LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2005/2/4   西荻窪 音や金時

出演:渋さチビーズ
 (不破大輔:b、小森慶子:as,ss、大塚寛之:eg、北陽一郎:tp、倉持整:ds)

 演奏が始まったのは20時をまわったころ。
 音や金時の壁には、昨日のライブ(太田恵資+MAMA金)の名残で、墨で書かれた文字が大きく貼られてる。このライブも聴きたかったな。

 渋さ知らズ関係のライブを聴くのは、去年の3月ぶり。活発に去年はライブをしてたのに、全てタイミングが合わなかった。
 今夜は渋さチビーズ。片山広明が参加する小編成の渋さが"チビズ"で、小森慶子が加わったのが"チビーズ"だ、と解釈してる。合ってるかは知らないよ。

 ともあれ今夜は二管編成。さらに急遽、大塚寛之も加わった。
 以前に比べずいぶん渋さも知名度上がったはずなのに、今夜のお客は10人たらず。何でもっと入らないんだろ。つくづく不思議。

 メンバーが板に乗る。演奏が始まりそうになったとたん、不破が慌てて何かを取りに、テーブルのほうへ去った。

 「行方知れズ」
 戻るなりひとこと、メンバーへ告げる。ライブの幕開けだ。

<セットリスト>
1.行方知れズ
2.バルタザール
(休憩)
3.ナーダム
4.パ
5.股旅
6.仙頭

 曲は全て渋さで馴染みのレパートリー。小編成で「バルタザール」ってのが珍しいかもしれない。
 ・・・えらそうなこと言えないな。どっちみち、ずいぶん渋さを聴いてないんだから。

 "行方知れズ"の冒頭は、管の二人によるフリーから。
 小森が循環奏法でアルト・サックスに悲鳴を上げさせる。きれいなフラジオだった。
 トランペットをふわふわ鳴らす北。
 大塚が軽くスライドでエレキ・ギターを唸らせる。不破と倉持が加わった。

 やはり芯を取るのは不破のウッドベース。とびきりのリズム感だ。
 ふっと弦をはじくだけで、凄まじくドライブする。

 一方の倉持は、ルーズなドラミング。リズム・キープというより、パーカッション要素が強いか。
 インテンポでぐいぐい鼻面を引き回す力強い不破のベースと比べ、半瞬ほど遅い。
 渋さの小編成といえば、タイトに叩くドラマーばかり聴いてきた。そのぶん、ちょっと馴染みづらかったかな。

 全体のムードをあおるのも不破。
 彼がテンポ早く突っ込めばバンドはラッシュし、ちょっと低音を抜いたとたんに混沌が広がる。

 "行方知れズ"はずいぶん長く演奏してた。45分くらい。ソロ回しを順に繋ぐが、弛緩しない。
 ソロはまず、小森から。アルトをフリーキーにきしらせる。
 目が隠れる長さの髪の毛を振り乱し、金属質にサックスを吹きまくった。
 表情が見えないぶん、凄みある。
 ところがソロが終わるとぱっと髪をかき上げ、きれいな表情を見せる。
 この使い分けは、ライブの端々で見られた。表情やステップも含めて表現する。上手いなあ。
 "行方知れズ"のソロが二周目に入ったときは、小森はメロディアスなアドリブに変換。メリハリをつけた。

 実際、今夜のソロはあらかた小森が取っていた。不破とがっぷり噛みあい、バンドを引っ張る。
 ソロじゃないときはふっと立ち、サウンドを聴く北とは対照的だった。
 小森は他のソロにあわせ軽くステップを踏んだり、積極的にオブリをかましてた。

 ただし音量が一番辛かったのも小森。今夜のホーンは全てノーマイクだったので。
 大塚がでかいボリュームでギターを鳴らすと、サックスはほとんど聞こえない。
 最下手に立ってた小森だが、北と場所を交代して中央に立ったら、音量バランスが違ってたかも。

 大塚はソロのとたんにボリュームをがん、とあげる。早弾きではなくディストーションでサイケなフレーズを弾くことが多かった。
 ときにアームで音を揺らす。彼のギターがいいアクセントになって、音像を引き締めた。
 逆にバッキングでは相当控えめ。残念。もっと弾いて欲しかったな。

 "行方知れズ"での不破ソロは無伴奏で。得意の早弾きフレーズもウッドベースで唸らせる。
 数年前ほどぐいぐいやらなかった。ちぇ。あれ、好きなのに。
 途中から小森がソプラノ・サックスを構えてオブリを入れた。

 そもそも今夜のライブで、ベースソロはほとんどない。ここと、あとは"パ"あたりで、ちょっと取っただけと思う。

 ドラム・ソロは乱打が続く。
 終わり際に小森がドラムセットを向き、爪で鋭くシンバルを引っかく。
 シンバルが軽やかに鳴った。

 テーマを吹くときも、なんだか二管とは思えない分厚さだった。何が違うんだろう。
 ホーンもユニゾンで吹いてると思う。ベースの弾き方かなあ。

 時計を確認し、不破が「バルタザール。三拍子で」とメンバーへ伝える。
 曲順はその場で不破が決めてるみたい。

 ひそやかに謎めいて。"バルタザール"が演奏された。ライブで聴くのは何年ぶりだろ。
 小森のソロがすごくよかった。力強く、サックスが鳴る。

 約一時間の演奏で、一旦休憩を挟む。
 後半もフリーから。つと音が途切れ、"ナーダム"のテーマが高らかに奏でられた。 
 何の曲をやるか知らなかったので、テーマが提示された瞬間はぐっと来た。
 ほんと渋さって、かっこいい。小編成だろうと大編成だろうと、不破のベースが身体を熱くする。

 "ナーダム"では、北と大塚のソロが際立った。
 スローから倍テンへ。テーマが突っ込んだあと。すぐさま北が、堂々たるソロを取る。
 ジャズにどっぷり浸かったソロを、トランペットでぐいぐい披露した。

 大塚も負けてない。ディストーションで歪ませ、テンションをみるみる上げた。
 リズム隊ががっしり支える。八分音符を連ねる不破のベースを、ドラムが賑やかに盛りたてた。 
 20分くらい"ナーダム"をやってたはずなのに・・・すごく短く感じたな。

 続く"パ"では唯一、冒頭にドラムのカウントが入った。
 いきなりテーマへ。ラストの一鳴らしが、太く空気を震わす。
 
 たしか二回、エレキギターのソロがあったと思う。
 最初は歪みを抑えたブライトな音色。次には歪ませてスライドを使って。対比させたソロを聴かせてくれた印象が残ってる。

 ソロは一人づつだが、たまに不破はデュオでの演奏も指示する。
 "行方知れズ"で小森と倉持、たしか"パ"で北と倉持、というふうに。

 そう、ステージ上でひっきりなしにアイ・コンタクトが飛びかった。
 ライブでやりなれた曲ばかりのせいか、誰も譜面を準備してない。曲名の一言だけで、即興が始まる。

 しかしソロの順番は不破の合図。たまに手でサインを送ることもあるが、ほとんどは各奏者が目線で分かりあう。
 ソロ交換の合間も、真っ最中も。視線が飛び交うステージの緊張が心地よかった。
 バリライトが素早く切り替わるかのように、視線での会話がびんびん伝わってくるんだ。

 "パ"ではドラム・ソロから展開し、不破の合図で高速フリーを詰め込む。
 淡々としたビートから、不破の合図一発で全員がどしゃめしゃに。
 またスローなドラムのビートのみ。
 不破の視線が一閃。全員で・・・。
 幾度か対比が提示され、エンディングへなだれ込んだ。

 そして浮き立つ"股旅"に。小森がソプラノを吹いたのは、この曲だったかな。
 ベルを思い切り上に上げてステップを踏み、浮き立つソロをたんまり聴かせた。

 このあたりでは全員とも調子が上がり、ソロ交換やオブリもスムーズに進む。
 基本のビートはシンプルなのに、とんでもなくグルーヴィ。
 懐深いテーマの旋律にふさわしい、ふくよかな演奏だった。

 後半が始まって、50分くらいたってたかな。
 不破は時計を確認する。

「ワンワンワンワン!」
 勇ましい不破のカウント。
 "仙頭"だ。

 高速テーマが繰り返される。小森は吹きながらきちんと飛び上がってた。
 大編成の渋さのときみたい。
 あっというまに駆け抜け、ライブは幕を下ろす。

 メンバーがステージを去っても、すぐに立ち上がるのは惜しかった。
 とりあえずタバコを一服。まだ余韻で、身体が熱い。
 
 もっとルーズな演奏をイメージしてた。もしくは完全フリーで混沌ライブかなって。
 どちらの予想も違う。コンパクトながら厚みのあるアンサンブルで、きっちりと渋さの音楽を聴かせた。

 むろんどの曲でもソロはたっぷりで、構成そのものも即興要素が強い。ライブを重ねた実力が成立させる、強靭なバンド・サウンドだった。
 めちゃめちゃかっこいい。また聴きに行かなくちゃ。

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