LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。


05/3/28   西荻窪 音や金時

出演:彼岸の比岸+鬼怒無月
 (吉野弘志:b、吉見征樹:tabla、太田惠資;vln、+ 鬼怒無月:g)

 満員の盛況。演奏は20時を待たず始まる。
 鬼怒は"彼岸の比岸"へ幾度もゲスト参加したことあるみたい、ステージの上に妙な気負いは漂わない。

 ライブ前に鬼怒はエレキギターをシールド無しで空弾きしてた。
 えっらい早いフレーズがどんどん飛び出す。思わず、耳をそばだてた。
 なお店内BGMは明田川荘之のピアノ・ソロ。前に行ったときもこのBGMだったっけ。

<セットリスト>
1.アラビアの娘(?)
2.Mozqus
3.ミズノキ(?)
4.(?)<吉見の曲>
5.ヘイフン・ヘイハッ
 (休憩)
6.半分の月(吉野+吉見)
7.(?) (吉野+鬼怒)
8.Masarascope
9.ダンス
10.(?)
11.竹
(アンコール)
12.(?)

 かなり大雑把なセット・リストですみません。
 (5)、(6)、(11)が吉野のオリジナルかな?
 彼はリーダーとして、司会もめた。

 (1)はアラビア方面の曲だそう。原題も紹介してた・・が、覚えきれず。
 PAバランスはベースが埋もれ気味。あまり聴こえず残念。
 その代わり、タブラが異様に響く。左側の太鼓の低音がびんびん鳴って、すっごく心地よい。

 ベースの低音はタブラと重なって聴こえるため、上物楽器が目立つ。サウンドの重心は軽め。鬼怒と太田によるアラブ風のフレーズが妖しく鳴った。
 完全即興スタイルではなく、曲を中心にソロ回しを挟んで演奏が進む。

 太田の曲"Mozqus"では、鬼怒がガットからエレキへ持ち替えた。
 ソロになると、ファズを効かせ歪んだ音でアドリブを渋く決める。
 アコースティック・バイオリンとの音色の対比が楽しい。拍をまたぎながら、めまぐるしいフレーズをばらまいた。

 なぜかタブラのソロ無しで曲を終わらせてしまう。
 「9拍子でのタブラ・ソロが聴きたかったんだけど・・・やめちゃいました」
 太田が笑う。このネタは以降のMCで吉見からさんざん蒸し返され、いいギャグになっていた。

 続く(3)が圧巻。鬼怒のオリジナルだそう。ボンフルのレパートリー?
 重厚でサイケな世界が広がる。小細工無しにするっと提示するベース・ソロが、とてもよかった。
 もちろんバイオリンとエレキギターも。

 太田は具合悪いのか、なんだか顔色に精彩ない。しかし演奏はばっちり。メロディが次々にあふれ出す。
 弓の毛をつぎつぎほつれさせながら、生き生きした旋律をほとばしらせた。
 今日は弓のほつれがかなり目立った。しかし途中で毛を引きちぎることなく、淡々と弓を動かす姿が印象に残った。

 続く吉見の曲はあえてタイトルを言わない。
 鬼怒はアコギに持ち替えて、早弾きフレーズを矢継ぎ早に展開。
 楽想にあわせフレーズを展開させる太田と対照的に、鬼怒はソロとして単独の音世界を構築してた。

 "ヘイフン・ヘイハッ"は、アイヌの曲?冒頭、曲に合わせてこのフレーズをつぶやく。
 鬼怒がエレキギターで、まるでハードロックみたいなソロを弾いた。

 後半は"デュオ・コーナー"から。まず、ベースとタブラ。
 吉野がメロディ部分を引き受けるも、同じフレーズを積み重ねる場面が多い。
 タブラがあおり、浮遊感ある音世界を提示した。

 続く吉野+鬼怒のデュオは、南米では有名な曲だそう。譜面を前に直前になって、曲構成を確認する鬼怒が面白かった。
 休憩時間中に見てた譜面がどっかへ行っちゃって、吉野に借りる一幕も。
 メロディが美しい。前の曲とは対照的に、鬼怒のソロをぐんと前面に出す。
 ロマンティックな雰囲気がよかった。

 "Masarascope"で鬼怒はマンドリンを使う。
 演奏後に太田が「打ち込みタブラと手弾きマンドリンで、この曲のデモテープを作ったんですよ」と、大喜び。
 マンドリンとバイオリンはチューニングが一緒だそう。

 例によってメンバーからは「褒め殺しだ」と言われまくってました。
「太田さんとライブやると、自分がなんか凄い人に思えてくるんですよ」
 と、鬼怒が笑う。1月の太田+鬼怒+吉見でも言ってたな、そういえば。
 アンサンブルではなく、マンドリンとバイオリンがユニゾンでテーマを弾く。
 したがって二つの楽器が溶け合う心地よさ。
 エンディングでは鬼怒が入りそびれ、ワン・コーラス待って加わる。その瞬間の響き具合がいいんだ、また。

 アドリブでも鬼怒を前面に出す。
 吉野が弾きやめ、太田はタールを手に取った。
 タブラとタールのダブル・パーカッションで、マンドリン・ソロを盛り立てた。

 "ダンス"は坂田明の曲。吉野は坂田明トリオに参加してたらしい。
 「踊れるものなら踊ってみろ、って曲」
 吉野が紹介する。演奏中、鬼怒が顎をぐいぐい動かしながらリズムとってたな。
 複雑な譜割りの曲で、単純なジャズにはならない。
 タブラがグルーヴィに揺らがせた。これもいい演奏。
 口タブラからタブラのソロへ。快調につっぱしった吉見のソロはここだったか。

 続く吉見の曲も、タイトル失念。聴いたことある。
 全体の重心がひときわ軽やかで、バイオリンとギターのユニゾンは、まるで中国の音楽みたい。
 たぶんもともとはインドをイメージした曲だと思う。

 ライブ本編はまだまだ終わらない。最後は吉野のオリジナルで"竹"。
 ウッドベースのソロがきれいだった。
 バイオリンもベースもタブラも、ひときわ音が瑞々しく鳴った。

 ところが。アンコールにまで応えてくれた。すごいな。
 何をやるか決まってなかったらしい。軽く相談して選んだのが、モンゴル地方の曲。タイトルは失念。
 テーマは明田川荘之がしばらく前にやっていた、"チンギスハーンと二頭の駿馬"と同じメロディ・ライン。
 
 明田川のライナーノーツに、モンゴル人チ・ボルグの作曲とある。「吉野弘志から譲り受けた」と書いてたから、同じ曲だろう、たぶん。
 メロディ・ラインは雄大でとても好き。ウッド・ベースが朗々とテーマを奏でる。
 吉見は口琴を静かに鳴らした。

 ソロ回しへ。鬼怒ソロでエレキギターが奏でたとたん、ブルーズ・ロックぽく世界が変わったのが可笑しかった。
 ラストは太田がコーダを引っ張る。ゆったりとエンディングへ。

 マイクへ屈んだ吉見が、口琴をいじる。
 「ありがとうございました」
 いきなりまとめてしまう。

 笑いの中でライブは終わった。すでに23時すぎ。トータルで2時間半くらいやってたんじゃ。
 世界各地の文化を貪欲に取り入れ、自在に音世界を変えてみせる。アドリブはどれも味わい深い。面白いぞ。

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