LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2005/1/28   大泉学園 In-F

出演:Arabindia
 (常味裕司:oud、太田惠資:vln、吉見征樹:tabla)

 Arabindiaはどうやら初めてライブを体験するらしい。以前にライブを見たことある気がしてたよ。
 個々のメンバーやそれぞれのセッションを幾度も体験し、なんだか初めて聴くバンドって気がしなかった。
 店は満員の盛況。固定ファンも多そう。

 太田が店へ飛び込んできたのは20時ギリギリだった。
 さくさくセッティングから打合せを済ませ、20時15分頃にライブが幕を開ける。
 サウンド・チェック時に吉見が、なぜか客席への右スピーカーを大きく奏者側へ向けた。
 そのためか、今夜はぐっと素朴な響き。三人ともアンプを通してたけどね。

 常味がリーダーとして丁寧に進行する。曲目も逐一、紹介。
 が、とても覚え切れなかった。セットリストは割愛させてください・・・。ああ、なさけない。

 まず二曲、アラビンディアのアルバム収録曲を演奏。最初が"タハミラ・スズィナク"で、次が"シルト・ナクリーズ"かなあ?
 二曲目に演奏したほうは、ひさしぶりにライブでやったという。

 アラビンディアのイメージは、おっとりしたアンサンブル。
 決して熱い音を叩きつけ、切りあったりしない。むしろ隙間を作って互いの音を生かし、伸びやかな音像を作った。

 冒頭と最後にテーマを演奏、中盤でアドリブを織り込む。
 素早いフレーズをユニゾンするアレンジを多用してたが、これがアラブ音楽スタイルなのか。
  
 一曲目はちょっとこもり気味な音に聴こえた。演奏が進むにつれて、この日は音色がずいぶん変わる。特にバイオリン。
 曲間でたまに太田が、ミキサーをいじってたせいかな。

 しょっぱなから互いのソロに惹かれた。新鮮なフレーズ作りにふっとのめりこむ。
 テンポが速くても、無論ゆっくりでも。アラブ音楽独特の揺らぎにやられた。
 ふっと胸の奥に音が落ちる。クオーター・トーン、かな。ぼくにとって馴染み薄い音程が、耳をくすぐった。

 演奏中は寛げる。しかしMCは、えらいキツかったなー。
 前半は4曲で一時間、淡々と進行した。

 前半途中のMCで、ジョン・レノン・トリビュートのライブ放送(?)の話題が出た。
 アラビンディアは宇崎竜童と共演したらしい。
 たまたま観客の一人が偶然見て、アラビンディアを初めて知ったという。
 そこで常味が熱心に「われわれの演奏、どういう風に感じました?」と尋ねてた。
 しばし客と常見によるやりとりのあと。
「『一目見て、アラビンディアのファンになった!』って言えば、常味くんは満足して訊くのやめますよ」
 太田がみもふたもない忠告して、爆笑だった。

 演奏するときのリーダーは常味。即興の構成もアイコンタクトで決めていた。
 黒いトーガをかぶりウードを弾くさまは、さりげないポーズが実に決まる。
 弾きながらときおりネック部分を下げるとこと、曲の最後にて。
 じゃん、って弾いて、腕をふっと宙へ上げる。
 空気へ音楽を差し出すようなポーズが、すごく印象に残った。

 太田はマイペースで音楽へ絡む。めまぐるしくユニゾンを譜面どおりに決めた後、アドリブでは世界観を自在に操った。
 ヨーロッパのクラシックやトラッド、もちろん中近東へ。イメージがは彩に膨らむ。
 あれはたしか、第一セット最後の曲。クオーター・トーンを存分に使い、凛としたアドリブが素晴らしかった。

 今年頭にin-Fで聴いたときは低音を強調したタブラだったが、今日の吉見はおとなしめ。
 ときおりアドリブもあまり長時間とらず、きっちり底支えした。

 休憩のあとリラックスしたか、演奏はさらに奔放になる。
 太田が時間を気にして、さりげなく常味へ2ndセットの開始を促した。
 まず二曲メドレーで。どれもちゃんと曲紹介したんだけど覚えてない。今度はメモっておこうかな。

 たしか、イントロは太田の無伴奏ソロから。
 アンサンブルはゆったりしたペースで、しみじみ聴かせた。

 曲が終わると観客の一人が絶賛。常味もにっこり。「タブラのリズムが渋いでしょ」と言う。
 しまった。アドリブのフレーズへ耳が行ってしまい、そういう観点で聴いてなかったよ。
 「そんなら、今日は3曲目、4曲目も今の曲やりましょか」
 吉見がおどけて、常味に突っ込まれてたが。そういう長尺構成も面白いな。

 「今の曲のあとには、違うムードで。それが構成というものです」
 みたいなことを常味が言った。
 次の演奏が、べらぼうに速いテンポのユニゾンだったと思う。

 どの曲か忘れたが、印象はアラビンディアの"ラクサ・アル・ミンディール"のようなタイプ。
 とにかく猛スピードでフレーズがかき回される。
 さらにエンディングは倍テンポでテーマを繰り返した。すげえ。

 コーダのあと、太田も常味もため息。
 「ほとんど最後は音の塊だったな〜」
 常見が呟く。

 たしか、後半で5曲を演奏。
 曲間で入念にウードのチューニングをする。なかなかピッチが定まらないらしい。
 2ndセットの冒頭だったか、テーマのあとすぐに太田へソロをふり、ウードの胴へ耳を押し付けチューニングする姿も。
 かすかな調弦音も聴こえ、タブラのリズムと絡む。面白い伴奏となって、バイオリンを支えてた。

 MC役が常味なので、黙ってチューニングすると、全ての視線が常味へ集まる。
 たっぷり時間かけたあと、吉見へ「いや、なんか喋っててもいいんだよ」と苦笑した。

 2nd最後の曲前だったか。
 「もうだめ、今日はチューニング無理みたい。これでいいや」
 「それはin-Fのライブだからこの程度でもいいや、ってことですか?」
 根を上げる常見へ吉見が、わけのわかんないツッコミをする。
 「ちがう、今日はチューニング決まんないんだってば」
 MCのやり取りがキツくて可笑しかった。

 本日の太田は、特に技を使わず。アコースティック・バイオリン一本で通した。
 だが最終曲のイントロで、アラブ風ボイスもちょっと繰り出す。

 今夜の圧巻は最終曲。「私に起こった全てのこと」って意味の曲だと思う。
 それぞれのソロをたっぷり披露した。
 まずは太田。雄大で力強いクラシカルなフレーズが存分に溢れ、耳をわしづかみにされた。
 弓をぱらぱら切りながら、旋律はぐいぐい突き進む。
 
 続いてウードでソロ。常味はこの日、レクも置いてたが使わずじまい。
 タブラにあわせて、太田がタールでリズムをそっと重ねた。
 ウードのソロは上手く表現できない。音にのめりこんで聴いていたら、いつのまにか時間が経過していた。
 
 これはアラビンディアのライブ全体でも感じた。ぼくにアラブ音楽の素養がないせいだろう。
 理解しようと耳をそばだて、はっと気がつくとアドリブや曲が終わってる。時間の流れを意識しない。不思議な体験だった。
 
 ソロのトリを努めた、吉見。凄まじかった。
 まずは口タブラ。「ディンディンナ♪」と、耳馴染みあるフレーズで。
 ところが言葉の組み立てが、みるみる複雑にスピードアップしてく。

 タブラ乱打を全て口で繰り広げる吉見のテクニックにも驚いたが、全て言語化できることにも舌を巻いた。
 単なるハナモゲラじゃなさそう。もしかしてタブラって、複数の鳴らし方すべてに、言葉を技法として当てはめてるのか。

 常味も席を立ち、吉見のパフォーマンスに観客の視線を注目させる。
 ドア近くに立った太田は、吉見の猛烈な口タブラにあわせ身体を揺らしてた。

 徹底的に口タブラを突っ込んだあと、今度はタブラ演奏へ。指がめまぐるしく動き、リズムの奔流が埋め尽くす。
 ソロが終わった瞬間、観客から盛大な拍手が飛んだ。

 曲が終わっても拍手はやまず、奏者がステージから引っ込まずにアンコールとなった。 
 準備してなかったらしく、常味の提案で"初恋(el hob al aouel)"を演奏。

 テレビ番組のBGMで、この曲が演奏されてるの?詳細は不明。個人名を言ってたが、裏を取れないので細かく書きません。
 とにかく「作曲のクレジットがない」と不満を漏らす動きがあるとか。かなりMCで盛り上がった。

 演奏を始めよう、とバイオリンを構えたとたん。
 常味が再び喋り出すから、太田はへたり込んでいた。
 
 "初恋"はユニゾンで演奏されるテーマが楽しいな。
 ころころと風景が細切れで変わってく。
 アドリブもあったが、演奏はこじんまりと終わる。終演は23時近くなった。
 まだ詳しく知らぬ音楽へ集中しつつも寛げた、いい夜だった。

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