LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

05/8/27   下北沢 Lady Jane

  〜ハナシガイ Vol.9〜
出演:太田恵資+斉藤ネコ
 (太田恵資:vln,per、斉藤ネコ:vln)

 二人が奔放に喋り、たまに演奏する異色のイベント。
 斉藤ネコがどんどん突っ走り、太田恵資が慌てて方向修正に走る姿がスリリングだ。
 なあなあじゃないから。ムチャな客いじりして、どうやって収拾つけるのか、ハラハラするシーンもある。

 店内は予約した客でかなり埋まったらしい。満席の盛況だった。
「何でこんなにくるんだろう」
「レディー・ジェーンがこんな埋まったのはじめて見た」
 と、二人とも苦笑していた。

 ライブは19時45分くらいに、早々と始まった。
 まずは席に座って、ふたりでのんびりお喋り。
「とりあえず8時までに演奏するのを目標にしよう」と言いつつ、楽器を持ったまま喋り続け。
 じっくり楽器をこすり、弓へ松脂を塗る。

 斉藤ネコは一週間ほど休暇で旅行に行ってたらしい。バイオリンを触るのは久しぶり、という。
 旅行にバイオリン持って行くもんか、と喋る斉藤へ、
「ぼくならバイオリンを持っていくなあ」
 太田の一言が、なんだか印象に残った。

 バイオリンの弾き方を忘れた、弓の持ち方はどうやるんだ、と斉藤が騒ぐ。
 グリップをわしづかみにするネコの手状態で弓を構え、器用にバイオリンを奏でた。
 さらに冗談で膝へ弓を挟んで、バイオリンそのものを動かし鳴らす。フレーズまで作ってたよ。すごいな。

 「まずは演奏しましょう」
 促す太田。そのネコ手をテーマに、お互いインプロを始めた。どう弾きづらいのか、素人には分からないが・・・。
 そんなもんできません、と辞退してた太田だが、最後までネコ手でバイオリンを弾く。
 途中で「腕がしびれた」と持ちかえた斉藤を見逃さず、「裏切りもの〜」とつっこんだ。

 前半はトークが多かったかな。笑いながら聴いてたけど、あんまり細かいとこを覚えてない・・・。

 たまたま用を足しに立った観客がステージ前を横切ったあと、
 「もう、席に戻れないような、素晴らしい演奏をしよう」
 太田が言い出し、ソロで歌いながら弾く。斉藤は加わらず、独壇場だった。
 ちなみに観客はさくっと席へ戻る。当然だが。斉藤が「戻ったじゃない」とさっそくつっこんでたな。

 前半は一時間程度。最後にもう一曲、即興やったかな?
 今回はかなり演奏の比重が高かった。
 フィドルっぽい響きで柔軟なインプロを聴かせたのは、確か第一部だった。

 圧巻は後半。15分くらいの短いスパンで、すぐさま幕が開く。
 休憩時間は二人とも、観客と雑談してた。
 ライトがステージへあたっただけで、喋ってることは休憩中と何も変わらない、と斉藤が笑う。

 二人ともひっきりなしに呑み続け、斉藤ががんがん客をいじりだした。
 まずは自分のバンドのメンバー(?すみません、よく聞き取れませんでした)の二人を、客席から強引に引きずり出した。
 バイオリン奏者らしく、自分らの楽器を手渡す。

 相当戸惑っていたが、「同時に別のクラシック曲を弾く」って太田のアイディアを採用。
 一分程度弾いて、すぐに客席へ戻った。

 このアイディアを太田と斉藤が、膨らませて演奏することになった。
 しかし演奏するまで、かなりすったもんだ。
 斉藤が喋り続け、なかなか弾かない。なんとか演奏へ持ち込もうとする太田のそぶりが可笑しくって。

 実際の演奏は、きゅっと締まる。太田のフレーズへ斉藤が即座に反応。
 視線をぐっと上げて考え、すぐさま新たなパターンで切り込んだ。
 ソロをぶつけ合うインプロでなく、二人が自在に絡み合う味わい深い演奏がいっぱい。

 ちなみにここでは斉藤がある一曲をモチーフに、展開させ続けたらしい。
 かなり長めの演奏で、聴き応えばっちり。
 自由に展開し、世界がくるくる変わる。肩から力が抜け、かつアイディアに満ちたサウンドだった。

 ぼやき漫才みたいな喋りは続く。

 さらに飛び入りで、観客だった高瀬麻里子(Vo:元DiVa、現トランスパランス)を、強引に歌わせた。
 太田の知り合いだそう。斉藤はステージ横の椅子へ陣取り、観客気分。
「これ、こっちから見てると面白くていいなー」
 と、しきりに言いながら楽しんでた。

 太田は高瀬のアカペラを想定してたようす。
 しかし、彼女のリクエストで太田のバッキングによる"リンゴ追分"をやることになった。
 いっきなりアラブ風に唸る太田。
「どこがアフリカなんだ〜」
「北アフリカということで」

 アップライト・ピアノへもたれかかった高瀬は、太田の即興が区切れたとたん、マイクを掴んで伸びやかに歌った。
 フレーズを揺らしながら、スキャット風に絡む。
「うまい!」
 斉藤が声をかけ、傍観をやめてすぐさまステージへ戻った。バイオリンを構える。
 
 太田と斉藤のバイオリン・デュオへ、なめらかにスキャットが絡むさまは面白かった。
 途中でタールを構え、叩きながら歌う太田。
 思い切りハプニングだが、聴き応えあり。この三人の組み合わせでちゃんとしたライブ、聴いてみたい。

 5分くらいの演奏で彼女は舞台を去る。
 最後に一曲、インプロをやってステージを締めた。
 演奏する前には、やまほどトークがあったけど。

 太田の提案で、モチーフは斉藤の発案となった。
 ラムの入ったグラスを高くかかげ、太田と乾杯する。二度、三度。

 その音を斉藤は、バイオリンの強い一弾きで表現した。
 すぐに穏やかなサウンドへ変化。pppでの静かな雰囲気から、ばりばり弾きまくる瞬間まで。
 ころころと二人は鮮やかに風景を変えた。音は集中し、次第に店内が静かになる。
 
 「終わりでーす」
 宣言したのが22時半くらいかな。
 リラックスしたムードながら、かなり長時間のステージだった。前回聴いたよりも、演奏の比率が上がってた。
 肩肘はって聴きに行くライブとはちとちがう。しかし奏者のいう「ある意味、とてもアヴァンギャルド」なのは間違いない。

 逆にこのライブの構成を理解しないと、成立させるのつらそうだ。観客だけでなく、奏者も。
 たまたま今日はライブ目当てじゃない、一般の観客も来てた。その人たちがいたから、逆に演奏比率が高まったのでは。
 つまりこのライブはリラックスしてるようで、微妙なバランスの上で成立してる。パフォーマンスの本質を考えてしまうライブだった。
 まあ単純に二人のトークと、たまにやる演奏を聴きに行くつもりなら、ばっちりだ。

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