコーディオンだった。
譜面を眺めながら、黒田はアコーディオンを操る。キーボードが奏でるテーマのメロディは、すべて単音。だから輪郭がくっきりとなる。
アドリブでは和音に切り替え、ステップを踏んで黒田は弾きながら身体を踊らせる。
バイオリンも、チェロも優しくソロやオブリを入れた。
耳を閉じて聴くと、中世ヨーロッパあたりの宮廷サロンの幻景が浮かぶ。
全員がステージに、横一線に並ぶ絵面も新鮮でよかった。
"Passing"は富樫雅彦の曲。ひさびさにやるそう。軸足は翠川が、がっしり掴んだ。
イントロでベースは(ここではチェロだが)同じフレーズを呪術的に繰り返す。しかし翠川はコンセプトを換骨奪胎した。
フレーズが面影を残しつつ、みるみる変貌する。
音列が違う、アクセントが違う、音数が違う、タイミングが違う。
一つのフレーズをガラガラ変えて弾き続け、それでいてフレーズのイメージは確かに残す。強烈な演奏だった。
エンディングも翠川が締めたのは、この曲だっけ?
ぞんぶんに即興が膨らんだあと、まずバイオリン、次にピアノ。音が消えて、翠川だけが残った。
たっぷり時間をかけ、豪腕なデクレッシェンド。ピアノからピアニッシシモへ。
店内のクーラーの唸り音が聴こえる。チェロが微かに鳴る。
翠川はたっぷり余韻を残す。かすかに弓を動かした。静寂のコーダに向かって。
ヘイデンの曲は、多分ライブで聴いたことあると思う。曲名は告げず、詳細不明です。ごめん。
黒田がアレンジを引っ張った。
バイオリンやチェロのフレーズを包む。優雅に、残酷に美しい空間を作った。
ドライブする力強さでは、とびきりの演奏。
弦のアンサンブルが音の芯をぐっとこめる。ピアノがしっかり受け止め、さらに音楽に膨らみを増した。
ぐいぐい惹かれ、時間があっというまにたった。
ラストはその黒田の曲で、ライブでは馴染みのレパートリー。
冒頭が完全フリーなインプロで、自由に三人が絡んだ。
馴れ合いでも、果し合いでもない。一人一人が音を組み立て、互いのアイディアを切っ掛けに音楽を組み立てた。
バイオリンを弾きながら、太田はかがんでメガホンを手に取った。
が、口に当てようとした瞬間、即興からテーマへ行くムードに。
太田はいさぎよくメガホンを横へ置く。
そして、全員でテーマへ。コミカルさは控えめに、力強く。
前回とはすでに違う地平をめざす、黒田京子トリオだった。
小物や持ちかえのアプローチは控えめ。それぞれの楽器のみで真摯に向かい合う。特殊奏法もふんだんに入れて。
ストイックさと冒険心と、両方が混在する。ひりひりした緊張が心地よい。
次はどんな演奏か・・・楽しみ。