LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

05/5/4   大泉学園  In-F
   
出演:翠川+壷井+吉見
 (翠川敬基:vc、壷井彰久:vln、吉見征樹:tabla)

 今日の組み合わせはin-Fの仕掛けか。壺井+吉見はよくわかる。翠川+吉見も緑化計画で共演の記憶あり。だけどこの三人ってのは新鮮だ。互いに初対面じゃなさそうだが。

 ステージでは壺井が「さっき任命された」と司会を受け持った。
 たまたま吉見がぎりぎりに現場入りして、音を三人揃って出すのはステージが初という、新鮮なセッションになった。

<セットリスト>
1.TAO
2.Cris
3.First Greeting (ex : 009)
4.即興
5.がんばれバファローズ
 (休憩)
6.A-hen
7.006
8.A thousand eyes
9.Left window
(アンコール)
10.アグリの風

 (7)と(9)はEraのレパートリーで、(3)も壺井の曲。(5)は吉見の作曲。(4)の即興演奏以外は、すべて緑化計画で馴染みな翠川の曲。
 互いに持ち寄ったセッション形式の選曲だった。

 個々の曲はかなり短めに演奏。
 後述するが、壺井の主導権でステージを進めたことで、各奏者の立ち位置がとても興味深いひとときとなった。
 ぼくの好みなら、もっと曲を少なくするか即興を多くして欲しかった。

 司会を立てたとはいえ、探り合いのようなMC。吉見がボケ倒して、壺井が戸惑うパターンが多い。
 (1)は二弦のフリーなイントロから。おもむろに翠川がテーマを提示し、タブラが加わった。

 壺井は五弦のe-vlのみ。足元にずらりとエフェクターが並ぶ。吉見もタブラのほかに各種パーカッションをそろえた。
 中央に壺井が立ち、右に吉見。翠川が左手に座る、なんだか新鮮な配置だ。

 指揮的な役割も壺井がつとめた。アイコンタクトでソロを回す。
 翠川が参加した演奏で、この発想が新鮮だった。
 緑化も黒田京子トリオも、明確なソロ回しって概念がない。
 アンサンブルが盛り上がって、自然発生でソロへ流れる空気が強かったから。
 さすがにソロの尺までは決めてなさそう。しかしくっきりソロをまわしたことで、逆にセッションのイメージが強まった。

 とにかく二弦のハーモニーが心地よい。
 (2)のテーマはメロディが染みいった。黒田トリオで緑化の曲って弾かないからなあ。
 吉見はかなり自由に演奏してた。奔放にタブラを鳴らし、ゆっくりとリズムを撒く。

 "First Greeting"は最近、曲名がついたそう。変拍子かな?ひとつながりで音符が雪崩れ、柔らかく旋律が広がった。
 この辺りのMCから吉見のきついツッコミがいっぱい出る。ときに険悪(?)な喋りが面白かった。
 「どうにかしてくださいよ〜」と翠川に泣きつく壺井の仕草が楽しい。

 「時間ありますから即興でも」
 テーマを吉見が決めた。「せいくらべ」にひっかけて、「柱の傷は心の傷」といった言葉をひねり出す。
 ぱっと思いつかずに選ぶまでひと悶着あった。

 壺井の提案で始まったインプロ。壺井と翠川の音楽観が透けて見えた気がして、興味深かった。
 確か冒頭は翠川のピチカートから。アンプを通してるためか、巨大なダイナミクスは控えめだった。
 弓に持ち替え、八分音符で刻みを多用する翠川。上でアドリブを壺井が広げる。 
 
 吉見が持ち出した楽器に目が行く。名前は知らない。初めて見た。
 トーキングドラム風のボディから、たぶん単弦を引っ張り出している。バチで弾いて音を出してたようす。
 猛烈なストロークで煽り立てるさまは素晴らしかった。
 後半で「せいくらべ」を奏でたので、メロディも出せるらしい。あの楽器、もっと聴いてみたい。

 ひとしきりバイオリン・ソロが終わったあと。壺井がちらりと翠川へ視線を投げた。ソロ回し、って意味だろう。 
 いっぽう翠川は目を閉じたまま、刻みを続ける。
 そのまま緊迫感を持たせ、バイオリンかタブラへ突っ込ませたかったのかもしれない。

 ところが壺井はソロ回しの手順にこだわった。
 ちらちら翠川に視線をやり、静かにバイオリンを奏でる。
 吉見も伸び上がって翠川を眺めてみせるもんだから、客席からも笑い声が漏れた。

 ちらっと目を開け、ソロへ切り替える翠川。
 翠川がどう動くかどきどきして、セッションの中でもっともスリリングな瞬間だった。
 あのままソロへ行かなかったら、着地はどんなだったろう。そこまで無碍な演奏はしないか。

 前半最後は"WAWAWAWA"のレパートリーかな?初めて聴く。
 タブラも使ったが、前半は肉厚の太鼓を使ったリズム。
 ほんのりアラブ風のムードもある、力強いメロディだった。
 WAWAWAWAは行きそびれてたが、面白そう。今度聴いてみよう。

 後半セットは、"アンコール扱い"の演奏から始まった。
 "A-hen"でマスターがウッドベースで加わる。
 旧友が来店したが時間の関係で、アンコールまでいられないためだそう。そういやマスターのベースも初体験だ。
 スタンダードじゃなくて、緑化の曲をやるとこが渋いなあ。
 翠川の仕切りで、ソロがぐるりと回る。4ビートの印象が強かった。

 「ここからはアンコール第二部です」
 と壺井が笑わせる。
 「タイトルが決まる前にCD収録されちゃった」という、"006"から。 イントロで7拍子のフレーズをバイオリンでメモリーさせ、それをループさせる構成。
 翠川や吉見のいるセッションで、ノリを固定しがちな選曲はもったいないのでは。
 ERAからならたとえば、"Gadget"でフリーキーに渡り合ったり、"Dizzy blank"でロマンティックに溺れたりの演奏も楽しそう。

 続いて"A thousand eyes"へ。メロディをさぐる壺井のバイオリンがじっくり歌う。
 ソロ回しにこだわらず、たっぷり長尺で聴きたいなあ。あっというまに終わって残念。
 翠川が弾くソロは壺井にそろえたか、メロディアスに流れるほうが多かった。
 曲によってはフラジオを軽く響かせたり、ボディ擦りでリズムを取るシーンあっても、ごくわずか。
 とことんフリーに行かない。初セッションで手加減したか。

 ちなみにこの曲、演奏前に大阪弁の発音で盛り上がった。
「目ェ」「手ェ」と、母音強調型なので、「タブラは大阪人には馴染みやすい」と新説を吉見が披露した。
 あげくに演奏の最後、テーマへ戻ったとき。吉見がいきなり、
「千の目ェ〜」
 力強くマイクへぶちかました。静かなメロディを弾いてた壺井が大笑い。
「も一度行きます〜!」と、テーマを繰り返した。

 さんざん曲名で盛り上がった"Left Window"で、一旦はシメの格好に。
 「A,B,A,B、ソロでA,B」みたいに構成を壺井が説明したのはここか。 
 「なんだっけ?」とボケて、翠川は観客を笑わせたが・・・「構成決めるの?」って躊躇いと取ったのは穿ちすぎか。 
 吉見のソロがたっぷり入ったのも"Left Window"だっけ?口タブラから鋭いタブラへ雪崩れた。

 ここで拍手。楽器をしまいかけた翠川だったが、「あと一曲残ってる」と壺井の指摘あり。
 こんどこそアンコール扱いで、緑化の"アグリの風"をやった。
 もともとは2ndステージ最初にやる曲だったらしい。

 吉見はキーを聴いて、タブラを交換した。翠川も壺井も面白がって、いろんなキーを言って惑わす。
 あげくのはてにチューニングする吉見へ、ピッチの違う音を出して遊んでた。
 リフで跳ねるメロディが好き。アンコールなためか、さほど奔放に崩れず、きっちりソロ回しで終わったと思う。
 
 ジャズ感は相当に希薄。全員のルーツ音楽が違うためか、ジャンルの錨に縛られぬ音楽が常に漂う。とことんフリーに行ったら、どうなるかな。
 無国籍で着地点の見えないさまが刺激的だった。また聴いてみたい。

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