LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2005/3/5   西東京市 こもれびホール

   〜こもれびジャズ・ナイト:山下洋輔プレゼンツ〜
出演:山下洋輔4G、Xuxu
 (山下洋輔:p、川嶋哲郎:ts,ss,fl、水谷浩章:b、外山明:ds)

 ここは財団法人が管理するホール。そのせいか、どうもイベントの持つ空気がぬるい。
 開演も18時と早い早い。キャパは約600人で、7割程度の入りか。年配の観客が多い。地元の人だろうか。
 ジャズ・ファンらしき人と、普通の(って言い方、妙だけど)観客とが混在する客層が新鮮だった。

<セットリスト>
〜山下洋輔4G〜
1. ?
2.フォー・デヴィッズ・セイク
3.テンス・テーマ
4.スパイダー
 (休憩)
 〜XuXu〜
 5.狐軍
 6.ラ・フィエスタ
 7.ソング・オブ・ジ・アイランド
 8.スパイ大作戦
 9.メモリー
〜山下洋輔4G〜
10.ヘイケ・キッズ
11.クルディッシュ・ダンス
(アンコール)
〜山下洋輔+XuXu〜
12.枯葉

 イベントはきっちり進んだ。一ベルが鳴り、18時に客電が落ちる。
 白い上下にベストを着込んだ山下洋輔は、さっそうとステージへ登場した。

山下洋輔4G

 軽く挨拶をして、まずはピアノソロから。何かの曲かもしれないし、完全即興かも。曲紹介が無く、詳細は不明。

 思えば高校の時に山下洋輔をLPで聴いたのが、フリージャズに興味を持った切っ掛け。しかし生できちんと見るのは今夜が初めて。
 天井の高いホールで音はヌケてしまい、今ひとつ物足りない。ライブハウスの環境に慣れてるんだろうな。
 とにかく指が良く動く。華やかで軽やかに高音部分を多用し、素早く駆け抜けた。
 重心軽いフリーな演奏が心地よい。特にクラスターも使わず、5分程度で仕上げた。

 下手に立てたマイクへ向かい、背筋をピンと伸ばして挨拶。今夜のMCは挨拶程度。まずはリズム隊の二人を呼び出した。
 この二人と山下洋輔の演奏を、ぜひ聴きたかったんだ。

 まず、トリオで山下の曲"フォー・デヴィッズ・セイク"を。
 セッティングは水谷が中央に座ってウッドベースを弾き、外山と山下が向かい合う。
 広いステージだが中央部分しか使わず、こじんまりと楽器を配置した。

 外山はまず、座ったままドラムを叩く。奔放なリズムが山下のピアノにすぱっとはまった。
 ハナからドラムは刻みを放棄。むしろ水谷がテンポ・キープ役を担うかのよう。
 しかし乱打のように聴こえつつ、一定のグルーヴは常に保持するビートだった。

 若干分かりやすくするためか、リムショットやスネアの連打を頻繁に挿入し、派手なテンポ・チェンジは使わなかった。
 そう聴こえるのは3人のアンサンブルあってこそ、かもしれない。ドラムだけだと、まったくリズムの頭が取れない。変拍子まみれに聞こえたから。
 最初は音がばらばらに飛び交ったが、ステージが進むにつれて音が丸まってくる。
 あとはボリュームをガツンと上げて欲しかった。ステージとの間に距離を感じてしまう。

 ソロ回しはどの曲でも比較的行われた。一番目立たないのが山下。とにかく水谷と外山を前面に出したアレンジだった。
 "フォー・デヴィッズ・セイク"では長いベース・ソロを行い、続く"テンス・テーマ"では、ドラムが叩きまくる。
 ベースやドラムのソロでは、ほとんど山下は弾きやめてしまう。
 したがって水谷のソロではドラムとのコンビネーションを存分に味わえた。気心知れた柔軟なグルーヴがたんまり。

 ドラム・ソロでは連打のフレーズを外山は多用する。もちろん単なるスネア・ロールなんかじゃない。
 テンポを一定にしたうえで、アクセントをめまぐるしく変える。浮遊感あるビートを提示した。もうちょいPAがでかかったら、迫力増したろうに。
 ちなみに"テンス・テーマ"から川嶋哲郎も参加。まずはソプラノでソロ。続く"スパイダー"ではテナーでアドリブを披露した。
 印象に残ったのはテナーかな。めまぐるしく音をぶちまけて、野太い響きを連打する。メロディでもテンションでもなく、テクニックで聞かせた。
 
 "スパイダー"では外山も立ち上がってドラムを始める。
 カウントもユニークだった。外山はせわしなくスティックをガチガチ打ち鳴らし、カウント代わりにした。
 鍵盤へ肘打ちを落とす山下。リズム隊の自由なビートをがっぷり飲み込み対峙する、いかした演奏だった。

 ラストがすぱっと決まる。ここで休憩。
 1stセットは50分くらい。ジャズはホール演奏でも休憩挟むんだ。知らなかった。
 15分の休憩後、山下洋輔が登場。XuXu(しゅしゅ)を呼び出し、そのまま袖へ引っ込んでしまう。
 まったくの司会者状態。コラボじゃなくて、ほんとうにゲストなんだ。

XuXu

 XuXuは初めて聴く。女性4人組のアカペラ・グループで、国立音大の出身生が母体。
 器楽的なアプローチで、主旋律すら分け合う。アルト、ソプラノだけでなくファルセットまで。
 フルレンジでボーカルを使えるから、かなり幅広いアレンジが可能だ。
 ミルス・ブラザーズをアカデミックに洗練させたら、こんなバンドかなぁと頓珍漢なことを考えていた。
 
 秋吉敏子の"狐軍"、チック・コリアの"ラ・フィエスタ"と、アカペラでやるにはマニアックな選曲で幕を開ける。
 前者では狐の形態模写を差込む、コミカルな側面も。右端に立つメンバーが、指をくるくる回しながら、プロペラみたいな声を出してたのがキュートだったな。
 
 役割分担がめまぐるしく変わり、ファルセットで歌ってた人がいきなり低音を出す。遠目で見てると、だれがどのパートを歌ってるのか分からない。
 ドゥ・ワップを聴き馴染んだ耳には、もうちょい低音成分が欲しい。でも、楽しめたよ。

 「オルガンを声で表現します」と前置きし、カウント・ベイシーの"ソング・オブ・ジ・アイランド"。
 続けてメンバー紹介しながら勇ましく"スパイ大作戦"を披露した。
 最後はミュージカルの"メモリー"。
 ひょうひょうとテーマの断片が現れては消えてゆく。最後の最後まで、きっちりメロディを聴かせない。
 朗々と白玉のハーモニーで聴きたくなるのを、じらしながら盛り上げるアレンジが見事だった。

 XuXuのステージはここで終わり。山下が登場し、褒め称える。場面転換の合間に全員でちょっと喋るが、自己紹介レベルのあっさりしたもの。
 このへんの段取りがなんともぬるいなあ。

山下洋輔4G
 後半はカルテット編成で二曲。「大河ドラマの前から、われわれは平家に着目してました」と、山下の曲で"ヘイケ・キッズ"。
 ウッドベースを小さな棒で叩く水谷。テーマの途中で棒を譜面台へ投げ捨て、指で弦をはじく。とたんに風景はジャジーに変わる趣向だ。おみごと。
 川嶋はフルートでソロを披露。循環呼吸や発声奏法などを織り込み、フリーキーなアドリブだった。
 日本風味のメロディなので、力強く吹くフルートの音色が日本笛のよう。

 聴きものが水谷のベース・ソロ。棒で弦を叩きながらフレーズを組み立てる。しかしプリングオフやハンマリングも取り入れてるみたい。
 淡々と弦を叩く左手に加え、右手で多彩なフレーズをウッドベースで鳴らした。
 山下はほとんど弾きやめ、聴きに回る。たまに身体を動かしてリズムを取っていた。
 
 外山がスネアに右足のかかとを乗せ、ミュートしながら叩いたのはこの曲だったか。
 右足を乗せた不安定な姿勢のまま、タムやシンバルを連打で回す荒業も飛び出した。

 「われわれのライブは、いつもこれが最後の曲です」
 前置きして演奏されたのが、"クルディッシュ・ダンス"。イン・テンポのフレーズがループされて、基礎ビートを形作る。川嶋のソロはテナーにて。
 ピアノ・ソロでは、水谷が執拗にテーマのフレーズを繰り返した。

 アドリブを取ったピアノのソロが終わりそうになると、微妙にベースはフレーズをフェイクさせる。スムーズにベースのアドリブへ踊りこんだ。
 充実したベースソロの後、ドラムのアドリブへ。山下は音を出さずに聴いている。
 激しい変則アクセントの連打が溢れる中、足を組んで演奏を聴いていた水谷が、つとウッドベースの弦をはじいた。
 ドラムソロが続く。水谷は、テンポ良く弦をはじく。いくども。
 低音にあおられるかのごとく、外山のドラムソロはますます熱を帯びた。

 水谷が山下へ視線を投げ、アドリブの終わりを告げる。
 転げ落ちるテーマが幾度も繰り返され、4バーズから1バーズ・チェンジへ。
 ドラムのソロを挟み、残る三人ががんがんテーマで煽る。テンションが上がりきったところで、コーダをスパッと決めた。

 盛大な拍手が飛ぶ。
 うーん、こういう演奏、やっぱりライブハウスで聴きたい。贅沢な話かもしれないが。
 
 アンコールの拍手が続く。スタッフがモニターやマイクの位置を直すあたり、すでにアンコールが予定調和になってて、ちょっといや。
 登場したのは山下とXuXuだった。
 「XuXuは楽器と共演しないのがポリシーだそうですが、今日は特別です」
 
 スタンダードの"枯葉"を演奏。馴染んだメロディだけに、凝ったアレンジが目立つ。
 ピアノ・ソロはなかったはず。徹底的に楽器と共演したXuXuって面白そうだがなあ。凝ってる分、インプロの対応は難しいのかも。
 上品に演奏を終えて、今夜の幕を下ろした。

 終焉は20時半くらい。早いなー。ライブハウスでの演奏なら、これから演奏が始まってもおかしくない。
 実際には2時間半弱と、じっくり演奏を聞かせてる。しかしなんともステージが遠く見えた。なぜだろう。

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