LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2005/3/23 大泉学園 in F
出演:黒田京子トリオ
(黒田京子:p acc、翠川敬基:vc、太田惠資:vln.per
etc.)
ブラ・プロとして結成されたこのバンド、今回はメン・プロとなるらしい・・・。店内へ入ったら、リハの真っ最中だった。
静かに演奏へ耳を傾ける。
お客で埋まった8時15分頃、ライブの幕が開いた。
最後に現場入りが司会、の掟に従い司会を務めたのは、太田恵資だった。
翠川敬基がpppでチェロの弦をアルコ弾き。
太田はバイオリンの高音を使って、鳥の鳴き声を模した。黒田京子は聴きに入る。
そして、鍵盤へ指を落とす黒田。
即興は深まった。
<セットリスト>
1. (即興)
2.Songs
my mother taught me
3.Passing
(休憩)
4.It's
tuned
5.link
6.ラ・パッショナリア
7. ?
(アンコール)
8.馬鹿な私
(2)はチャールズ・エドワード・アイヴズが1895年に書いた曲。クラシック・・・なのかな?
このトリオは富樫雅彦の曲を好んで取り上げる。今夜選ばれたのは、(3)と(4)。
(5)は翠川のオリジナル。緑化計画でも演奏したことあるそう。黒田京子トリオでは初めてかな?
過去にこのトリオで演奏された、チャーリー・ヘイデンの曲が(7)。
(8)の詳細は不明。映画音楽らしい。ニーノ・ロータの作品だそう。
(1)の即興は、かなり長い時間かけた。20分くらいやってたのでは。さまざまに表情を変えてゆく。
冒頭はあえて中心をおかない。互いが中央に置かれた大きな球の表面をなぞるかのように、音を交わしてゆく。
ソロやメロディらしきものはほとんどない。音がふわり漂った。
最初にきっちりとソロを取ったのは太田だったか。いつのまにかクラシカルな旋律で歌う。
チェロやピアノが同じ風景を共有した。
がっちり三人のアンサンブルが組み合う。さらにトラッドらしき楽想へも変化した。
チェロもバイオリンも特殊奏法は控えめ。真摯に弓で楽器を弾く。翠川は途中で指弾きも取り入れた。
激しくメロディを弾く太田の弓は、途中で幾本も切れる。
翠川と黒田はテンポをあわせ、ときに力強い一打ちを挿入。
即興が終わったときには、翠川の弓もおどろに切れていた。
「あ、こんなに切れてる!」
と、翠川自身が驚き、弓を交換する。
即興曲ではバッキング気味だった黒田だが、続く"Songs my mother
taught
me"ではぐっと前面へ。
イントロの響きが優しい。そっと音を広げてゆく。
旋律を存分に奏でる、バイオリンとチェロの絡みも聴き応えあった。
テーマはするりとフェイクし、太田のアドリブへ。存分にメロディを振りまいた。
アドリブはピアノに変わる。音楽が広がる。
太田はメガホンを取り出し、譜面へ顔を近づけた。なにやらつぶやく。
英詩を読もうとしてたようす。
が、途中で「英語が分からない〜♪」とつぶやき、即興でタイトルに関連した言葉を日本語で載せた。
一旦音がまとまりかけたとき。翠川がすかさずアドリブを進める。
アイコンタクトが微妙に飛び交う緊張感が心地よい。
ちなみにエンディングにて。きれいに音が消えたにもかかわらず、太田が「私自身の"母に教えられた歌"を・・・」
と言い出し、バイオリンで弾き語りを。
これが"オータのトルコ"のイントロ。"ややっの夜"のテーマソング、と言えばいいかな。
今までの穏やかな曲想とのギャップが、大うけだった。
どちらも長尺だったため、"Passing"で前半は締める。
ライブ前に曲順を相談してたようだが、演奏のイメージ次第で曲順をがらがら変える。
いきなり相談が始まり、最後は翠川の提案で"Passing"が決まった。
楽器を構えようとする太田にかまわず、翠川はリフをベースで弾く。
執拗に繰り返されるリフは、途中でフェイクしアクセントが変貌した。
黒田はアコーディオンを構える。
バイオリンのアドリブがきれいだった記憶があり。
ソロはアコーディオンからチェロへ。じっくりソロが回る。
翠川がチェロできれいなフラジオを聞かせたのは、この曲だったか・・・。
途中でピアノに黒田は切り替えていた。
そして後半。
"It's
tuned"では、いきなり翠川の口楽器が炸裂した。すかさず黒田があわせる。
アカペラ演奏へ積極的に加わるかと思ったら、太田はすごく戸惑い顔。おそるおそる、声を乗せていた。
むろん途中から、クロスフェイドのように3人の楽器演奏へ切り替わる。
後半も曲順は演奏のムードにあわせ、その場で決められていた。
「とっても怖い・・・それは"リング"や!」
と一人ボケ/ツッコミで、太田は"Link"の曲紹介をする。
この曲がすごく、しみた。
ゆったりとしたバラード。6/8拍子だそう。どちらかといえば最近の曲だそう。
とびきり美しい旋律は、弦とピアノの組み合わせで奏でられる。ムードが高まる。
タイトルの由来は知らない。凛と緊迫した演奏は、残酷なほどきれいだった。
太田は感じるものがあったのか。曲が終わったあとで、まじまじと楽譜を見詰めてた。
続く"ラ・パッショナリア"を選ぶまでも、ずいぶん相談あり。
用意された譜面をめくりながら、太田と黒田が相談する。
曲を始めようとしたら、翠川は譜面が見つからなかったみたい。床へ置いた譜面を繰る。
気を使った太田へ「いいから演奏始めてて」と告げ、結局譜面無しで弾いてたのが面白かったな。
本編はニーノ・ロータの曲で締めた。タイトルはイタリア語。
「黒田さんが曲紹介してくださいます」
太田はさっさと、役割を黒田へ振る。黒田は譜面を見ながら発音してたが、よく聴き取れませんでした。ごめん。
「アドリブは長めにね」
黒田が指定していたが、あんがいあっさり終わった気がする。
軽やかな空気でステージに幕を下ろした。
が、拍手がやまない。アンコールへ。
何をやるか、三人が小声で相談する。が、場所は太田のマイクの下・・・。
「内緒話が出来ない〜!」
と太田がぼやいて、笑わせる。
選ばれたのは、黒田のオリジナル"馬鹿な私"。
そっと黒田はカズー(かな?)をピアノの上へ置いた。
跳ねるテーマから即興へ。太田がいきなりメンバー紹介をコミカルに始める。
黒田は突っ伏して笑ったあと、カズーを吹きながらソロを取った。
もともと音の相性がいい三人だがライブを重ねるにつれ、繰り出すやり取りが凝ってくる。穏やかで流麗な演奏は、アドリブと思えない瞬間もしばしば。
即興演奏が好きならば、ぜひ一度足を運んで欲しいバンドだ。
演奏中にメモとってないので、細かいところまで書けないが・・・一時も弛緩することなくアイディアたっぷりの音が紡がれるスリルは、一度味わうと病みつきになる。
ちなみに。このライブで嬉しいことの一つが、観客による拍手のタイミング。
コーダから一呼吸。余韻を楽しむように静寂が漂ったあと、おもむろに拍手が飛ぶ。
別に誰も計ったわけではないはず。だけどこの余韻の雰囲気が、黒田京子トリオの演奏にぴったりなんだ。