LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2005/8/13 新宿 Antiknock
〜能伊勢(ノイズ)第弐幕〜
出演;是巨人/一噌幸弘+捜血鬼/Merzbow/Gallhammer
なんだか珍しいブッキング。どのバンドの仕切りだろ。
アンティノックははじめて行った。ちょっと駅から遠い。中はいわゆるロック系のハコ。
防音のためか、ドアは三重。扉を開ける行為に期待が高まる。
Gallhammer
Sleeping
Beautyのボーカルがドラムのバンド。聴くのは2回目かな。デスコアでいいのかな。語れるほどこのジャンルは聴いてなくって。
門外漢なのでナパーム・デスみたいな、高速のほうが取っつきやすい。正直なとこ。
開演時間きっかりに登場する。ハナからハウリングが轟いた。
ギター・アンプから音が出ないハプニングで、進行が止まってしまった。ぎりぎりまでベースとドラムの音で繋ぎはしたが。
女性ボーカルが、うがいボイスでがなる。
たまにトリッキーなリフが出ても、変拍子じゃなさそう。
ドラムがハイトーンで歌い、メインがデスボイスで絡むのが一曲あった。ああいうほうが好み。どうもぼく、デス系が分かってないな。
スローな曲が大半で、たまにアップが挿入された。
音がでかい上にひずみまくって、何の音かいまいち読めないのがつらかった。
カタルシスを求めてロック聴く志向がいまいち無いもので。すまぬ。
Merzbow
もちろん今日の目当て。ライブはひさびさに聴く。
今日はラップトップを二台並べ、中央にミキサーを置いた。
パワーマックの背には、いくつものステッカー。アニマル・ライツを宣言する趣旨のシールだったと思う。
スタッフと二言三言打ちあわせ、接続を確認して椅子に腰掛ける。
客電が落ち、左右からのスポットが秋田昌美を照らした。
無表情にマウスを動かす。
低音が左右のスピーカーから漂った。
じわっと極低音のぬめりが、音圧となって身体にまとわりつく。
この肌触りと圧迫が、メルツバウの魅力のひとつ。
咀嚼音のようなサンプリングをループでまわす。
やがてハーシュが耳をつんざいた。
しかし爆音ではあるものの、さほど音は大きくない。
音量の和らぎはこの前のライブでも感じた。最近は音量控えめなのかな。
ステージは約1時間の一本勝負。
秋田は無表情にマウスを動かし、ミキサーのつまみをいじる。
ループを基調で次々素材を呼び出し、波形操作の加工をしてたようす。
左右のスピーカーそれぞれより、違うノイズが出る。
明確なビートの多用が新鮮だった。
ハーシュの奥で、前半では7拍子の低音が鼓動のように刻む。つぎつぎに上モノが折り重なり、次第に表情を変えた。
通低するのはメルツバウの冷静な視線。さらに優しさのにじみも感じた。こんな印象、メルツバウのライブで感じたのは初めて。
爆音だけどビートとノイズの心地よさで、つい転寝してしまう。ほんの数分。
はっと気づくと7拍子のビーとは消え、たしか4拍子に変わってた。
むろんダンサブルさを狙わない。しかし淡々とビートが刻む。
観客席は静まり返ったまま。ステージ前は身じろぎもせず、顔を伏せて聴き入る姿が多い。
ひょいと移動できる雰囲気でなく、ちょっと困った。
あちこち歩きながらノイズを感じるのも好きなんだけどな。
秋田は観客の振る舞いはまったく感知せず、ただ画面を厳しく見つめた。
サングラスの奥に光った瞳は、揺らがない。
たまに足でリズムをとる。出ているノイズとの関係はさっぱり分からなかったが・・・。
猛烈に吹き出す爆音がフロアを埋め尽くした。
やがて、音素材が減っていく。
冒頭の咀嚼音っぽいノイズが再び顔を覗かせた。
そして訪れる静寂。
余韻を残し、ノイズが消えた。
観客の拍手に応えるでもなく、秋田はパワーマックを閉じて無言でステージを去った。
一噌幸弘+捜血鬼
この組み合わせでライブは初かな?捜血鬼はブラックメタル・バンド凶音の別プロジェクトらしい。
まっすぐに笛を吹く一噌とは対象的に、捜血鬼はケレンみたっぷりのステージだった。
最初に登場したのは一噌ひとり。紋付袴の正装で、腰に数本の笛を挿す。
すっと背筋を伸ばし、半身で笛を構える。高らかに和笛の音が響いた。
即興か曲かは分からない。ソロが続く中、捜血鬼のメンバーが登場した。
白塗りでもろ肌出したドラマーが、ヘッドホン・マイクでなにやら呟く。
でかい音でメタル・サウンドをぶちかました。
これも爆音で細かい音が聞き分けられない。特にキーボードは九割方、なにを弾いてるのか分からなかった。
前半の曲ではドラムが三三七拍子で叩く。もともとこういう芸風のバンドなのかな。
バンドが一旦音を止め、ドラムのみで一噌のソロに立ち向かう。
残念ながら、ツインペダルのリズムがモタり気味。インテンポの笛とズレるのが惜しかった。
和風のブラック・メタル要素を滲ませ、フロントのギターとベースが掛け声を入れる。メタル版の一世風靡セピアを連想した。
アンサンブルのアレンジは、どこまで捜血鬼と一噌が絡めていたか不明。
けれどまったくの即興ではなさそう。真摯に笛を吹く一噌と、足を踏ん張り刻むギターや、金髪の髪を振り回し暴れるベースの対照的な絵面は、見てて飽きなかった。
せっかくの紅一点なキーボードが、陰に隠れて惜しい。
一噌は足元にいくつか譜面を置き、曲順を確かめながら吹いていた。
循環呼吸を多用し、二曲目やラスト前では縦笛の二本吹きも披露する。角笛も吹いた。
本来ならば曲によって吹く笛を変えるはずだったのでは。曲の区切りごとに、足元にずらっと置いた笛や腰の笛を確認していたから。
実際はいかんせんPAの都合で、選ぶ笛が限られたようす。
曲ごとにいくつか違う笛を吹いてはいたが、最終的には全て小ぶりの横笛に手を伸ばす。
高らかに音を貫き、高速フレーズで駆け抜けた。
ステージはやはり1時間弱。圧巻は一噌のオリジナル「落石」だった。
リフを捜血鬼が弾いたとたん、ハードロック調のアレンジがぴたりとはまるんだもの。
こんなに相性いいと思わなかった。
MCは何もなし。一噌にブラック・メタルの異物をぶつけて融合させる、企画物の印象が強い。この手の交流に慣れぬ邦楽奏者の、戸惑いを演出するなら別の面白さがあったかも。
しかし八面六臂の活躍な一噌だから、本当の意味での違和感がない。組合せの一つとして、単純に面白がってしまう。
アイディアはユニークなので、さらに深めた演奏を聴いてみたい。いっそドラムに仙波清彦あたりを入れたらどうだろう。
是巨人
(吉田達也:ds、鬼怒無月:g、ナスノミツル:b)
彼らのを見るのは2年ぶり。ずいぶん聴くのサボってた。
前のバンドがはけると、すぐに彼ら自身が準備を始める。鬼怒も吉田も首にタオルを引っ掛けた、ラフな普段着姿。
これまでステージ衣装を着ていたバンドと違い、飾りっけない姿だった。
ドラムがチューニングにてこずる。どんどん吉田はピッチを上げた。今回もスネアを二個使うセッティングだった。
他の二人は準備が終わると、いったん袖へ下がる。
ドラムの準備が終わったところで、吉田が手招きしてステージへ呼んだ。
スティックのカウント。無造作に演奏が始まった。
久々に聴くのでセットリストはあやふや。
終盤まではMC無しで、つぎつぎ曲を演奏した。10曲くらいやったか。
最初はメドレーで、たしか"You
know what you
like"へつなげる。
ほかには"Arabesque","Betwixt","Quicjsilver","Doldrum"なんかをやった。
"Preparation","Free
stone","Hash"なども、演奏したかも。自信ない。
しばらくぶりに聴いたが、スピードがぐっと増していた。
全員が暗譜で複雑な構成を弾きまくる。どういうリハをしてるんだ。
インプロもあるようだが、高速リフと同じテンションで切れ目無く繋がるので、区別つかない。
音は全バンド中、もっとも聴きやすかった。かなりボリューム落としてた。
しかしサウンドのパワーが、圧倒的なスリルでせまる。
PAがとことんドンシャリでまいった。ギターが音を歪ませると、かなり痩せて聴こえたもの。
一曲づつ区切りつけて演奏するが、喋りは何も無かった。
曲の切っ掛けは吉田のカウントだけじゃない。
ときには鬼怒が自分のリフが切っ掛けと忘れてたらしい。
吉田にうながされ、苦笑してギターを弾きはじめるシーンもあった。そんな肩の力が抜けたステージぶり。
しかし曲が始まると、テンションはトップギアへ入ったまま。
けれども曲によって、静かな構成も取り入れたのが新鮮だった。
吉田がシンバルのみでリズムを構成し、サイケに膨らますシーンも。
ナチュラルな響きで超高速リフを弾き倒す、ナスノの凄さにも目が離せない。
三人がポリリズムでリフを組み立て、次の瞬間にはユニゾンで駆け抜ける。
ますますアンサンブルがタイトになっていた。
残り2曲で、MCが入った。手元にマイクが無い、と吉田は喋りを鬼怒にまかせる。
いつもの気楽な口調で「是巨人です〜」と鬼怒は挨拶した。
今月末にスタパで予定するデビッド・クロスとのイベント紹介をひとくさり。"太陽と戦慄"をやる予定だが、肝心の「デビッドが弾いてくれるか・・・?」な状態らしい。
最後の2曲として、「吉田達也によるブラック・ミュージックとプログレの融合」と説明された"Jackson"、「弾くのがすごい大変なんです」って"Isotope"を紹介した。
"Jackson"のポップなメロディを、鬼怒は口ずさみながら弾く。
ナスノは平然と複雑なフレーズを弾きまくる。
"Isotope"でも顔色一つ変えず、楽々とベースを操った。
メリハリ利いた曲展開でコーダへ。変にがしゃがしゃ盛り上げず、すんなりエンディングへどの曲も着地する。
「是巨人でした〜」
鬼怒がメンバーをあっさりと紹介し、袖へ消える。
ドアをくぐる寸前、ぴょんっとスキップする鬼怒の仕草が面白かった。
アンコールの拍手にやがて応えて現れも、曲を決めてないのか相談が始まる。
猛烈なテンポで演奏したのは、"On
Reflction"だったと思う。
ブロックごとの切り替えも滑らかに、ギター・ソロも織り込んで。
アンコールまで緊張を切らさず、爽快なライブを提示した。
ハードなエッジの音に軸足を置いたステージングが、こじんまりしたライブハウスに響いた。
これで2000円はべらぼうに安い。バンド転換も素早く、きびきびと時間をすごせた。
濃密な音圧と素晴らしいテクニックが、痛快につんざいた夜だった。