LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2005/3/20   新宿 DUG

出演:坂田明mii
 (坂田明:as,cl、黒田京子:p、バカボン鈴木:b)

 もう5年ほど活動してるそう。昨年、1stCDをリリースした。
 場所はライブハウスよりも、ジャズ・バーな趣き。音楽目当てから、ふらっと呑みに来た一見らしい客まで豊富な客層だった。

 演奏前にスタッフの前説が入る。なにげなく演奏が始まるライブハウスで聴きなれると、こういう演出が妙に面映い。
 miiが出演するのは初めてだそう。へえ、そうなんだ。黒田京子は数度、移転前のDUGで演奏したと紹介された。

 miiは初めて聴く。バカボン鈴木(ex:パール兄弟)は、てっきりエレベかと。
 ところが今夜はウッドのみ。もっともウッドを彼が弾くのは、このバンドだけらしい。
 
 口開けは、たぶん"赤とんぼ"。イントロから3人の音が降り注ぐ。
 耳馴染みあるメロディを、アルト・サックスが穏やかに変奏していった。
 日本情緒をかすかに漂わせた光景は、予想とまったく違ってた。

 てっきり三人でガシガシに切りあうフリージャズと思ってたんだ。実際はリーダーの坂田明が、きっちり前面に立ち続ける。
 ピアノ・ソロになって、ソロ回しって印象はほとんどなし。
 坂田はピアノ・ソロの時も、各種ベルやバード・コールを使ってステージの主役を努めつづけた。
 ベース・ソロにいたっては、ほとんど無かった気がする。
 逆にバンドとしての音の一体感はばっちりだった。

 あれは一曲目かな。ひとしきりソロを吹いたあと、坂田はサックスを置く。
 ピアノが転がる中、小さなベルをゆっくり振って、さみしさを演出した。

<セット・リスト>
1.赤とんぼ(?)
2.ダンス
3.?
4.行き交う人々
5.<即興>
(休憩)
6.役立たず
7.ハタハタ
8.<即興>
9.?
(アンコール)
10.家路(?)

 どれもきっちりと、坂田がMCで曲紹介した。が、メモを取りそびれたので記憶頼り。間違ってる箇所もあるはず。ごめんなさい。
 かなり喋りが多かった。バンドメンバーをいじらずに、一人で話してしまう。
 ずっとバンドやってると、いいかげんステージで話すことなくなるのかもな。
 坂田の口調は、まるで古典落語。面白かった。
 淡々と客席へ話す内容は、ときに落ちもなくそのまま曲へ移る。

 二曲目はもろのフリージャズな"ダンス"。25年前にメールスへ出たとき、書いた曲という。勢いよくテーマを駆け抜け、ソロへ雪崩れる。
 ピアノはクラスターも登場。アップライトを弾いており、指使いがよく見えた。
 クラスターをかますとき、左手の手首を使ってるようす。右手の肘打ちも、なんだか優しかった。
 特にめだった合図もなく、フリーなソロからすかさずテーマへ戻るとこがかっこいい。

 背筋をピンと伸ばした坂田は、目を閉じ気味で音を撒き散らす。
 フリーキーさは控えめ。フラジオすらも丁寧な響きだ。ふくよかなサックスの鳴りがきれいだった。こういうサックスも吹くんだ。
 ベースはマイクを通してたようだが、サックスの音が大きいため、ちょっとバランスが厳しいか。

 ほとんど指弾きのベース。ドラムがいない編成だが、かまわずにぐいぐい低音がサックスへ絡むアレンジだった。
 いちおうベースやピアノの左手でリズムを提示するが、基本はもっと自由みたい。
 テンポだけ維持して、てんでに絡んでた。

 3曲目はなんだか長いタイトルの曲だったような。アルトにて。
 万葉集などに題材を得た曲だそう。曲の頭と終わりに朗々と、坂田は和歌を唸った。
 アドリブを吹いてるとき、左足がせわしなく動いてたのはここかな。
 上下にリズムをとらず、かかとが激しく床をこすっていた。

 「長いと思うか、短いと思うか。人それぞれですな」
 そんな前置きで演奏されたのが、"行き交う人々"。
 バカボンはアルコを構え、黒田は鍵盤の裏をコツコツ叩く。坂田がクラリネットへ持ち替えた。
 お、どフリーかな?期待したが、クラリネットが軽くロングトーンを一吹き。それだけ。
 ほとんど一発芸のノリだった。

 前半の最後が即興か。そのまま坂田はクラリネットを吹く。
 黒田は聴きに入った。ベースとクラリネットの絡み。
 そして、おもむろにピアノも音へ混ざった。

 即興とはいえ、前衛要素はほぼ無し。特殊奏法も皆無。ところがジャムのように混合もしない。
 きっちり坂田がフロントに立ち続ける。その構図は常に感じた。

 後半戦は"役立たず"から。ユニゾンのテーマをクラリネットで坂田は吹く。
 ソロはクラリネットからピアノへ。小さなベルを取り出し、じわりと音を響かせたのはここか。
 だんだんバンドの色合いに馴染んだせいか、より音楽へ後半はのめりこめた。

 しびれたのが続く"ハタハタ"。
 記録映画「白神の夢」のテーマだそう。坂田はミジンコを教える先生役で出演してるとか。

 沼地で撮影したとき、底なし状態で胸まで埋まったという。
「ああいうところは、一人じゃ脱出できません。皆さん、気をつけてくださいね」
 ふつう一人ではあまり、そういうところに行かないと思う・・・。
 ギャグなのかなあ。表情は大真面目なアドバイスでした。
 
 ピアノの穏やかなフレーズに包まれた、坂田の醸し出すフレーズがとんでもなく美しい。これ、サックスだったかなあ。
 テーマから自然にアドリブへ移行し、存分にメロディに酔える。今夜のベストだった。

 ピアノもベースも単なる伴奏で終わらず、ムーディに堕さない。センチメンタルな風景が素晴らしかった。
 黒田がソロをとってるとき、バード・コールを坂田は使った。

 次が即興だったか。曲目紹介も無く、いきなりアグレッシブに突っ込んだはず。
 当初に予想してたのは、こっちの路線。逆にフリー系は食い足りなさも残る。三人が等価の切りあいや、破綻をコンセプトとして狙ってないみたい。
 
 ラストは坂田の歌を前面に。生まれ育った瀬戸内海での光景を題材に取ったそう。
 ここではほとんど歌が主役。サックスこそ吹いたが、ほとんどは、よく響く声で顔を真っ赤にしながら、坂田が歌った。観客へ手拍子を求める。
 
 アドリブの途中、つっと坂田がメンバー紹介を始めた。
 一旦コーダへ。一拍置いてアップ・テンポで再びまとまり、本編をしめた。

 アンコールの拍手が続く。ステージを降りず、そのまま演奏が始まった。
 演奏されたのは、たぶん"家路"。ゆったりとサックスが響く。
 丁寧にアルトがメロディをつぶやいた。

 余韻を残すように。静かにライブが終わった。

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