LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
05/8/12 大泉学園 in-F
出演:梅津+太田+山口
(梅津和時:as,ss,cl,bcl,key,etc、太田恵資:vln,per,etc、山口とも:per)
3人での演奏は初めてかな?少なくともぼくは初体験。
ライブは太田恵資が開演に間に合わず、デュオで幕を開けた。
「太田さんが来たら、演奏がどんな状態でも拍手してくださいね。そしてセッティングが終わるまで、"太田コール"をぜひお願いします」
梅津和時が開演前に笑いながら一言。
無造作にライブが始まった。
山口ともは様々な自作パーカッションを、ドラムセット風に高々と組んだ。かなり大掛かり。
梅津もピアニカから各種サックス・クラリネットをピアノの上に並べる。
梅津は最初にクラリネットを手に取った。
山口は横に置いた発泡スチロールの台へ、数本の角棒や枝を並べる。マリンバのように音程を作って、訥々と叩いた。
クラリネットを循環呼吸で吹く、梅津のテクニックにたまげた。
メロディを提示する梅津へ、つかず離れず手製マリンバが鳴る。
デュオが10分くらいたち、ピアニカを梅津が吹いている頃合か。
In-Fのドアが開いた。
しばらく、空いたまま。誰も中へ入らない。
やがて笙を吹きながら、一人の男が登場。
観客は大笑いしながら、大きな拍手で太田恵資を迎えた。
戸惑い顔ながら、太田は笙を吹く。やがて苦笑して、梅津の手招きで中央のスペースへ。
バイオリンケースを両手に抱え、マシンガンよろしく客先へ打ち鳴らして見せた。
手早く楽器を取り出し、力強くバイオリンを奏でた。
梅津はこれまで手にしていなかった、アルト・サックスを掴む。
いきなりメロディアスな世界がうまれた。
曲をやるかと思ってたが、今夜は完全即興。
たまに梅津がスタンダードのメロディの断片を提示する。
"枯葉"や"マイ・フェイヴァリット・シングス"など。
ペースを掴もうとする太田に向かい、梅津が次々に技を提示した。
山口はドラム・セットごしに見づらいのか、時に伸び上がってほかの二人を確認してた。
彼のビートは奔放に見せかけ、そうとうタイト。
ササラのスティックやマレットも使い分け、ジャストなリズムを作る。
左右で違うビートを持ったりするが、今夜は比較的オーソドックスな刻みが多かった。
だからこそ手製楽器の、トリッキーな響きが面白く鳴る。
楽器のみならずスタンドすら、パーカッションの一部として叩いた。
もちろん梅津や太田の技に呼応し、バード・コールや小物パーカッションで応えもする。
太田は素早く場にとけこみ、山口や梅津の技に応えて膨らます。
とにかく奔放なステージだった。
梅津はひっきりなしに楽器を持ちかえた。
バスクラ、クラリネット、ソプラノやアルトサックス、そしてピアニカ。
一つのフレーズをじっくり膨らませるより、次々に溢れるアイディアを存分にばら撒いた。
太田の持ってきた、音の出るワニのオモチャを玩ぶ梅津。頭に載せてぴこぽこコミカルに鳴らした。
「俺の楽器だ〜」と、太田が無言でアピールするのが愉快な光景だった。
さらにクラリネットのベルを外し、カズーっぽく吹く梅津。
ドナルド・ダックに見立てた太田は、ホーメイを山口の手製タム(アルミ缶やプラスチックの樽)に向かってぶつけた。
何の脈絡だったか、梅津が「おおたかさんが、いればいいのに」と呟いた。
そのまま携帯を引っ張り出し、おおたか静流へ電話をかけはじめる。
残念ながら(?)留守電。手早くメッセージを吹き込み、観客へ携帯を掲げる。
大きな拍手をしたが・・・はたしてあれ、メッセージで聴こえたのかな。
むろん音楽的な展開もあり。あれは何が切っ掛けだったか覚えてない。
第一セットの圧巻は、ファンキーなC/W風に三人が疾走した。
山口はここで、きちんと刻みに入る。
パーカッシブなビートを作るかと思ったら、素直にビートを提示した。
金属製の灰皿二つで作ったハイハットがスムーズに動き、鈍いバスドラ風の音も聴こえる。
太田のバイオリンがみるみるメロディを溢れさす。弓をおどろにほつれさせ。
たしか梅津はソプラノ・サックスを吹いてたと思う。
山口がブレイク・ビーツ風のリズムに切り替えると、太田は指を曲げて地を指し、ラップをはじめる。
即興で言葉が続かず、途中で大笑いしながら中断してた。
疾走した演奏がすぱっと途切れ、第一部は終了。45分くらいか。
後半戦は山口が違う楽器を準備した。
金属製の箱の表面を叩くと、場所によって違う音程が鳴る。どういう仕組みだろう。
スティール・ドラム風の響きに乗り、太田や梅津が演奏を開始した。
最初はバスクラのケースに梅津が譜面を載せ、スタンダード(?)を初見で吹く。
ところが取り落としてしまい、笑いながら譜面をばさばさめくって音を出した。
後半セットの盛り上がりは、梅津がバスクラでアラブ風のフレーズを提示したところ。
高々とバスクラを振り上げ、バイオリンをあおった。
別のタイミングでは、太田がぐるっと一回転するしぐさを幾度か繰り返す。それも演奏しながら。
前から狙ったマイクと位置をずらすことで、ボリュームの変換を狙ったか。
実際にはこの日、全員が生音。太田のみ、少量のリバーブをマイクでかけていた。
したがってほとんど生音が聴こえてしまい、もしこの効果狙いなら分かりづらかった。
しかし後半も、非器楽なアプローチに軸足置いた即興だった。
ステージで三人が楽しげに遊び、演奏が膨らむ。
梅津はネックを水の入ったコップに入れてぶくぶく泡立てた。
ペットボトルを持った太田は、うがい風に水を含みペットボトルを吹く。
マウスピース抜きでサックスを吹く梅津に対抗してか、ラッパバイオリンのベルでメガホンよろしく太田が叫ぶシーンも。
この日、ラッパバイオリンの出番はここだけ。せっかくだから楽器の音も聴きたかった。残念。
山口も黙ってない。山ほど並んだ楽器を次々叩き、横にあった鉢を鈍く叩く。
梅津が横から取り出した木魚を叩き、太田はバイオリンを爪弾いた。
後半は太田がほとんどバイオリンを弾かなかった。後半はピチカートが中心。ウクレレ風に構えて爪弾く。
梅津と山口の応酬では、一人淡々と弦を爪弾く。あの違和感も興味深かった。
山口の楽器で面白かったのは、金属製のベルに長いスプリングを下げたもの。
スティックでスプリング部分をこすると共鳴し、ベルが玄妙に響いた。
最後はなんだか静かなムードにだったかな。
ハンド・パーカッションの中へ小豆をいれ、波の音を山口が作った。
とにかくアンコールの印象があまりに強くて・・・。
拍手に応えアンコールへ突入するも、なんだかアイディアが空中分解。
たんたんと山口が叩く鐘の音が響く。いつしか太田もタールを捧げ持ち、梅津も店にあったタムを抱える。
山口も小豆をしまったハンド・パーカッションを静かに鳴らした。
ステージ中央で三人が見つめあい、じわじわとパーカッションが鳴る。
「・・・もう終わりでいいよね」
誰かが呟やき、ゆるゆるのムードでステージは幕を下ろす。
そのとたん、雷鳴が大きく轟いた。
とにかく笑いの絶えないステージだった。
楽器の一部を巧みに演奏する梅津と、さまざまな打楽器を鳴らす山口のアイディアを、太田が巧みに料理するシーンが入り乱れた。
完全即興ながらメリハリあり、弛緩が無い。・・・アンコールは、また別ですが。
互いのアイディアを咀嚼し膨らます、反応の速さが面白いライブだった。