LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
05/7/17 西荻窪 アケタの店
出演:明田川+翠川+鈴木
(明田川荘之:p,オカリーナ、翠川敬基:vc、鈴木克人:b)
アケタの店での、明田川による月例セッションへ行った。
明田川は少なくともこの店で、レギュラーのバンドを組まない。あくまでセッションにこだわる。
今夜のメンバーは翠川敬基と鈴木克人。鈴木は明田川のセッションへしょっちゅう参加する、気心知れた仲だ。
翠川と明田川の接点はよく知らない・・・どのくらい前からの付き合いだろう。ぼくが知る限り共演は、昨年3月にアケタでのセッション以来なはず。
前回、アケタで聴いたときもドラムレスだった(そのときのベースは吉野弘志)。翠川も含め、全員が自由に動けるように、と明田川の配慮か。
実際に途中で凄まじいテンションとなり、リズムがすごく載りづらい怒涛の展開となった。
<セットリスト>
1. ?
2.テイク・パスタン
3.アルプ
4.アケタズ・グロテスク
5."I
remember
green"
(休憩)
6.クルエルデイズ・オブ・ライフ
7.侍日本ブルーズ
6.チンギスハーンと二頭の駿馬
7.エアジン・ラプソディ
8."I
remember green"〜"?"
ほとんどが明田川のオリジナル。前回同様に翠川の曲はまったく無い。緑化のレパートリーを、明田川と演奏するのも聴いてみたいが。
昨年のライブとは半分程度、曲がかぶるセットリスト。
リハをしたようだが、曲順などはその場で若干変わっていた。
明田川の曲名を告げる喋りを聞き、「聴いてないぞ〜」と翠川が苦笑するシーンが見られた。
翠川はほぼ初見の状態で弾いてたみたい。
最初のテーマはあえてじっくり聴き、おもむろにテーマで加わる風景が多い。
曲が進むにつれ、テーマを弾く指使いをあれこれ変えてるように見えた。
一曲目はオカリーナとウッドベースがイントロを努める、Cのブルーズ。
MCで明田川が曲名も告げたが、覚えてません・・・ごめんなさい。レム・ウィンチェスターの曲らしい。
オカリーナを吹き分けて明田川がテーマからアドリブへ流れた。
鈴木は低音をランニングする、オーソドックスなベース。
焼酎を舐めていた翠川が、おもむろにフリーなフレーズで加わる。
冒頭はあえてチェロが異物として、ふたりのシンプルなジャズをかき回した。
が、ベース・ソロの瞬間に世界が変わった。
すかさず翠川がランニング・ベース風のフレーズへ切り替えた。
さらにベースを眺めつつ、リズムを突っ込み気味であおる。
翠川の怖さを垣間見た気がする。
たしか後半の(6)でも、ベースソロに対して似たようなシーンがあった。
ベース・フレーズの弛緩を嗅ぎつけたとたん、チェロのフレーズが自在に変化し、時にフォルテのピチカートでチェロが鳴る。
まるでベーシストを鍛えるかのごとく。翠川がチェロで押すたび、ベースが膨らみ、アンサンブルが複雑になった。
"テイク・パスタン"は明田川の名曲。
最初はピアノ・ソロ。イントロが終わってテーマの一音が鳴るタイミングで、みごとにベースを合わせた鈴木はさすが。
明田川はフレーズをわずかフェイクさせ、テーマを続けた。
しばらく譜面を眺めてた翠川が弓を構えなおす。ふくよかな響きが、いっぱいに広がった。
今夜はチェロもベースもアンプを通す。ピアノがガンガン響くため、強い音使いを弦も強いられた。
したがってpppのような繊細さは控えめ。力強く押すパターンが多い。
そんななか翠川は、存分にチェロを鳴らせた。同じ弓なのに、フレーズによって響きが違う。
はっと気づくと、目の前に芳醇な世界が広がっていた。
3人の音がとっぷり熟成し、温かいフレーズが絡み合う。とびきりの快演だった。
"アルプ"も明田川の曲。鈴木が面白いアプローチで、世界観を変えた。
スラップを多用し、びしびし指板を叩くノイズをパーカッシブに入れる。
穏やかな曲調へ、ほんのりアヴァンギャルド色を塗った。
翠川も奔放なフレーズを注ぐと、とたんにピアノの音使いが変わる。
本来は荘厳でロマンティックな曲だが、新鮮なフレーズが登場して一気にどろっとした雰囲気へ。
濃くて味わい深いセッションとなった。
アドリブでチェロが弾いたテーマの断片を、すかさずおっかけでピアノが応える。
ソロ回しのときも、単なるバッキングじゃない二人の音による対話があった。
前半最後は"アケタズ・グロテスク"。
たちまち明田川はピアノと激しく渡り合う。
ベースやチェロの切り込みも意に介さず、うなり声を上げつつピアノのクラスターが響き渡った。
明田川の没入を横目で見つつ、翠川も存分にチェロを操る。
やがてソロはチェロへつながれた。そして、ふっと空白。
ベースのソロが残る。
完全独奏で、じっくりと鈴木はベースを唸らせた。
トリッキーなフレーズは使わない。押さえるポジションは、時にすばやく上下する。独特のタイム感だった。
なお今日のライブ、チラシには"新曲「アイ・リメンバー・グリーン」発表"と書かれていた。
「それでは前半セット最後に・・・"アイ・リメンバー・グリーン"。構想10年です」
明田川が弾き出したとたん、翠川が吹き出す。
どうやら、なにかのスタンダード曲に引っ掛けたパロディだったらしい。お恥ずかしながら原曲はわかりませんでした。
「やめろよ〜」と大笑いしながら、翠川はチェロを弾く。鈴木も譜面を見ながらにやにや。
ひとしきり明田川がアドリブを弾いて、あっさり終わった。
後半も明田川の得意なレパートリーが続く。
"クルエルデイズ・オブ・ライフ"では、ベースのソロとチェロの対話が興味深かったのは前述の通り。
明田川と翠川の息も合っていた。アイコンタクトもなく、すっとソロが繋がる。
"侍日本ブルーズ"は最初、翠川がじっくり聴きに入った。
明田川のテーマにあわせ、探るように断片的なテーマを。ソロを挟み最後にテーマへ戻ったとき。
ろうろうと響くチェロの深い鳴りが、とてもきれいだった。
"チンギスハーンと二頭の駿馬"は明田川のオリジナルじゃないが、よく演奏されるレパートリー。
鈴木はやりなれているのか、シンプルなフレーズながら巧みなバッキングを聴かせた。
一方で翠川の弾きっぷりも興味深い。譜面を睨みながら旋律の断片を当て、フラジオやノイジーなフレーズで音を散らす。
多彩な特殊奏法をさりげなく織り込んだ。
明田川のライブで幾度も聴いたレパートリーの連発だから、翠川の解釈が新鮮で面白かった。
特に刺激的だったのが、ソロへのスタンス。明田川はテーマをフェイクさせながらアドリブへ進む。
いっぽう翠川は唐突に、クラシカルで優雅なメロディが飛び出す。
二人の音楽が醸し出す集合に、聴き応えがたんまり。
本編最後は"エアジン・ラプソディ"。
翠川も曲に馴染んでるのか、明田川によるピアノ独奏イントロが終わった刹那、チェロを合わせた。
ついに明田川のピアノが情け容赦なくなる。共演者がついてくる前提で、テンポをガラガラ変える。
ドラムがいない強みか。みるみるラッシュしては、ふわりとテンポを落とした。
延々ピアノ・ソロのあと、猛烈なクラスターへ。幾度も立ち上がっては鍵盤の上を指が上下し、腕や肘をがんがん叩きつける。
かかとを蹴り落とし、強烈なピアノが響き渡った。
ベースもチェロも、ほとんど聴こえない。このまま終わるんだろうか。
が。ふっと空白が訪れた。
すかさずチェロが滑り込む。滑らかなテーマで。
ベースも加わり、ピアノも寄り添った。
寸前のクラスターをぬぐいさり、翠川による穏やかな世界がふわっと広がった。
演奏中、明田川によるメンバー紹介。
コーダのあと、明田川が"I
remember green"を再び弾き出す。
苦笑して"終わり終わり"と、チェロをしまうそぶりの翠川。
ピアノの曲が変わった。
「あ、これをやるんだっけ」
と、チェロを構えなおして譜面を見つめる。
ちょっとした小品を演奏して、今夜のライブが終わった。
フリーもやるがコードのジャズに軸足を置いた明田川と、メロディ演奏も無論やるが、フリーを自在に操る翠川。
二人のセッションは、危なっかしくも美しい。
あえてデュオでなく中立者のベーシストを置いたバランス感覚が、明田川のすごいところ。
当然ながら、今夜のライブも録音されていた。去年のセッションといくつか選び、CD化して欲しいな。
今夜のステージからは"テイク・パスタン"、"アルプ"、"クルエルデイズ・オブ・ライフ"、"エアジン・ラプソディ"を、そのときはぜひ。