LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
05/8/17 大泉学園 in-F
出演:太黒山
(太田恵資:vln,per,etc.、黒田京子:p,acc,etc.、山口とも:per,etc.)
季節に1回のペースでライブを重ねる大黒山。ライブを聴くのは去年の7月ぶり。
満員な客席の明かりがふっと消え、ステージ上で音を無造作に出し始めたミュージシャンたち。そのまま自然にライブが始まった。
太田恵資はアコースティックとエレクトリック、さらにコルネット・バイオリンも準備する。しかしコルネット・バイオリンは使わず。残念。
眺めてたらコルネット・バイオリンは、ザンバラになった弦の切れ端を入れる器としてのみ、この日は機能してた。タールやメガホン、さらに小物もどっさり。
ライブ中に三人で小物の応酬になったが、次から次へといろんな鳴り物が出てくるのに驚いた。
黒田京子はアコーディオンも準備。さらに各種の小物もあれこれ仕込んでた。
山口ともは先日のライブより若干こじんまりな、手製のドラム・セット。横にやはり、さまざまなモノを配置済み。
冒頭はノービートのインプロ。山口が足元でからから鳴らす。金物を蹴ってたの?
バイオリンとピアノが静かに交錯した。
ところが。いつのまか空気が収斂、めくるめくクラシカルな世界が構築された。
今日は三人とも冴えまくり。とびっきりだった。
基本は即興。ピアノが整えた舞台へ、アコースティックのバイオリンがするりとはまり、きれいなメロディを惜しげもなくばら撒いた。
山口はドラム・セットを存分に使い、刻み続ける。ビートを作るよりも、今日はよりパーカッシブなアプローチだった。
最初の即興はおよそ40分弱と長め。
いくつか切れ目があっても、誰かが音を繋いで曲を終わらせない。
中盤で黒田京子が静かにピアノを鳴らした。優雅に手を動かし、音を浮かばせた。
微かな響きが漂う。太田も山口も手をとめ、黒田を見つめた。
やがて太田がバイオリンを構えなおす。新たなメロディを提示した。
フレーズは5拍子。バイオリンの即興テーマに二人が合わせた。いったんパーカッションのフィルを挟んだか。
いつしかフレーズは6拍子に変わり、豊かに奏でられる。
からりとピアノが転調し、空気の色を変えた。
「ずいぶん長くやりましたね・・・もうひと絞りしましょうか」
きれいに最初の曲が着地のあと、太田が時計を覗いて提案した。
次の即興は、たしか山口の手製マリンバがイントロ。
発泡スチロールの上へ硬質ガラスのような板を幾枚も並べ、音程を作る。
どこかの箇所で、山口は口笛を吹いていた。
めちゃめちゃきれい。鳥のさえずりみたいな倍音を含み、ころころと転がる。あんな口笛、初めて聞いた。
黒田は鳩笛を静かに吹いていた。
太田はエレクトリックに持ちかえ。足元のスイッチでリフをサンプリング風にスタート/ストップさせ、アドリブを弾き続ける。
リフが鳴ると、山口も同じリズムで応酬した。
バイオリンのメロディはどんどん溢れ、いつしかウエスタン風味のロックンロールに音像が変わった。
パーカッションがシャープにエイト・ビートを刻む。
とにかく太田が止まらない。
二人にソロのスペースは与えつつも、果てしなくとびきりの旋律を産み続けた。すごい。
ストイックに追求した前半から一転、後半は笑いの絶えないステージだった。
まずは山口がホースをくわえ、鉄腕アトムの前半部分を吹く。長いチューブをボンゴ風に叩きながら。
フレーズを揺らし、唸りながらチューブを激しく打ち鳴らした。
塩ビの笛も吹いた。フルート風にきっちりメロディを作るテクニックに舌を巻く。
発泡スチロールに小瓶を並べた独特のパーカッションを使った。
「参加しようと思ったけど、入れなかった」
曲が終わったとき、太田が苦笑したほど。黒田も太田もすっかり観客で、山口のパフォーマンスを楽しんでた。
終わるとすぐさま黒田がアコーディオンを構えて、即興で歌いだす。
ノンフィクションという、自らのエピソードをアコーディオンで弾き語り。
歌詞へ引っ掛け、エンディングで牛のオモチャをたかだかと掲げる。
「モオォ〜」とのんきに鳴くオモチャに、観客も大受けだった。
すかさず山口は鳥のオモチャを出す。これも音が出るんだ。
太田はトカゲのオモチャで対抗。小物の応酬が始まった。トカゲのオモチャは、尻尾を押す位置で音程が出る。
器用にそれで鉄腕アトムのフレーズを作る太田へ、拍手が飛んだ。
なんとなく個人芸の披露っぽくなった第二部。
「やりにくいな〜」とぼやきつつ、太田もしっかりホーメイのロングトーンを提示した。
ロングトーンのホーメイ。アコースティック・バイオリンをウクレレみたいに爪弾きながら、えんえん唸った。
ボーカルはアラブ風に力強く変化する。さらにメガホンのボイスで締め、大きな拍手を呼んだ。
さらにアンサンブルは続く。バイオリンのイントロを踏まえ、黒田がピアノ・ソロで奥行き深い空間を作った。
山口がカホンとして椅子を叩いてたのはここ?メモを取ってなく、どうもあちこち記憶があやふや。
ピアノとバイオリンのアンサンブルは、滑らかに即興でタンゴを奏でた。
濃密に即興が交錯し、サウンドが一丸となってドライブする。
セッションじゃない。バンドとしての演奏だった。
第二部は50分くらい。やまぬ拍手に、そのままアンコールへ突入した。
山口がハナモゲラでぼやき調に歌いながら、パーカッションを乱打するのがイントロか。
二人も加わり、ロックンロールで威勢良く演奏をぶちかました。
即興の溶け具合がばっちり。メンバーがかぶっている、黒田京子トリオの親和度を連想した。
山口がパーカッションをつとめることで、音楽の輪郭がよりくっきりする。
ポリリズムでノリを分解しない。連符やアクセントの位置をずらしても、ビートはきっちり踏まえたドラミング。
さらに太田と黒田が存分に即興を膨らませ、ふくよかで味わい深い音楽が産まれた。
その上、全員が芸達者。小物も巧みに操り、ストイックさとコミカルさの両方を兼ね備える。
今回の感想も、いろんなネタのほんの一部だけ。もっともっといろんな場面があった。正直なとこ、細かいの全ては覚え切れてないのよ。
とにかく仕事始めのストレスで、くさくさした気分を一気に吹き飛ばしてくれた。気持ちよかったなあ。
奔放に展開する、心地よいアンサンブルを堪能した夜だった。