LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

05/5/2   下北沢 Lady Jane

   〜ハナシガイ Vol.8〜
出演:太田+斉藤
 (太田恵資:vln,etc.、斉藤ネコ:vln.etc.)

 なんと言うか・・・すごいね。トークとインプロをのんびり聴けるかな、と期待したら・・・それ以上だった。
 
 このユニットのライブは8回目らしい。チラシのアオリ文句を読み、「ややの夜」みたいなトークショーかと思ってた。
 ところがぜんぜん違う。どこまでもフリースタイル。なんだかどしゃめしゃな展開だった。

 特に進行は決まってないみたい。ふたりともアコースティック・バイオリンのみ。
 太田がバンマス役で、挨拶を始める。
 とたんに斉藤は「任せた〜」と、グラス片手に客席スペースへ。もう初手からリラックスモードだった。
 苦笑する太田。GW中のためか、こじんまりした動員の観客へ話しかける。たまたま今日は、バイオリンをたしなむ観客が多く、面白がってた。しかしこれがああいう展開に繋がるとは。

 「とりあえずバンマスですから。まず一曲」
 ステファン・グラッペリの「フィリンゲンの想い出」。
 ソロで静かに奏でた。
 太田はふだんアコースティックと言えども、リバーブをかけて弾くイメージが強い。ところが今日はかなり生音に近い。
 素朴に響くバイオリンが、しみじみきれいだった。

 あとはひたすらトーク・・・というより雑談風の喋りがえんえん続いて爆笑だった。
 ひたすら無軌道。斉藤ネコはもっとまじめな人と思ってたけど・・・。太田の喋りをまぜっかえし、好き放題に振舞いまくり。

 二人の前へ置かれた譜面台に、葛飾区でやるクラシック・コンサートのチラシが二枚あった。
 前半セットは、そのチラシの曲目を肴に盛り上がる。
 もはやバイオリン漫才と化していた。

 タイトルをみながら、斉藤が次々と一節を弾く。太田のリクエストに答え、「サスペンス風」「サントラ風」と弾き分けたりも。
 曲目に引っ掛けて歌謡曲を弾いたり、「葛飾だから、アンコールはこれだろう」と、「フーテンの寅さん」を弾いたり。「何でも知ってるな〜」と太田が笑う。
 MPI(だったか?)のジャズ・バイオリニストの話になると、その人風に和音風のビブラートをきつくかけ、斉藤は「君が代」を弾いてみせる。もっとも言われるまで、曲名分からなかった。

 ・・・今日は、そうとうはしょった感想になってます。あれを全部書けるわきゃない。

 前半のクライマックスは、なにが切っ掛けだったか。
 太田がバイオリンを弾きだし、斉藤が加わる。秋がテーマかな。
 まじめな太田のバイオリンを、斉藤が「かえるの歌」で輪唱風にかぶったり、キーを変えたフレーズでからかった。

 いつしか曲はヴィバルディの"四季"となり、キモのフレーズを弾いては次に移ってく。
 太田が主導権持ってたかな。「もう春なの〜?」「また秋か〜?」と、大笑いしながら、斉藤がカウンターのメロディーをぶつけた。

 ここで一旦休憩。もう少しきちんと終わらせたがるそぶりの太田を尻目に、「はい、休憩休憩〜」と斉藤はにっこり笑った。
 BGMにかかったのは斉藤が音楽監督を務めた、カフカの「城」が原作な芝居のサントラ。メガホンで太田が観客へ購入をうながした。

 後半もいつの間にか始まってた。
 最初は太田の懺悔から。某バンドのリハに穴をあけたらしい。長年活動してて初めてそう。
 (きちんとバンド名も言ってた。でも細かく書いても芸がないので、詳細は割愛します)

 それなりにまじめに語ろうとする太田へ、ひっきりなしに斉藤が茶々を入れ、最後はわやくちゃになっていた。
 しかし4月の活動は、ライブ33本にレコーディングとリハって・・・太田は一体どういうスケジュールで動いてるんだろ。

 「11時にリハ開始と言われたら『他の楽器は音を出す準備あるし。12時くらいに行けばいいかな』、と思っちゃうんですよ」
 「11時に音を出す、って時間なの」
 二人の会話が印象に残ってます。どっちがどっちの発言かはご想像にお任せします。

 本人らとして一段落ついたか、ライブはどんどん無軌道になっていく。
 たまたま観客でトラッド・バイオリンを勉強してるカップルがおり、とうとうステージへ引っ張り出した。

 まず一人の観客がトラッドを弾き、太田がロングトーンであわせる。
 客席に座った斉藤も、カウンターでメロディを静かに弾いた。
 特に斉藤のバイオリンはオフマイクだが、店内には十分に聴こえる。なんだか贅沢なひとときだった。

 観客二人でリールのメドレーを弾いたかな。
 「トラッド教室だ」と言い出して、太田も斉藤も奏法をあれこれ質問しだす。

 奏法を説明するたび片端から「知ってるからいいよな」と、斉藤がトラッドの知識がある太田を突っ込んでいた。
 とりあえず弾いてみようってことになり、観客二人にフレーズを提案してもらう。
 すると女性のほうが、トラッドに特化したテクニカルな奏法で弾いたらしい。
「それ、すごいテクニック!」
「どうやるの?」 
 と、二人して大盛り上がり。

 特に斉藤がすごかった。
「弓の持ち方が違う、ボウイングも違う。アタックも違う。クラシックの人はそう弾かない」
 専門的な解説を加えつつ、女性客の弓にあわせようと試みる。が、思いどおりに行かないらしい。
「もう一回〜!ね、もう一回〜!」
 何度もせがんで、その観客に弾いてもらってた。
 そのたびに「弾けないよ〜。もう一回〜!」と足をバタバタさせて大騒ぎ。面白いなー。
 
 いつのまにやら時間が過ぎていく。後半はほとんど、二人ともバイオリンを弾いてない。
 「これで終わったら、さすがにまずいでしょ」
 「つまんなかったら客は帰るさ。まだいるってことは、問題ないってことでしょ。いいよいいよ」
 頭をかく太田を、斉藤は豪快に笑いとばす。
 そのまま終わらせようとした斉藤を、さすがに太田は苦笑してとめた。

 かくして最後は二人のインプロ。客席からお題を貰う。
 「ブルーズ」と「C#のキー」だったかな?
 「そのキーは、えらく難しいんだけど。いや、弾きますがね」
 ぼやく太田。

 演奏の主導権を取ったのも太田だった。さっきまで盛り上がったトラッドを、ちょっとひきずった印象。
 斉藤が力強いボウイングで太田をあおる。
 アラブ風のハナモゲラで、ファンキーに太田はブルーズを吼えた。

 くるくるとソロを交換しつつ、即興演奏が続く。
 ソフトで奔放な太田と、斉藤のきっちり歌いつつ自由度高い響きが絡む、充実したサウンドだった。
 10分以上やってたか。ここまでのトークショー(?)にきっちり落とし前をつけた。

 アンコールが飛ぶ。特に考えてなかったみたい。
 太田は譜面をばらばらめくるが、曲が決まらない。そのまま床へ譜面をぶちまけてしまう。
 「こんなのです・・・楽しんでいただけましたでしょうか〜」と、譜面を入れてたビニール袋をかぶり、おどけて踊り始めた。

 苦笑しながら、斉藤が助け舟を出す。
 「スタンダードを・・・"Misty"やろうか」
 店のアップライト・ピアノを開き、斉藤は伴奏を努めた。
 「リバーブを深くしてください。ロマンティックなバイオリンになるので」
 太田がスタッフへ注文をつける。
 「俺もバイオリン弾きたいな〜」
 「あとで変わりましょ。ただ、むっちゃ俺トイレ行きたくなってきた」
 そんな会話のあと、斉藤がピアノへそっと指を落とす。
 太田のバイオリンがテーマを奏で、ゆったりしたジャズが始まった。

 バイオリン・ソロが豊かに広がる。
「そろそろ変わろうか」
 斉藤がピアノから立ち上がり、バイオリンを手に取った。
 ところが、太田は・・・そのままトイレへ行ってしまう。観客も斉藤も大爆笑。 

 やむなく斉藤はさっき演奏した観客を呼び出した。
「ちがーう。ここ、ここ!」
 と、指を押さえてみせる。キーが不如意で上手く弾けないらしい。
「しかたないな。なんかスタンダード知ってる?」 
「・・・"ハイウェイ・スター"」

 よくわかんない会話だが、そのまま斉藤はパープルの"ハイウェイ・スター"をピアノで弾き始めた。
 トイレから戻った太田は、呆れ顔だった。

 そしてバイオリンは斉藤へ交替。太田はピアノに座る。
 「・・・弾けないんですが」
 くるりと振り向き、苦笑する。
 笑いをとった後、ピアノを弾きだした。訥々としながら、きっちりスイングするピアノだった。
 太田がピアノを弾く姿、初めて見たよ。途中でフリーキーに鍵盤を叩く一幕も。

 バイオリンはシャープにアドリブを重ねる。
 最後は太田がピアノで和音をぱらぱらっと分解させ、幕を下ろした。

 ライブが始まったのが、19時半過ぎ。演奏終わったのは23時頃。
 休憩が30分弱、ほとんどが雑談トークだったとはいえ、ボリュームたっぷりだった。
 あっけにとられたけど・・・。リラックスして面白かったな。

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