LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
05/7/26 西荻窪 音や金時
〜ヴィオロンの太田惠資 ややっの夜〜
出演:太田+竹間
(太田恵資:vln,per,etc.、竹間ジュン:ナイ、レク,etc)
今夜で25回目を迎えた"ややっの夜"。ゲストの竹間ジュンへは「接点があるようでもあり、ないようでもあり・・・」とはっきりしない紹介だった。
彼女のHPをみると、太田との共演(?)でPCエンジンのゲーム"モンスターレア"(1989:HUDSON)のクレジットあり。彼女の編曲したBGM(?)に、太田がバイオリンとして参加していた。
ということはスタジオの仕事が接点だろうか。しかしゲームの音楽してたとは知らなんだ。いろんな音楽やってるなあ。
暗転のあと、スポットライトに浮かぶ太田の姿。
オープニングの口上からすぐ、竹間を呼んだ。
今回はまったくMCなしの演出だった。二言三言、太田が曲間で喋る程度。
せっかくだから二人のトークも聴きたかったな。
彼女の音楽は初めて聴く。「アラブ音楽のプロ」と太田が紹介した。
蓋を開けたら、太田が終演間際に「ずっと続けてたいな」ってボソッと言う、充実した演奏だった。
前半後半共に3曲づつかな。まったく決め事なしでライブが進んだ。
太田はアコースティックとエレクトリック、両方のバイオリンを準備した。
椅子に腰掛けた竹間はアラブ系の縦笛、ナイを幾本も準備した。タンバリンに似たレクも複数並べる。
前にはちょっとした機材あり。どうやらリズム・ボックスらしい。
アカデミックにアラブ音楽をやる人なら、即興は苦手かなあと思ってた。
ところがあっというまに引き込まれる。
エレクトリック・バイオリンを構えた太田は、ディレイを駆使して重厚な伴奏をたちまち構築した。
静かにリフを弾いて、竹間のスペースを作る。
戸惑いもせずに竹間は、ナイを構えて切りこんだ。
ナイの演奏姿は始めてみたかも。顔の中心からずらして吹く姿が新鮮だ。
首を振って音程を変える。音色が滑らか。
たとえば尺八だと、楽器特有のブレス・ノイズが気になることもある。
ところが彼女の演奏は、余分なノイズが皆無。するするっと音が進んだ。
第一セットはどれも20分近い長尺の即興。最初はナイのみで太田と対峙する。
メロディ主体のふくよかな掛け合いに惹かれた。
さらに互いにスペースを作りあい、ソロがスムーズに受け渡される。
力づくの果し合いでなく、アンサンブルを互いに考慮した演奏だった。
ナイを吹きながら、ときたま太田をじっと見つめて様子を伺う、竹間の姿が印象に残る。
「まったく決めてないのに・・・。今度は竹間さんからどうぞ」
彼女の即興を褒め、主導権を竹間へ譲った太田はアコースティックへ持ちかえた。
レクを持った竹間は、目の前へ捧げて指先で叩き始めた。
単に刻み続けるだけじゃない。多彩にビートを変化させる。
自在なパターンで、単体で聴いても単調じゃない。
しばしチャンスを狙う太田。
たしかバイオリンのボディを叩く、パーカッション風のアプローチで加わったはず。
最初の曲でこそアラブ風味を滲ませたが、もうあとは奔放な展開。クラシカルなフレーズやC/W,トラッド風と次々にバイオリンは表情を変えた。
竹間はまったくたじろがず、レク一つで太田の即興と渡り合った。
表面の指打ちから周辺の小シンバルを鳴らす。
時にレクを大きく前へ倒し、中央を強く叩いた。
前半最後の曲で、太田はエレクトリック・バイオリンへ持ち替える。
竹間はナイとレクを使い分けたんだっけ?
曲調がくるくる変わる。太田はエフェクターで音程をオクターブ下げ、チェロみたいな響きでバイオリンを鳴らした。
ドイツ語っぽい呟きをエンディングへ持ってきたのはここかな。
この感想はライブ聴いて数日後に書いてるため、残念ながら細かなとこは記憶がごっちゃになってしまってる。
しかし弛緩せず集中した即興だとは、強く感じた。
休憩を挟んだ後半で、竹間がますますリラックスした音楽を作った。
とても興味を持ったのは、最初の曲にて。
目の前に置いたリズムボックスを、足元のペダルでスタート&ストップさせる。
ピコポコとかわいい音色のシンプルなビートは、流しっぱなしにしない。
自分の演奏にあわせ、変則的にビートを寸断した。堂にいった操作だった。ああいうリズムの操りを、ふだんのライブでもやってるのかな。
ナイの演奏を基礎にした寸断ビートは、太田も冒頭では入りづらそう。
けれどもすぐに発想を切り替え、滑らかにアンサンブルを組み立てた。
太田の演奏が進んだ瞬間、ぱっとレクに持ち替えてビートを加えた竹間もすごい。
ここでは何かの曲をやってたみたい。聴き覚えあるんだけど・・・思い出せない。
バイオリンとナイのユニゾンで吹くシーンもあった。
「バイオリンで、絵を描きます」
一言、竹間へ呟く太田。
エレクトリック・バイオリンを構え、たちまちエフェクターで重厚な音世界を築いた。
竹間はナイで参加したっけな・・・細かいことは覚えていない。でも、この曲がもっとも充実して、奥深い音像が広がった気がする。
太田のホーメイが宙へ存分に延びたのも、ここだったろうか。
最後の曲は、演奏前に竹間が太田へなにやらささやく。思いっきり戸惑い顔の太田。
「何を言われたのか・・・いや、日本語はわかるんですが」
観客へも伝えていいのか、と確認した後で太田は告げた。
「しりとりをしよう、と言われました」
にっこり微笑み、竹間はナイを一節吹いた。
最後の音を使って、太田は違うフレーズで返す。
ときに相手のフレーズを再現したり、変奏したり。さまざまに旋律を交換し合う。
やがて互いの即興へ、音楽が溶けた。
太田が耳馴染みあるフレーズを弾く。すっと音を止め、アカペラで歌いだす。
"オータのトルコ"だ。
しかし演奏はまだ終わらない。竹間はレクを叩いていた。
太田はバイオリンを置き、タールで応酬。
パーカッションのみの対話も作った。
そして音楽は幕を下ろす。
「もっと続けていたい・・・またぜひ、別の機会で」
太田は名残惜しげだった。
ラッパバイオリンで、"ややっの夜"のエンディング・テーマを弾いた。
この日は台風到来(といっても、雨はたいして降らなかった)の日だったため、奏者も時間を気にしながらのライブだった。
しかし想像以上に味わい深い音楽が聴け、とびっきり充実した夜だったよ。
改めて二人が、がっぷり組み合った即興ライブを聴いてみたい。