LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
05/6/27 大泉学園 In-F
出演:黒田京子トリオ
(翠川敬基:vc、黒田京子:p acc
etc.、太田恵資:vlnetc.)
自主レーベルから出した1stCDのレコ発ライブ。観客は満員の盛況ながら、電車が人身事故でダイヤが乱れまくり。
そのため観客が到着するのをしばらく待つ配慮をして、20時20分ごろにライブが始まった。
<セットリスト>
1.二十億光年の孤独
2.All
things Flow(新曲)
3.Waltz Step
4.Para
cruces
(休憩)
5.Valencia
6.Hinde Hinde
7.
KANA(新曲)
8.Moko-Haan 〜馬鹿な私
(アンコール)
9.ベルファスト
「CD発売を記念して、入ってる曲も新曲もやります」
黒田京子トリオの掟に従い、今夜のMCは太田がつとめる。
店内へ登場したのは開演ぎりぎりだったため、ノーリハで新曲を演奏する羽目に。
その戸惑いからか、それとも初めてこのトリオを聴く観客へ配慮したか。過去のライブに比べ、なんだか饒舌なMCぶりだった。
黒田の曲、(1)でライブは幕を開ける。
だれから音を出すか、一旦探り合う。まずは弦同士の対話から始まった。
翠川がイントロで激しいピチカートを多用する。
バシーン、と弦を指板へたたきつけたとき、ぱっと白い粉が舞った。
あれは滑り止めかな?意識しての演出じゃないと思うが、とてもきれいだった。
ソロ回しにこだわらず、くるくると音の主導権が変わる。太田のソロのあと、黒田の滑らかなピアノへ。
翠川はアルコをメインに弾いた。超高音から、フラジオまで。幅広い音域とダイナミズムを操り、今夜も大胆にpppを提示した。
今夜の黒田トリオは、クラシック寄りの凛とした空気が漂った。
それぞれの曲は短め。一曲くらい、とことん即興も聴いてみたかった。
もっとも、テーマ以外は全てが即興。今日も段取り無しとは思えない、かっちりしたアンサンブルだった。
「今日はいっぱい喋ってますでしょ。・・・演奏に進みたくないんですよ〜」
と、初見への戸惑いで、ぼやく太田。
(2)は新曲として披露された。しかし曲が終わったあと「初演じゃないんだけどね」と翠川が呟く。緑化で演奏したことがあるのかな?
角が立ったメロディを弦二本が絡ませあい、ピアノが支えるアレンジがテーマだった。
旋律に力を持たせ、ぐいぐい前へ進む。それでいてアヴァンギャルドな雰囲気を常に漂わす。
富樫の曲(3)では、コミカルなタッチが顔を覗かせた。
まず、黒田がリコーダーで静かにテーマを吹く。横の太田は、ペットボトルに手を伸ばしてあわそうとした。
さすがにピッチが合わず、苦笑。音に聴き入り、タイミングを計る。
最後はきちんとペットボトルを吹いて、音程を合わせたのはさすが。
テーマのメロディは太田が引き継いだ。ふくよかなメロディをゆったりと奏でる。
一方、黒田と翠川はフリー・ジャズで応酬した。
あくまで太田は朗々とバイオリンでメロディを歌う。
激しく音を叩きつける、黒田と翠川。静かなバイオリン。
ついに太田はピアニッシモで旋律を奏でる。二人が打ち出す激しい音符の中で。
その対比が、とびきり美しかった。
エンディングは翠川が口笛を鳴らす。微笑む黒田。
二人のかすかなメロディは、いつしか鳥のさえずりに化けていた。
前半最後は翠川の(4)。凄みあるテーマを足がかりに、即興を展開した。
太田がトラッド風のアドリブをとったのは・・・ここだったかなあ。記憶があいまいです。ごめん。
たしか翠川はチェロのボディを軽く叩く音も盛り込んだ。
第二部は富樫の(5)から。イントロで翠川は、エンドピンをぐいと弓で弾く。
ここで全員がパーカッシブなアプローチを採用した。
前半はほとんどメロディなし。翠川がチェロのボディを叩く。ときおり指を広げ、低音弦を巻き込む。
その響きで、キーをかすかに提示した。
黒田がピアノのボディを叩き、手指やマレットがピアノの内部を叩く。倍音を響かせた。
タールを持ち出したのは太田。美しいテーマをほんのわずか弾いたのは・・・ピアノだったかな?
あっというまに旋律なしの世界へ突入した。翠川の巻き込む低音弦が、唯一メロディの断片を思わせる。
新鮮なアレンジだった。
"Hinde-Hinde"でもクラシカルな世界をのぞかせて演奏がすすむ。
黒田のピアノがリリカルに響いたのは、確かこの曲。
かなりクーラーが聴いていたが、翠川の額には大粒の汗が滲んでた。
翠川のもう一曲の新曲"KANA"はひらがなやかたかなの"仮名"がタイトルの意味だそう。
「なるほどね〜」と黒田がしきりに納得していた。
「女性の名前ですか?」
と太田は尋ねて、翠川が苦笑する。
これも太田は初見。4ページにわたる譜面を台へ乗せるのに一苦労していた。
実際は滑らかな演奏で、メロディがそっと優しく響く。
翠川のロマンティックさが溢れた、すごくいい曲。またぜひライブで聴きたいなあ。
互いのソロも存分に響いた。
第二部の最後は、太田の作曲"Moko-Haan"から。「即興なので、CDと同じことは出来ません」と断りあり。
バイオリンをウクレレ風に構え、ホーメイで存分に唸る。
"馬鹿な私"のメロディ断片が一節、ピアノで提示された。
ところが、なぜか黒田がもろのジャズへ流れた。「A列車で行こう」を連想するメロディをのぞかせる。
翠川も乗って、ピチカートでベース風にあおった。
メガホンを持った太田は、黒田をアジってジャズを繰り広げた。
そして最後はハイスピードのユニゾンで"馬鹿な私"のテーマを。賑やかにライブは幕を下ろした。
アンコールの拍手がやまない。アンコール無しが多いトリオながら、今日は特別に応えてくれた。
ちょっと相談、梅津和時の"ベルファスト"を選ぶ。
開演時間が遅く、時間がかなり押していたため「短めにね」と申し合わせていた。
くるくる表情が変わるメロディを、いともたやすく3人は操る。
ソロはさすがに短め。さらりと駆け抜けた。
CD発売のイベント性も手伝ってか、なんだかぴりっと緊張した雰囲気が漂った。
実際はこのユニット、演奏していて一時も目が話せない。ひんぱんに前面へ出る楽器が入れ替わり、互いの演奏で触発された風景がひとときも休まず変わる。
しかしメモ取らずに聴いてるうえ、たいがいはこのあと酒を飲んじゃうので、詳細を覚えてない・・・すみません。
黒田はアコーディオンも演奏したが、どの曲だったか記憶があやふやです・・・ううう。情けない。蛇腹を上に引き上げ、伸びるアドリブを弾いたのは頭へ残ってるのに。
ぼくの文章でこのトリオの魅力を、果たして記せているんだろうか。
いかなる言葉よりもライブでこそ、音楽の妙味を味わえるはず。文字通り、空気が震えるさまを。