LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

05/8/6   西荻窪 アケタの店

出演:明田川荘之
 (明田川荘之:p,オカリーナ)

 無造作にピアノの前へ座った明田川は、ペダルを踏まずに鍵盤を叩いた。
 ごつごつした音使い。今回はピアノの前に小さなマイクを乗せてオカリーナの音を拾う。
 そのためか微かに、コツコツと鍵盤を叩く音そのものも聴こえた。

 曲名を思い出せない。聴き覚えあるのに。
 アドリブが展開する。まだ、ペダルは踏まれない。

 ひとしきり骨太なジャズが展開された。おもむろに踏まれるペダル。
 音がゆっくり伸びる。
 そして、エンディングへ。
 ペダルを踏みっぱなしで、最後の音を店内へ響かせた。
 
 そのまま身体を曲げ、椅子の高さを調整する。
 オカリーナを手に取った。ピアノの残響はまだ、店内に響く。
 静かに音が消えたとたん、オカリーナが静かに鳴った。

 クラシカルなメロディで、オカリーナのソロをひとしきり。
 MCはなにもなく、次の曲へ移った。今度はピアノで。
 センチメンタルでしぶとい雰囲気が好きな曲。今度はペダルをゆっくり踏みながら、ぐいぐい前へ前へ進む。

 「"ジャズ・ライフ"って曲でした」
 ぽつりと俯いたまま、曲を紹介する。
 もういちどオカリーナを手に取ったかな?

 いつのまにかピアノは強烈なクラスターにすり替わってた。 
 両腕が鋭く振り落とされ、肘と腕が鍵盤をぶったたく。
 立ち上がって、鍵盤に腰を下ろした。ちょっと気の抜けた響き。

「暑い・・・5分休憩ね」
 そのまま唐突に演奏をやめ、明田川は店の外へ出てゆく。
 30分くらいのセットだった。

 ほんの数分で後半の始まり。明田川はピアノの上の電球も消してしまう。
 客電がすぐさま落ち、明田川は得意の"I closed my eyes"を奏でた。
 前半の性急さがきれいにぬぐわれ、がっちりたくましいジャズの空気が主流を占める。
 ひときわ自由にメロディがフェイクされ、アドリブがあちこち奔放に展開した。
 
 地震があったのはちょうどこのとき。
 ぐらぐら揺れるのが分かった。
 「・・・地震ですね」
 明田川が呟いた。
 もちろん、演奏はやまない。アドリブは続く。

 「けっこう大きい地震でしたね」
 
ポツリと言う明田川。次のイントロを弾いた。"侍日本ブルーズ"だ。
 今夜はペダルをしょっちゅう眺めながら聴いていた。
 サンダル履きの寛いだ格好の足で、しぶといジャズを操るギャップがなんだか面白くって。
 この曲も、けっこう長くやってたはず。

 あとはもうMCなし。次々に曲が繋がる。ほとんどが聴き覚えあるが、タイトルが頭に浮かばない・・・。
 "マック・ザ・ナイフ"をやったのは、たしか後半。
 イントロでオカリーナのソロ。二本を使い分けて軽やかにメロディをフェイクする。
 ピアノでは一転して、豊かな膨らみを見せた。

 あの曲はなんだったろう。強いフレーズから、豪腕のクラスターが炸裂する。
 ペダルを巧みに使い、不協和音の強烈さとメロディの対比を鮮やかに披露した。
 両腕を叩きつけるときも、微妙に音階が残ってる。
 激しい勢いで腕を、肘を、幾度も叩き落とす。鍵盤を猛烈に弾き殴り、のけぞって唸った。
 すかさず立ち上がり、目を閉じ歯を食いしばって音を炸裂させる。

 いくども明田川のクラスターをライブで見てきたが、猛烈に充実した瞬間だった。
 このままライブの幕を下ろすパターンに慣れている。

 が、この日は違う。つと背筋を伸ばし、ピアノに座りなおした。

 静かに、雄大に。
 3拍子のメロディがこぼれた。"ロマンテーゼ"と"シチリアーノ"、どっちだったかな。
 じっくりと音を確かめ、それでいてグルーヴする。
 アドリブへ歩を進めた。寸前の激しさを安らげ、空気を落ち着かせるかのように。
 ピアノが、響いた。

 今夜はテンポもぐるぐる変わる。のるにつれ早まり、盛り上がるとじっくり奏でた。
 ピアノ・ソロの醍醐味をゆったり味わえた。
 緊張さが残る前半、感情を滲ませながらも角をゴツッと残した後半セット。
 持ち味の一つであるセンチメンタルさは控えめなライブだった。
 すごく良かったよ。ぐいぐいドライブするピアノは迫力たっぷり。

 時間は夜中の2時。最後の残響は鋭く切り、明田川はピアノから立ち上がる。
 そして、すたすたとステージから去った。

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