LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

04/12/30   西荻窪 アケタの店

出演;アケタ西荻センチメンタル・フィルハーモニー・オーケストラ
   (明田川荘之:p,oca、渡辺隆雄:tp、宮野裕司:as、榎本秀一:ts、
    松本健一;ts、津村和彦:g、鈴木克人:b、楠本卓司:ds)

 アケタで明田川のオケを聴くのは、去年の7月以来になる。ずいぶんサボっちゃったな。
 今夜は「アケタの店」恒例、年末のアケタ・オケのライブ。『Live in Netherlands』のレコ発も兼ねた。
 本盤へも参加した、松本和志(b-tb)の参加が予定されるも、飛行機の都合でNGとなった。

 それでもホーン4管態勢でステージへ並ぶと、迫力が凄い。
 録音のためコードはとぐろを巻く。
 後列に並んだドラムやベース。さらに明田川自身すら、客席からよく見えないほどステージはぎっしりになった。
 顔ぶれは過去に明田川と共演経験のある、気心知れたミュージシャンばかり。
 おかげでとびっきりのアケタ・グルーヴをバンドで味わえた。

<セットリスト>
1.亀山ブルーズ
2.オーヨー百沢
3.サムライ・ニッポン・ブルーズ
4.スモール・パピヨン〜マツケン・マンボ
 (休憩)
5.クルエルデイズ・オブ・ライフ
6.アケタズ・グロテスク〜マツケン・マンボ
7.いかるが桜
8.エアジン・ラプソディ〜マツケン・マンボ

 明田川のライブでは、馴染み深い曲ばかり。
 今夜は全てアケタのオリジナルで埋め尽くされた。新旧曲がバランスよい選曲だ。

 "マツケン・マンボ"ってのは、"マツケン・サンバ"へのしゃれで、明田川が演奏したマンボのこと。
 tsの松本健一に引っ掛けたんだろう。メンバー紹介のBGMに使われていた。

 とにかく今夜は充実。あっというまに時間が過ぎる。
 "亀山ブルーズ"からいきなり、すごいソロが飛び出した。

 今夜はピアノもPAから出していた。耳に届いた音像は、独特だったな。ぼくの耳が特殊なのかもしれないが。
 ベースは細かい音を聴き取れず、「低音」の存在感のみ残す。

 ピアノもかなり埋もれ気味。ドラムはさすがに生音で響くが、比率はやっぱり低い。
 つまりホーンなどのソリストを全面に出す格好。・・・聴いてる位置でも感想は違うと思うが。

 今夜は津村和彦(g)にかなりの自由が任されていた。譜面はあるものの、ほぼ好き放題でバッキングやオブリを入れる。
 したがってソリストのバックはカルテット編成。
 楠本卓司(ds)は単に刻みっぱなしじゃないし、鈴木克人(b)も面白いフレーズを挿入する。
 まして明田川は自由奔放だ。
 だから凄まじく面白いアンサンブルだった。

 しょっぱなの"亀山ブルーズ"では、まず津村のギター・ソロから幕を開けた。
 明るいフレーズ使いでエレキギターを鳴らす。
 レスポールをアンプに直結し、エフェクタは何もなし。音色はアンプやギターのツマミで変えていた。

 明田川は彼に限らず、どのソリストにもふんだんにスペースを与えた。したがって自在にアドリブが展開し、飽きることがない。
 ホーン隊への指示は、主に榎本秀一(ts)が努める。多少は明田川とアイ・コンタクトしてたが、これまたかなり自由そう。

 ソリストがアドリブを取る間に、カウンターでホーンのリフを二度、三度ぶつける。
 前述通りカルテットのバッキングが複雑なとこへ、ホーンのリフまで載るんだから。音像は素晴らしく楽しい響きになった。

 ギター・ソロのあと、いきなり拍手が沸いた。
 続く松本も熱くブロウを決め、テンションを盛り立てる。
 エンディングでは早くもピアノが、クラスターをかましてた。

 明田川のピアノ・ソロを前面に出したのが、続く"オーヨー百沢"。時たま聞ける、昔馴染みのレパートリーだ。
 日本情緒たっぷりなジャズをピアノが紡ぎ、宮野裕司(as)が引き継ぐ。
 こもり気味な独特の音色で、宮野は滑らかなメロディを吹いた。
 
 クライマックスは、鈴木克人(b)のソロ。アルコでゆったりとフレーズを組み立てる。
 冒頭はギターやピアノ、ドラムがそっとアドリブを支えた。しかし次第に音が途切れ、最後はベースだけが残る。
 弓が淡々と動き、じわりとアドリブが零れた。

 リラックスする名演のあと、"サムライ・ニッポン・ブルーズ"で雰囲気を変える。ソロを取ったのは津山。
 口をあけてメロディを口ずさみながら、激しい即興を迸らせた。
 切れ味鋭くギターが吼えた。

 1stセット最終曲は"スモール・パピヨン"。
 明田川の自作曲では"エアジン・ラプソディ"と並んで、ステージ最後の盛り上げを飾る、馴染み深い曲だ。
 イントロは明田川のオカリーナ。ベースとドラム、ギターが演奏を支える。とにかくギターが美味しい。
 ふだんはカウンターでメロディをあてる演奏って、明田川のライブではあまり聴けないから。

 オカリーナを聞かせたのは、結局ここだけ。
 それよりもむしろ、各メンバーのソロに時間を割いたようだ。
 明田川自身の演奏は、翌日大晦日のアケタでも行うしね。

 ホーン隊がテーマを高らかに奏でる。
 その上を行くように、渡辺隆雄(tp)がソロを取った。
 トランペットが強く高く、延々と吹かれる。

 榎本の合図でホーンのリフがぶつけられた。
 もちろんドラムやベース、ピアノにギターも渡辺のトランペットと絡む。
 べらぼうにかっこいい。

 アドリブは宮野をはさみ、榎本へ繋がった。ホーンのリフをぶつける合図は、松本へ変わる。
 榎本のソロも独特だ。細かいフレーズを積み上げて、ペースを掴む。
 ちょっと吹いてはマウスピースから口を離し、テナーのベルをちらりと睨んだ。

 しだいに旋律が長くなり、ついにはフラジオがその多くを占める。
 両足を軽く曲げ、身体を揺らしながらハイトーンで榎本はサックスを軋ませた。
 ドラムがフロア・タムを幾度もびしびし打ち、テナーをあおる。

 メンバー紹介は、マンボのリズムで行われる。"マツケン・マンボ"です。
 アドリブを取ったのは松本。えらくフリーキーなトーンで、しばらく吹きまくっていた。

 後半一曲目は最近のレパートリー、"クルエルデイズ・オブ・ライフ"。
 津山がメロディを、最初はチョーキングを取り入れて弾く。
 かっこいいなあと見てたが、最後のほうではフレット使いになってしまい残念。

 アドリブの口火を切ったのは鈴木だった。
 前半とは一転して、指を使ってウッドベースを操り、ぐっと渋いソロを披露する。

 そしてアケタのピアノ・ソロ。
 この日はリーダーとして縁の下の力持ち役か。たしかにソロで曲を引っ張るシーンは幾度もあり。
 しかしむやみに自分を目立たせようとはしない。バンド全体の音楽で自らを存分に表現してた。

 エンディングが面白かったな。ホーン隊が主役を特に決めず、てんでにアドリブを行う。
 同時進行で即興フレーズが絡み合う、刺激的な瞬間だった。

 ひさびさに聴く気分な"アケタズ・グロテスク"。榎本や渡辺がソロを取る。
 アップテンポなこの曲は、分厚いホーン隊でリフを決めると、さらに映える。
 粘っこくファンキーな仕上がりだった。

 最後は、再び"マツケン・マンボ"。
 明田川の自筆(?)なマンボウの絵が描かれた紙を、客席へ見せた。

 明田川の日本情緒がまたもや炸裂したのが、"いかるが桜"。メインのソロも、ピアノがたんまり取った。
 独自のテンポでピアノを弾く。鈴木はグルーヴを明田川へ合わせてたみたい。
 なのにドラムはまったく気にしない。刻むペースを揺らがせないため、ほんのりポリリズムが産まれた。

 世界観を見事に保管したのが宮野。
 アルトサックスからのメロディアスなフレーズは、けして日本風味を強調しない。
 けれども旋律そのものが持つ優しさが、明田川の音楽にぴたりとはまった。

 今夜はアンコールなし。
 締めくくりは"エアジン・ラプソディ"だった。後半は一時間半近く演奏してたと思う。
 どれもアドリブが長かったしね。ひときわ長尺は、この曲だったはず。

 ライブの集大成にふさわしく、ソロ回しも多かった。
 そしてどのソリストも時間をたんまり。一区切りついたところで、ホーン隊のリフが加わり、さらにサウンドを盛り上げる。

 まず松本。なんだかロケンローな味わいで、若々しくテナーを吹く。
 ジャズへアドリブを引き戻したのが、続いた津山かな。

 ブライトなギターのトーンで誤魔化されそうになるが、ほんのすこしロックな響きも織り込む。
 話は変わってしまうが。鬼怒無月をこのアンサンブルに入れたら、どう弾くんだろう・・・とぼんやり考えていた。
 ギター・ソロはさまざまなアイディアを織り込まれ、充実していた。

 徹底的にジャズへ引き戻したのが、榎本のテナー・サックス。
 身体をゆらりゆらり、テナーはどっぷり深く鳴った。
 
 ここまで唯一、ソロを取ってこなかったドラムが、ついに存分に叩いた。楠本卓司(ds)のアドリブは、いわゆるジャズメン風の、連打をするもの。
 ただしときおりのスネア連打が、なんだか和太鼓みたい。
 ロールやタム回しの合間を縫って、たんたんたん!と鳴らす、ハイピッチなタムの響きがきれいだった。

 とにかく今夜は充実したライブだった。津山のギターがアレンジを一筋縄でいかせない。
 見事なオブリが素晴らしい。肝心の明田川のピアノももっと聴きたかったが・・・それは翌日の、大晦日ライブに取っておきましょう。

 ホーン隊が幾度もテーマを繰り返し、ピアノはクラスターを。ドラムはシンバルの連打を。
 ハイテンションでクライマックスを迎える。

 もういちど、"マツケン・マンボ"。メンバー紹介が終わっても、演奏はやまない。
 ホーン隊が短いソロを矢継ぎ早に出入りさせる。
 演奏は23時をまわってもずっと、楽しく繰り広げられた。

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