LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2005/1/29   西荻窪 アケタの店

出演:明田川荘之
 (明田川荘之:p,オカリーナ)

「ちょっと休憩します」
 ライブが始まって、20分くらいたったころ。すでに3曲、演奏してた。
 明田川は唐突に宣言し、ピアノの前から立ち上がった。ふだんは一気呵成に弾ききるのに。
 
 月例深夜ライブ、観客は三人だった。
 0時半頃にライブは始まり、冒頭はオカリーナのアドリブから。
 しばし吹いたあと、つとピアノが鳴る。
 ペダルを踏まない。訥々と音が揺らぐ。"アイ・クローズド・マイ・アイズ"だった。

 今夜はセットリストを省略します。10曲くらいやったと思うが、切れ目なく演奏され、どれがどの曲かよくわからないまま聴き入った。
 "アイ・クローズド・マイ・アイズ"のテーマを紡ぐ中、ただ一度だけペダルが踏まれた。ふわっと音が響く。
 アドリブへ。ペダルも使いつつ。

 メドレーで次の曲へ移る前に、たしかまたオカリーナのソロが入ったと思う。
 そしてオカリーナは今夜、そのあと吹かれることは無かった。

 二曲目にピアノで演奏した曲は、聴き覚えない。日本民謡かなあ。
 ふっと明るい響きの和音が入る。

 曲は"アケタズ・グロテスク"に変わった。
 アップテンポかつ豪快な感触で、たまにソロ・ライブの幕弾きとして、以前に聴いたことある。
 今日は無骨なリズムを多用し、ぐっとテンポを落とす珍しいアレンジだった。

 わずかにルバートさせ、テーマをフェイクさせる。
 しだいに左手が強く早く鳴り、テンポが速まる。
 ペダルをぐいっと踏み、次第に演奏が突っ込んだ。

 休憩が入ったのは、この直後。20分足らずで3曲だから、明田川にしてはかなりペースが速い。
 いったんは店外に出るも、すぐに戻ってきた。
 ピアノを弾き始める。BGMを消そうとするスタッフを明田川が押しとどめた。
 足元の扇風機を回したり、上の白熱灯を消したり。コンディションを変えようとしてるみたい。

 夜中の1時くらいに再開した。最初の曲は、たしか"オーヨー百沢"。
 探るように音が増え、うなり声と共に膨らんだ。
 猛烈なランニングをがしゃがしゃにばら撒く、フリーっぽい演奏へ。肘打ちも織り込む。
 しかしときおり高音部で、四分音符の三連みたいなフレーズが出るため、完全フリーではないかも。

 「実はさっきまで眠くて。ピアノがよく鳴るから、なんか感覚がおかしいです」
 数曲弾いたあと、明田川が苦笑しながら説明した。
 椅子の高さを慎重に調整し、また演奏へ臨む。

 そこからエンディングまで休みなし。ぐいぐいテンションが上がった。
 聴き覚えある旋律が現れる。なんていうタイトルだっけなあ。
 考えてるうちにフレーズは見る見るフェイクしてしまう。
 おもむろにアドリブの波から、旋律の片鱗が顔を出す。

 次第に明田川の顔が赤らんだ。
 激しく身体を揺らし、後ろの壁にぶつかるほどの動きすら。
 グランド・ピアノの中へ手を突っ込み、ピアノ線をざららっと爪弾く奏法も、曲によっては取り入れる。

 曲の切れ目が分かるようで分からない。
 アドリブが奔放にふくらみ、フェイクしきったところで新たなメロディが現れる。
 次へ移ったかと思いきや、前のテーマが復活。
 メドレーとシンプルにくくるよりも、ひとつながりの音絵巻を見てる気分だった。

 最後の曲は"アフリカン・ドリーム"。
 ソロ・ピアノで聴くのは、なんだか久しぶり。
 ぱらぱらっと高音部を叩くとき、かすかに調子はずれなピアノ線の鈍い音が聴こえた。

 雄大なテーマはひっきりなしに変容し、力強くそびえる。
 どんどん音世界に没入した。
 音楽を掘り下げ、押し広げ、そしてグルーヴする。

 派手なクラスターも、終盤近くで現れた。
 顔を真っ赤にして、肘打ちから両腕叩きへ。鍵盤を軋ませる。

 だが、今夜はノイズで終わることは無かった。
 またピアノは太いメロディを、確かに鳴らす。
 
 最後はきれいに、静かに。余韻を残してライブは終わった。
 濃密な演奏を噛み締められ、充実したジャズだった。
 
 にっこり笑って、明田川がピアノから去る。
 「まだ、もうちょいやったほうがいいかな?」
 と、笑ってるのが聴こえた。
 時計は、夜中の2時を指していた。

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