LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2004/12/31   西荻窪 アケタの店

    〜年末恒例アケタの店オールナイトJAM〜
出演:明田川荘之、他

 
 今年最後のライブは文字通り年越しライブ。アケタの店で夜を徹して行われるジャム・セッションに行く。
 昼から雪が降る寒い夜で、歩きづらいの何の。
 今まで「熱狂的なアケタの常連が集まるのかな」と行くのにためらいあった。実際は、常連らしき人もいるが、20代の若い客層も。ごく自然な客席だった。

パートT:
 (鈴木勲:vc、森田修史:ts、須賀大郎:p、吉田智;g、小泉P克人;b、力武誠:ds、上田裕香:vo)

 第一部は鈴木勲G。 聴くのは初めて。
 ベースとクレジットされてたが、実際にはチェロじゃないかな?足を思い切り長く出し、高椅子へ座って演奏する。最後は立って弾いていた。

 しょっぱなにチェロを鈴木が軽く弾く。
 リバーブで増幅された音色が、うよんっとかえってきた。

 鈴木以外は若手ばかり。全員20代っぽい。
 アケタのスケジュールを見ると、ピアニストだけクレジットが違う。トラかな?渋さ知らズで最近弾いてる人。かなりフリーな演奏だった。

 ライブはMC無しでどんどん進んでいく。
 サングラスをかけた鈴木の表情は、よくわからない。しかし構成がきっちり決まってるのか、メンバーはちゃくちゃくと彼に従う。
 どこまで演出が決まってるか不明ながら、かなり鈴木の指示が徹底してそう。

 演奏は前ノリのジャム・バンド風なクラブビート・ジャズと、オーソドックスなジャズが交錯する。
 かなりフレーズを崩した"セント・トーマス"や"オーバー・ザ・レインボウ"も第一セットでやった。

 20時過ぎから始まり、休憩を挟んで2セット演奏する。
 特にふだんのライブ構成と変わらない。
 プレイヤーも年末だからって、気負わなかった。

 後半セットで1曲だけ、女性ボーカルのゲストあり。
 アケタのHPによれば上田裕香。すみません、詳細キャリアは不勉強で知りまえん。
 やはり20代前半だろう。風貌からイメージできるJ-Soulな歌だった。英詞だったが、ソウルかジャズのカバーだろうか。
 一曲歌ってさっとひっこんでしまう。
 視線はずっと鈴木とコミュニケートしており、客席へほとんど向けない。残念。感情移入しづらかった。

 バンドの演奏を聴いてて、世代交代をしみじみ感じる。ダウンビートが希薄なんだもの。
 四つ打ちジャズが、最近の若い人は中心なのかな。
 ベーシストが拍の頭で足踏みし、ドラムが16ビートでオーソドックスなジャズをやるのはショックだった。

 鈴木の位置づけが今ひとつ掴みづらい。彼一人がダウンビートをしっかり持ってたから。
 ブレイキーみたいに若手育成が狙いか。残念ながらサイドメンの個性までは掴みきれなかった。
 アドリブを聴いてると、サックス奏者は今後の活躍が楽しみかな。

 2ndセット。そのテナー奏者がくるりと客席へ背を向け、ドラムをハード・ブロウで煽り立てるさまはかっこよかったよ。

パートU:〜行く年来る年、オマくるソロ〜
 (明田川荘之:p,oca)

 23時半にライブが幕開け。この辺りから客席も埋まってきた。
 セットリストを書いたメモを手に、ピアノの前へ座った。明田川も新年ライブって気負いがまったくなし。

 まずは爽やかなメロディがピアノからこぼれる。"杏林にて"だ。
 今夜の前半は「しばらくぶりにやる曲」がコンセプトだそう。
 "I love you"をメドレーで"杏林にて"からつなげた。

 "杏林にて"のテーマの響きは、清純で新年にぴったり。この時点ではまだ、04年だけど。
 実際には久しぶりでコード進行を忘れてたそう。曲が終わった直後にコードを試し弾きして、「あ、思い出した」と明田川はつぶやいた。

 10年ぶりにやるという"アケタズ・センチメンタル"へ。
 たぶんぼくは初めて聴く。タイトルどおり切ないバラードで綺麗だった。また、聴きたいな。

 次の"B♭センター"にいたっては、25年ぶり。録音して以来とか。
 ハードなストライドが両手でユニゾンする、黒っぽくてロジカルなジャズ。
 途中からクラスターも早速飛び出す。足や尻や肘で、ひっきりなしに鍵盤を叩いた。
 
 曲は多いが個々の曲が短い。4曲弱やって、15分くらいしかたってない。久しぶりの曲は勝手が違うのかな。
 今度はオカリーナを持つ。曲名を言わなくてタイトル不明だが、聴き覚えあるメロディ。"トッカータ"かなあ。

 大小のオカリーナをひっきりなしに持ち替え、軽やかにアドリブを繋ぐ。
 ふっと見ていて気づいたが、かなり肺活量が凄い。息継ぎせずに長い旋律を軽々と吹ききった。

 ピアノへ戻って馴染みの曲、"クルエルデイズ・オブ・ライフ"。
 唸りも登場し、フェイクしたリフレインがひたむきに続いた。

 唐突にアドリブをやめて、お正月の曲(なんだっけ、あれ。"たけくらべ"かな?)を弾く。

 ぱっと音を止めた。客席へ「もう時間回ったよね?」と、尋ねる。
 時計を見ると、ちょうど0時をまわったとこ。よくジャストのタイミングがわかるなあ。
 
 いろんな曲を織り込みながら、合間にお正月のフレーズを弾く。
 そのままテーマへ戻らず、曲を終わらせた。

 セットリストを眺め、「曲がなくなっちゃった」と苦笑する。
 そのまま"サムライ・ニッポン・ブルーズ"を弾いた。
 イントロはオカリーナ。存分に吹き鳴らした。

 ここから二曲ほど、ピアノで演奏したが曲名は不明。
 最初はスロー、後半はアップ目の曲。どっちもいい演奏だった。
 エンディングはクラスターの嵐。ひたすら終わらない。

 フレーズをフェイクさせながら合間に肘打ちや腕を、鍵盤へ叩き落とす。
 たんなる音塊じゃなく、音程感があるからすごい。
 猛烈にピアノを軋ませ、明田川は延々とクラスターを続けた。

パートV:
 (p:明田川荘之、清水くるみ、渋谷毅、須賀大郎、宅朱美、寺下誠
  ds:楠本卓司、野崎正紀、本田珠也、小野麻衣子
  b:小林陽一、早川岳晴、tp:渡辺隆雄、as:宮野祐司、林栄一
  g:津村和彦、加藤崇之 )

 明田川のライブは70分ほど。
 「1時くらいから第3部をはじめます」と行って、ステージを降りた。
 3セットめが始まる前にピアノの調律をした。
 「今日4回目の調律だよ。・・・自業自得か」とぼやいてたのが面白かったな。

 パートVは文字通りのジャムセッションだった。アケタの年明けは初体験。ほんとうに何も決めずその場でメンバーを決めて、セッションしていた。
 メンバーはアケタのHPを元に書いてます。

 いちおう団長が清水くるみ、副団長が楠本卓司と決められた。が、あまり関係なさそう。
 楠本は一曲叩いただけでステージを降りちゃう。清水はちょうど登場した早川岳晴へ「司会得意でしょ〜」とマイクを押し付け、司会らしきことは特にしなかった気がする。

 メモを取っておらず、以下の模様は記憶頼りです。
 まずは清水+楠本+小林のトリオ。いや、宮野のアルトも入ったっけな?
 一曲終わるとドラムは野崎正紀へ。彼のドラムは初体験。シャープなリズムだ。ルーズに強打する楠本と対照的だった。

 が、野崎も一曲で後方へ。登場したのが本田珠也。ベースも早川に代わって、がぜんリズム隊に色気が出る。
 ドラム・ソロは雷のように乱打した。もちろん早川のソロも負けてない。
 ピアノは清水が弾きっぱなしだった。

 「他に(ミュージシャンが)いるでしょ〜。どんどん出てこようよ」と、ステージを降りてしまう清水。
 本田+早川のリズムに負けず、勢いあるピアノを聴かせたので、降りてしまうのは惜しかった。夜も更けてから、また登場したけどね。

 次がたしか、ピットイン明けの渋谷毅。酒を片手に眠たそうな表情でピアノへ座る。
 この三人だと、なにも打ち合わせは要らないみたい。渋谷のイントロで、するっとジャズが産まれた。
 
 第二部からしみじみ思ってたが、やはりぼくはダウンビートの聴いたジャズが好きみたい。
 今夜のセッションは肩の力が抜けたもので、ソロ回しもたんまりある。
 存分に彼らのアドリブを堪能できた。怖いもので、奏者のレベルの高さを実感した。

 渋谷+早川+本田はめったに見られない顔ぶれで刺激あり。冒頭はウッドを弾いてた早川だが、本田の勧めでエレベへ持ち替えた。
 しかし渋谷は組んだ足で、器用にペダルを踏んでたな。
 ついにギタリストも登場。まずは津村和彦。アンプ直結で赤いレスポールを弾いた。

 渋谷も数曲でお帰り。彼はこの後、ステージへ姿を見せずじまい。帰っちゃったか。
 登場したのは観客で見ていた、須賀大郎。正直なところ、セッションの経験不足を感じた。
 フリーにスペース無く弾きまくるから、早川も津村も首を傾げる。
 演奏が始まっても、他の三人は手探り状態。逆にその三人で固まったとたん、音が締まった。

 ベーシストは今夜、二人だけ。ほとんどを早川が弾いた。嬉しい。
 ウッドにエレキに、骨太のグルーヴを聴かせる。

 加藤崇之も登場。豪華メンバーだなあ。津村と交替し、アンプへこれまた赤いレスポールを挿した。
 エフェクター無しのため、ピックも使うオーソドックスなプレイも聴ける、貴重なひとときだった。
 無論、奔放なアドリブは健在。今夜は津村の激しいソロに、自在な加藤のソロと聴き所満載だった。

 ホーンは宮野が吹いたあと、しばらく出てこない。これまたピットイン帰りの林栄一が登場し、がらりと風景が変わった。
 もう、吹きまくり。フリーキーなトーンで早川、本田のトリオ(ギターはたしかいなかった)で盛り上がったのは、今夜のクライマックスの一つ。
 
 渡辺隆雄も前後して登場。ピアノは清水くるみが戻ってきた。
 一曲やったところで、宅朱美へ。シャンソンらしきものの弾き語り。
 ベースは小林へ戻り、早川は店の隅で転寝をはじめる。

 譜面無しでやってきたが、宅の趣味で譜面を使う。
 ステージ前方は渡辺と津村。ドラムはだれだっけ?覚えてない。
 とりあえず曲が始まった。せっかく出てきた渡辺は、曲を知らないためか心細げ。
 そういえば林がとっととソロを吹いて、ステージから消えた気もする。
 宅は二曲でステージを降りた。

 時間はたぶん3時過ぎ。よく言えば自由度が増し、ころころメンバーが変わる。
 小野麻衣子という、20代の女性も一曲だけドラムを叩いてた。アケタの出演者だと思うが、詳細は不勉強で知らない。ごめんなさい。 

 林と宮野のアルト・デュオも。
 無伴奏で曲ともインプロともつかぬ演奏だ。
 掛け合いから互いのソロへ繋がり、エンディングはユニゾンでしめた。
 なかなか聴けぬ組み合わせで、新鮮だった。

 ピアノは寺下誠が登場。「"グッド・モーニング"をやるぞ〜!」とベースの早川を起こす。寝ぼけ顔で早川はウッドベースを手に取った。
 曲はブレイキーの"モーニン"。ドラムは野崎だっけな?ギターに津村もいた気がする。

 ホーンは林と宮野。しかし二人ともテーマをよく知らず、あやふやな吹き方。見かねたか、渡辺も登場した。
 ところがアドリブのとたんホーン隊は生き生き。林は猛烈なソロを吹ききった。
 
 聴いてるだけなのに、いいかげん4時をまわると頭がぼんやりしてくる。
 その気分を跳ね飛ばしたのが、早川のベース。
 ドラムとホーンは誰だったか、記憶があやふや。
 とにかくエレベのランニングで威勢いいファンクを提示し、一気にもやもやした空気を吹き飛ばした。

 クライマックスはやはり早川かな。「"ウオーター・メロンマン"をやろうぜ」と、大勢ステージに揃えた。
 ドラムが小野、ピアノが寺下。ホーンは林と渡辺だったはず。
 ギターは豪華に津村と加藤のツイン。アンプを分け合う。そろいの赤いレスポールが絵柄として決まった。

 ホーン隊やベースのソロもだが、ギター・ソロの応酬がなんとも凄まじい。二人の個性がきっちり出て、さらに隙が無い。素晴らしかった。

 終演予定の5時は軽くまわる。
 最後に登場したのは、明田川御大。ベースは小林、ドラムに楠本が座る。
 曲は"I Closed my eyes"。しっとりしたピアノ・トリオで幕を下ろそうと試みる。

 ところが。客席に座ってた林がむくりとステージへ上がり、おもむろにアルト・サックスでソロを取る。
 こうなったら止まらない。明田川と林が交互にアドリブ合戦。4バーズ・チェンジっぽく、ドラムとアルトがソロを交換する。
 終わると見せかけて林がソロを復活させ、かなり長く演奏してた。

 終演は朝の6時になろうかという頃合い。
 タバコと酒とツマミが散乱する雑然としたテーブルが、今夜の寛いだジャズの一夜を象徴してた。
 充実した夜だったよ。

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