LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

05/6/25  入谷 なってるハウス 

出演:渋さチビーズ
 (不破大輔:b、立花秀輝:as、小森慶子:as ss、辰巳光英:tp、大塚寛之:g、倉持整:ds)

 今年2回目の欧州ツアーが終わった直後の渋さ知らズ。
 ここぞとばかりに聴きに行く。予約がずらりと並び、なってるハウスの椅子はきれいに埋まった。

 好天の土曜で道が込んでたらしく、不破大輔は20時近くに登場。ドラムセットやギターアンプの位置を指示しながら、素早くウッド・ベースを、念入りにセッティングした。
 続いて五弦エレベを準備。結果的には、このエレベしか使用しなかった。
 ツアーの間はウッドはおろか、ベースすらほとんど弾かれなかったとか。

 告知では中島さち子が予定されてたが、なぜか不在。代わりに大塚寛之が登場した。
 ピアノ入りのチビズは、かなり前に佐々木彩子入りで聴いたくらい。今の面子でどう音楽が変わるか知りたかったので、ちと残念だった。
 
 セッティングが終わると各自がタバコをくゆらす。
 「もう弾けますよ〜」
 ガラムをくわえて、さりげなく奏者へ合図する不破。三々五々にステージへ集まる。
「鬼郎を・・・」
 って、不破が小森へ告げる言葉が、ちらと聞こえた。

<セットリスト> 
1.反町鬼郎 〜 股旅
(休憩)
2.ナーダム
3.サリー 〜 エエジャナイカ(*)
(アンコール)
4.仙頭
(*)てっきりこの前半は、バルタザールだと思い込んでました。
   後半の曲は曲名が浮かばず。どうやら未CD化の"エエジャナイカ"らしい。

 一言で今日の演奏をまとめるなら、"怒涛"だろう。
 倉持のパワフルさが目立つ。ずいぶんフィルの語彙も多くなった。

 不破がそうとうベースのフレーズを遊ばせても、戸惑わずにビートを連続させた。
 以前聴いたときは、少々バタバタ気味と思うこともあったのに。ずっしり安定感が増した。
 とにかく今日はほぼノンストップで叩きまくり。骨太なビートだった。

 先日出たDVDの付属CDで、自由さの増した渋さに惹かれてた。しかし今夜はいくぶん、ジャズのフォームに縛られ気味。
 ソロ回しは不破以外、全員に満遍なく回る。
 むしろ不破がそのお約束へ縛られず、自在に曲を振り回しても面白いのでは。

 ただしソロはかなりどれも長丁場。だから奏者の演奏っぷりが堪能できる良さはあり。
 特に小節サイズは決まってなさそう。すっと目配せを不破へ送るのが、ソロ終了の合図みたい。

 とにかく今日は前半の演奏にやられた。後半は後述する、違和感が残っちゃったので。
 
 しゃきっと3管で突き進むテーマの勢いで、まず体が反応する。ベースとギター以外は生音。
 けれど最前列で聴いてたためかトランペットの音がまず耳へ、まっすぐ飛び込み、あっというまに耳鳴りがぼてっと始まった。

 アドリブは大塚寛之から。テーマの勢いを殺さずに、スピーディなフレーズでまわす。
 腕を降って、体を揺らす小森慶子。
 次に彼女へソロが回っての変化球っぷりも、聴き応え満載だった。

 小森は音数を減らし、ぐっとジャズ色を濃くする。
 マウスピースと同時に髪を一房咥え(単なる偶然だが)、じわりじわりとテンションをあげた。
 ベースがフレーズを柔軟に揺らし、がっちり支える。
 倉持は当初、タムのみを叩くジャングル・ビートで応答。小森のフレーズに沿って、次第にシンバルも混ぜた。

 続く辰巳も、たしか冒頭はゆっくりめだった。ビートをとめて、完全ソロから。次第にリズム隊があおり、みるみるテンポをあげた。
 小森とは違ったジャズ世界を提示したトランペットだったな。

 いくぶん辛そうなのが立花。アブストラクトなフレーズを切り口とする。
 今夜のステージでは、フリーキー一辺倒でない。
 この曲に限らず、さまざまなソロの前半部分で吹いた、ゆったりしたフレーズが面白かった。

 アヴァンギャルドさをのこした音使いから、旋律を生かすアドリブやフラジオ連発の熱演と、さまざまな表情をみせる。
 ソロを続けるうちに、じわりとアドリブの焦点が合う感じ。"股旅"や"ナーダム"でのアドリブが良かったと記憶する。

 そういえば、前半では大塚も新鮮なフレーズをいっぱい披露した。
 前半ではボトルネックをひんぱんに使う。
 あまり音を歪ませぬ素直な音色で、ゆったりと膨らますシーンをしばしば効果的に弾いた。

 一通り"反町鬼郎"でアドリブが回った後、ドラムのソロへ。
 すっと不破が手のひらを広げ、5拍子の合図をする。
 連打なアドリブでアクセントはあまりずらさない。でも、ボリュームを変えてバラエティに富ませる。

 やがて全員が配置についた。小森はソプラノへ持ち替える。"股旅"だ。

 不破は今夜、単独ソロは取らなかった。
 たしか後半1曲目のイントロ、管が混沌なインプロをやってる後ろで、ドラムに合図してアドリブっぽいシーンもあったが。

 しかしフレーズは奔放極まりない。管のソロへ積極的に絡んだ。
 ドラムにテンポ・キープをまかせ、ぐいぐいリフを変える。
 管が映す音楽風景の額縁を、不破の五弦ベースがさまざまに変化させた。
 ソロに対する管同士のカウンターは控えめか。積極的なのは小森くらい。サックスでオブリを入れる。
 前半は大塚も遠慮がちだったが、しだいにギターのボリュームも上がった。

 ドラムはとにかくひっぱたき続けたため、カウンターでぶつけにくかったかも。
 小森が小さな鐘や鈴などを持ち込み、ソロの合間で他のメンバーと遊ぶシーンも見受けられた。
 もっともどこまで音楽へ介入するつもりだったは謎。

 "反町鬼郎"だけで30分。メドレーで雪崩れた"股旅"もやはり30分くらい。
 インテンポで容赦なく音楽を吹き鳴らした。
 圧巻はなんといっても"股旅"。だれもかれもが素晴らしく、分厚い絨毯に乗って空を飛んでる気分だった。
 コーダが終わっても、余韻がずっと体に残ってた。

 後半は"ナーダム"から。
 ノー・ビートで、管がてんでにフリーなフレーズを宙へ浮かべた。
 テーマの断片を取り出しては、すぐに引っ込めてしまう。
 じらすようにテーマの旋律をもてあそび・・・一気にインテンポで駈けた。

 律儀にここでもフロント4人へソロが回る。
 順番は覚えていない。探るような音使いからフリーキーにかきむしる立花のアルト、熱く音を歪ませた大塚。
 小森や辰巳のソロは、個性だけでなく曲全体の印象までがらりと塗り替えた。
 この二人のソロでは、意図的に不破もリズムを変えてるようだ。ほぼノーリズムにして、動けるスペースを広げてた。
 
 さらに不破は、小森のソロの途中で不意に立ち上がった。それまでずっと座って弾くのが常なのに。
 アルトを吹きまくる小森の後ろで、極太に揺れるベースを立て続けに弾きまくった。

 小森もかなり奔放に音楽へ絡む。あれは立花のソロだったかな?
 横に置かれたウッドベースへ手を伸ばし、開放で弦を弾く。にやりと笑う不破。
 さらにピアノの側へたち、鍵盤をそっと叩いた。いっそアドリブのレベルまでピアノで絡んでも面白そう。

 きっちりコーダで"ナーダム"を締めたとき、すでに30分くらい経過。
 そして"サリー"へ。重厚なテーマがソロになると、すっきり見通し良くなる。
 ソロの合間にテーマへ戻る。テーマのテンポが速まり、熱気を誘った。
 
 ここで、唯一の違和感。不破が小森へなにやら耳打ち。ソロのタイミングをはかったのか。不破が手で抑えたり、前へ進めたり。そんな仕草も。意思疎通に混乱あったのか・・・。
 実際のところは知らない。ともかくその瞬間に小森の集中力が、ぷちっと切れたように見えた。
 大塚のソロに対し、辰巳と立花が切りあう応酬を見せてたシーンだっただけに、あの違和感は惜しかった。

 ともあれ小森のソロへ。すっと音数が減り、テンポも落ち着く。
 なぜか「メリーさんの羊」をのんきに吹いた。
 そして"エエジャナイカ"(だと思う)のテーマへ。
 ソロもちょっと回したかな。カウンターへ視線を投げ、時計を気にするような目線を、何人かがする。

 しかし演奏は止まらない。もはやギターもボリュームを下げない。
 全員がテーマを吹き、クライマックスを作った。

 「ワンワンワンワン!」
 不破の合図でそのままアンコールの「仙頭」へ。
 きちんと駆け抜け、ライブの幕を下ろす。すでに23時を軽くまわってた。

 3管いると、テーマのフェイクやカウンターメロディもきちんと成立するので、アンサンブルの妙味を味わえる。
 今夜はドラムが絶え間無いビートを提示し、ベースの奔放なフレーズも生き生きしていた。
 欲を言えばリズムとサックスがシンプルに絡み倒すのも聴きたい・・・。ラジヲに小森が加わるか、彼女のワンホーン・セッションってないものか。

 なにはともあれ、オーケストラとは別次元なパワフルさを堪能できた。
 外は蒸し暑い。頭の中も、演奏でぐっと熱くなった。とびっきり楽しくて圧倒されたライブだった。 

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