LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

05/7/23  西荻窪 アケタの店

  〜伝統線上に生まれた新しいグルーヴ〜
出演:藤本+今堀+上村
 (藤本敦夫:ds、今堀恒雄:g、上村勝正:b)

 不勉強で今夜の顔ぶれが継続したユニットか、単なるセッションなのかは知りません・・・ごめん。

 この日の夕方、震度5の地震が到来。被害はともあれ、電車のダイヤがずだずたに。特に新宿から西荻へ来る下り線がひどかった。三鷹方面からの上りは、なんとかだましだまし行けたから。
 ダイヤの混乱へ、モロに影響こうむったのが上村。秋葉原から移動に苦労し、アケタの店に到着は22時近くだった。

 やむなく1部は藤本敦夫と今堀恒雄のデュオになったが・・・これが凄まじく良かった。怪我の功名だったよ。

 開演前、藤本はワクワクそわそわ落ち着かぬそぶり。今堀は腰掛けて、ギターの弦を全て張り替えていた。
 終わると店内奥へ陣取り、アンプを通さずに弾く。音が微かに聴こえた。
 猛烈なストロークの右手と、めまぐるしく指板を動く左手。じっくり見たかったよ・・・遠慮して、耳をそばだてるだけにしました。

 上村からの電話がアケタへ入り、第一部に間に合わぬことが決定。
 客電が落ち、藤本と今堀がステージへ向かった。

 今夜のテーマはポリリズムだが、第一部は特に決め事無しのインプロに聴こえた。
 たまに今堀が譜面を見るそぶり。もしや、なんらかのモチーフはあったのか。

 藤本が口火を切ったはず。スティックでランダムなビートを提示する。
 柔軟な叩き方ながら、どこかに意思を感じる。頭の中で拍を計算してるかのごとく。
 フリーで叩いていても、意図的な変拍子の多用に聴こえた。

 フレーズではなく、弦を引っかく断片で今堀が加わった。
 足元にエフェクタをずらりと並べ、まずはワウを踏む。
 いくつか音色を切り替えた。ギターのフレーズは次第に長くなるが、やはり断片で弾く。

 今堀のギターが鋭く、タイトに鳴った。
 ドラムとはビートをあわせず、ランダムなポリリズムでたゆたわせる。
 舌を巻いたのが、今堀のべらぼうなリズム感。ギターのビートがインテンポで平然とドラムにからむ。

 激しいストロークでも、リズムがぜんぜんぶれない。たまげた。
 フレーズも確かだし、コードチェンジも素早い。ボトルネックかのごとく、素早く左手がネックを上下する。
 同時に幾本もの指が、細かくハンマリングやプリングを行ってる(どっちかまでは、聴いてもわかりませんが)。
 だって手の動き以上に音が出るんだもん。目の前で弾いてるのを見て、指の動きと音が合わなくてびっくり。

 どんな指使いでも自在そう。
 ネックを押さえる指がピックアップ寄りに、ぐっと動いても音程がほとんど変わらなかったり。
 コードを押さえる指が下から上へスライドしても、音程が上がるフレーズだったり。
 テクニックのことはよくわからない。出音と手の動きがリンクしないパターンもいくつか披露した。
 とにかく彼のギターが鋭く刺激的なのは、びんびん伝わった。

 藤本は淡々とドラムを刻む。左足のハイハットが足先で小刻みに踏まれ、せわしなくリズムを取った。
 あくまで今堀とはあわせず、独自のタイム感ですすめる。
 鈍く重たい響きで、ドラムが鳴った。

 が。ある瞬間。二人のテンポが一致する。
 そこからポリリズムの皮を脱ぎ捨て、グルーヴ大会へ早替わり。一気に素晴らしいテンションとスリルの世界へ向かった。

 今堀が弾きまくる。猛烈なストロークでフレーズを作り、ドラムはすいすいとリズムを操った。
 奇数拍子かは分からない。とにかくひねったビート。しかし、ダンサブル。ギターとドラムだけで、山のような情報量をばら撒いた。

 前半は2曲のインプロを披露。基本パターンは同じで、前半がポリリズム、後半が同一テンポ。

 一曲目が終わったとき「出し尽くしたよ〜。静かにやろう」と笑う藤本。ブラシを出して、そっとシンバルを叩いた。
 ブルージーな旋律の断片で応える今堀。
 
 ギターが激しく高まるにつれ、藤森はブラシからスティックへ持ち替えた。
 最後はやはりスピードあるインプロ・デュオ。
 今堀のフレーズはまったく無駄なく、次々と音で挑発する。
 ドラムがまったく動じず、どっしりと応対し強固にグルーヴを構築した。

 前半は45分くらいか。このあと上村を待って、一時間ほどの休憩に入った。
 息せき切って上村が登場。手早くベースをセッティングする。
 一息ついたらすぐ本番。事前の打ち合わせは特になさそう。前もって譜面は送ってたみたい。

 「まずは・・・"枯葉"でいい?覚えてる?」
 遠慮深げに藤本が尋ねる。あっさりと二人が頷き、演奏へ。

 三人がてんでに始める。藤本は4ビート気味ながら、不規則なパターンを叩く。今堀の探るようなフレーズ。
 そして上村がどっしりと低音を繰り返す。ポリリズミックなアプローチだった。
 
 それなりにグルーヴは産まれるが、ちぐはぐさは否めない。
 浮遊する空気の心地よさへ身をまかす。
 しだいに手数と長さが増えていくギターのアドリブが、やはり聴き応えあり。
 がっちりビートを固定する、骨太なベースを軸にドラムはさまざまなリズムをぶつける。
 今堀はポリリズムのしばりを意識しつつも、奔放に弾いていた。

 このセットでは4曲を演奏。2と4曲目はタイトル聴きそびれました。オリジナルだろうか。
 形態は基本的に一緒。規則的なポリリズムを前提に、ダンサブルさは志向しない。かといって前衛も狙ってなさそう。
 セッションとしてのポリリズムだった。

 3曲目に演奏された、ビートルズの"With a little help from my friends"のカバーがユニークだ。
 事前に上村へ譜面を渡してたらしいが、今日は譜割もコードも変えたバージョンらしい。
 「初見でごめんね」とすまながる藤本。

 オリジナルとは拍子を変えて、メロディを藤本はか細く歌う。
 刻むリズムも、歌とちょっとアクセントをずらして見えた。
 知ってる曲だからこそ、どう分解/変容させたかわかりやすい。
 混沌とポップさのさじ加減の狙いを、考えながら聴いていた。

 後半セットもあっけない。40分くらいで終わった。
 正直なところ前半デュオのスリルに圧倒され、後半はあっけなさが残る。 
 しかし今堀のシャープなギターと、したたかに柔軟な上村のベースが重なるのは面白そうだ。
 三人が万全の体制で臨んだ再演を、きちんと聴いてみたい。

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