LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2005/1/7 大泉学園 In-F
出演:鬼怒+太田+吉見
(鬼怒無月:g、太田惠資:vln、吉見征樹:tabla)
「ありそうでない顔ぶれ」と太田が、演奏前にメンバーを紹介する。
確かに太田+吉見や鬼怒+吉見はある。でも、太田+鬼怒ってけっこう久しぶりじゃない?
三人の巧者が生み出すアンサンブルを期待してた。
観客は大盛況で、立ち見も出る。ところが・・・開演時間の間近になっても、鬼怒しかきてない。
なんでも彼は17時半からスタンバイしてたとか。
19時半を軽く回って、吉見が登場。さらに20時近くなって太田も現れる。
新年の挨拶を手早く交わし、すぐさまセッティングに入る慌しい幕開けとなった。
鬼怒はアンプを持ち込んだが、太田と吉見がin-FのPAを使う。
軽く音を出し、サウンド・チェックしながら太田がミキサーをひねってバランスや出音の感触を変える。
何気ない音の探りあいが刺激的だったな。
準備が終わったところで「第一部終わりにしようか」と、笑ったのは吉見だったか、鬼怒だったか。
20時を軽くまわった頃合。そのまま、ライブが始まった。
リハも何もなし。まずは即興から。
<セットリスト>
1.即興
2.即興
(休憩)
3.MasaraScope
4.?(吉見の曲)
5.即興
(アンコール)
6.Mozqus
前半は長い即興が二つ。最初がエレキで、後半がアコースティック仕立てだった。
まず鬼怒がギターを爪弾く。不安定なメロディへ太田がロングトーンを重ねた。
おもむろにバイオリンがメロディを紡ぐ。
吉見はじっと聴き入った。つと手を横に伸ばし、ビニール袋を取る。くしゃくしゃとマイクの前で揉み、静かなノイズを入れた。
やがてタブラが鳴る。音楽はドライブし始めた。
今夜のライブは予想と違い、アンサンブルよりソロ回しを重視したようす。
互いに力のこもったソロを聞かせるが、オブリは控えめ。
鬼怒は太田のソロをストロークで膨らませ、太田はバイオリンの爪弾きでギターのバッキングが目立った。
もうちょい丁々発止のやり取りも聴きたかったが、ソロそのものは熱くて聴き応えいっぱい。
太田がディストーションをかけたエレクトリック・バイオリンのアドリブとユニゾンで歌ったのはここでだっけ?
鬼怒は足元のエフェクターを切り替えて音色を変える。
太田はかすかにリバーブを使ってた気もする・・・ループよりも、フレーズを生かした即興だったと思う。
演奏の鍵を握ったのは吉見だったかもしれない。彼がタブラであおるほど、テンションが上がる。
一曲目は30分近く、ソロを交換し合ってた。
奏者の距離感を図るかのごとく、MCも長い長い。時には10分近く喋ってた。
太田と鬼怒は"褒めあい"芸風で、リップサービスの応酬に。
鬼怒は同じからみを吉見へふったが、辛口に応対されて戸惑うさまも爆笑だった。
二曲目の即興は、アコギとアコースティック・バイオリンに持ち替えた。
イントロはタブラのアドリブから。
前もって「"お正月"と"ジングルベル"はやりませんよね」と、鬼怒が釘を刺す。
しばし考えてた吉見が披露したのは"たけくらべ"。
左手でピッチを調整しながら、太鼓一つで見事にメロディを出した。
やはり互いの即興のとき、オブリは控えめ。伴奏に徹するシーンが多い。
太田のソロで鬼怒がアルペジオっぽく入れた音像が印象に残った。
ひさびさに生で聴く、吉見のプレイがかっこいい。
横にパーカッションをいくつかぶら下げていたが、ほとんど使わず。タブラのみで二人に吉見は対応した。
PAの音が大きめで、タブラがよく聴こえた。
太田はサウンド・チェックの時に、PAでふくよかにタブラを響かせた。
左手で低音をブーストする瞬間がいかしてる。
完全生楽器だが、ぴたっと低音が止まる。
手首でのベンドもひときわ瑞々しく鳴った。
エンディングも吉見が中心か。
ハンマーでタブラを叩く軽快なビートを提示する。
すかさず太田と鬼怒が揃って、C/W調のメロディを弾きだした。
コーダも見事に着地。びしりと決まった。
もしかしたら何かの曲なの?。即興と思えないほど、異様に息があっていた。
休憩中に3人はミーティングをしてたようだが・・・それでも簡単なものだったみたい。
後半最初は「曲をやります」と太田が紹介した。
太田の作曲でMASARAのレパートリー、"MasaraScope"はアコースティック仕立てで演奏。
PAバランスが気になるのか。太田は演奏しながら、ひっきりなしにミキサーをいじってた。
後半もやっぱり各人のソロを前面に出したアレンジが多い。
鬼怒がソロをはじめると太田はタールを叩きだし、ギターを目立たせる格好となった。
MCはここでも長かった。めちゃめちゃ面白いんだけどね。
続いて吉見の作曲。曲名は告げたけど、聞き漏らしてしまった。
"MasaraScope"もこの曲も、三人とも知ってる曲なだけに安定感あり。美しい演奏だった。
もともとアラブやインド風味だが、鬼怒がロックの要素を持ち込むために無国籍プログレっぽく鳴る。
イントロでは吉見が横に置いた、パーカッションとタブラを同時打ち。
テーマで鬼怒がトチってしまい、やり直してた。
「即興をやります。長くなったら・・・最後の曲かな」
ちらりと時計を見た、太田が告げる。
吉見が小さな太鼓をメインに使ったのは、この即興だったろうか。
タンバリンみたいな楽器は、どういう仕組みか音程もつけられる。
表情豊かなリズムだった。
しばし演奏したあと、吉見はマイクへかがみこんで"Dhin Dhin
na〜♪"と、口でのタブラ・ビートを。
とんとん口リズムで押して、次第にフェイドアウト。
終わるかな?・・・と思いきや。鬼怒が再びソロを始めた。
いつしか太田も加わり、即興は続く。吉見も続き、またぐんっと盛り上がった。
エンディングは吉見がベルを鳴らして締めようとする。
ところが手が滑ったか失敗。苦笑して改めて鳴らし、全員そろってのコーダだった。
拍手は演奏後も続く。戸惑い顔で何をやるか、ちょっと相談してた。
結局、太田の曲「Mozque」を選ぶ。"もずく酢"って聴こえたよ。ぼくの勘違いだろうけど。
リハなしのためか、譜面を睨んで鬼怒が入念に構成を確認する。
括弧がどこへ飛ぶのか、繰り返しの仕方を太田へ尋ねてた。
イントロは太田のバイオリン。かなりハイテンポで弾いたため、鬼怒は目を白黒しながら譜面を追う。
冒頭のテーマはちょっとろれって苦笑したが、エンディングでは見事にユニゾンを決める。
アンコールは鬼怒のソロが中心。太田や吉見は短めにソロを切り上げ、あっさり演奏が終わった。
どの曲でも、鬼怒がかなり熱っぽくソロへ没入してた。
ソロごとに風景が変わる。全員がテクニシャンだから、一定水準を軽く越えた音楽だった。
やむない事情(?)でノーリハが惜しい。
きっちり段取りを組んで、アンサンブルへ力を入れた演奏も聴いてみたいな。