LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
04/12/24 西荻窪 音や金時
〜ヴィオロンの太田惠資 ややっの夜〜
出演:太田惠資ソロ
(太田惠資:vln e-vln voice etc.)
この店で月に一回行われる、太田が主催するイベント"ややっの夜"。聴くのは今年の2月ぶり。
基本はゲストが招かれる。2040年だかに放映予定という、架空テレビ番組の収録を模した企画だったが・・・。
昨日はその手のコメントなし。この演出をやめたのかな。
イブで観客が少ないと太田の予測に対し、実際はほぼ満席の盛況。
開演前からぎっしり機材が並ぶ。各種エフェクターのペダルに、CDプレイヤーとリズム・ボックス。
バイオリンはアコースティック、エレクトリック、コルネットを仕込み、タール(ハンド・パーカッション)やメガホンも準備した。
太田は一人で黙々と配線を続けていた。
スタッフとPAのサウンド・チェックもあり。ふだんは客入り前に、済ませてるのかも。何回か見たが、目の前でチェックするのは初体験だ。
バイオリンを爪弾く音で、観客が演奏始まるかと集中をはじめる。
「サウンド・チェックですから。もうすぐ始まります」
太田が苦笑して説明した。
かなり時間は押し、20時20分頃に開演。
暗転し、ピンスポで太田が照らされる。
おなじみの小型ラジカセによるテーマ曲。・・・ところが。ボタンを押し間違え、音が出ないハプニング。笑いで空気が寛ぐ。
仕切りなおしでテーマを流し、太田のDJが乗る。
「ややっの夜」が始まり。
ライブ・スケジュールではスペシャル・ゲストが示唆されていた。事前の告知は一切なし。
意外なミュージシャンとの共演を期待したが、実際には土壇場まで決めかねていた様子。ソロで通すことも考えていたようだ。
ゲストは土壇場で出演を依頼かな?作曲家の小笠原寛(手使海ユトロ)だった。
特に小笠原は楽器を用意せず、前半はトークショーの趣き。
小笠原は「世界ウルルン滞在記」のテーマの作曲・アレンジをしたとのこと。
ネットで調べたら、声優CDがらみの仕事もいろいろしてるみたい。
小笠原が音楽担当の"極道の妻U"に、太田の参加が出会いという。
太田は「スタジオ仕事での恩人」と小笠原を紹介した。
厚手のコートにフェルトの帽子を被り黒ずくめな小笠原は、ステージへ上がるなり太田へプレゼント。
太田が開けて出てきたのは、馬鹿でかい目覚まし時計。いきなり爆笑だった。
これをきっかけに、遅刻話やスタジオ仕事のエピソードが次々語られる。
ちょっと小声で聴こえづらい部分もあったけど。小笠原は低くゆっくりと、ユーモアに溢れたしゃべりだった。
カップルの観客も幾人かおり、「趣旨がわかってないよ。寂しいクリスマスでやろうとしてるのに」ってぼやきが面白かった。
小笠原の紹介として太田はCDを準備済してた。そのためにCDプレイヤーを用意してたんだ。
「世界ウルルン滞在記」のテーマをまず流したか。この曲の主旋律は常見と太田の掛け合いだ。
スタジオで太田を知った小笠原は、彼のライブへ何度も足を運んだという。
その人脈が参加したCDとして、「大陸幻想」も紹介。
本盤には大熊ワタル、高木潤一、吉見征樹、常味裕司、吉良知彦(ZABADAK)らメンバーが参加してる。
「来年、この中から高木、吉見、常味、吉良がせーの、で究極のアレンジのレコーディングする計画あるんですよ」
小笠原が言う。「ウルルン」のテーマ曲を再録だそう。
「ぼくは?」
「ぜひお願いします。・・・あ、斉藤ネコ(vln)さん呼んだかな?」
当然尋ねる太田へは、ギャグで返す。
「ダラブッカを持ってきてください」とトークで伝えてたから、レコーディングには太田も参加するみたい。
最後に紹介したCDは、まだ未発表の盤。太田はパンチ・インすらなしの完全1テイクOKの演奏だったという。
「一回しか弾いてないから、覚えてないでしょ」
からかう小笠原に苦笑する太田は、音楽が流れると腕組みして聴き入る。「思い出しましたよ」と、録音時のエピソードを語ってた。
トークは約40分ほど。
小笠原に評価されたことで、太田はスタジオ仕事に自信をもった、としみじみした述懐が印象に残る。
「太田さんのふだんライブで見せない一面を紹介できたかな」
小笠原が言うとおり、新鮮だった。スタジオ仕事って、あまりライブの場では語られないから。
前半最後は「ゲストに捧げる」と、15分くらいのインプロで締める。
かなり激しい演奏だった。
まずはロングトーンや爪弾きをつぎつぎディレイで展開し、いくつかのフレーズのみサンプリング。
あっというまにクラシカルな音世界を構築する。この手管は何度見てもスリリングだ。
ボウイングは次第に激しくなり、一本、また一本、弓の毛が切れてゆく。
クラシカルなメロディの合間に、弓でのかき鳴らしを挿入。
途中でアコースティックへも持ち替えた。ひときわ力のこもった熱演だった。
休憩の後は、完全ソロ。
今夜は細かい部分を覚えてません。ごめんなさい。・・・メモを取って置けばよかった。
まずはエレクトリック・バイオリンの一人多重奏。
やはりエフェクターを使い、バッキング・トラックをその場で構築する手法を採用した。
音場はミニマルな感触。そこへジプシーっぽいフレーズを大量に注ぎ込む。
中盤でリズム・ボックスも加えた。
ちょっと引っかかりある、9/8拍子のビートを使い、タールをひとしきり叩く。
アコースティック・バイオリンへ持ち替え、太田のオリジナル曲(曲名はよく聴き取れず)を演奏。ここだけで10分くらいの長尺だった。
続いて譜面を持ち出し、バッハの"G線上のアリア"をエレクトリックで。 伴奏はやはり、その場で即興構築したループだ。
ゆらり美しい旋律が漂い、だんだんまったりした気分になった。
アラブ系の即興を挟んで奏でられたのが、"Silent
night"。いかにもイブにふさわしい風景だった。
クリスマス・ソングを演奏したことへの照れ隠しか、続いてはコルネット・バイオリンに持ち替えて即興。
「大正風味でこのクリスマスを歌う」と言い張った。
バイオリンのメロディとユニゾンで、その場で歌詞を作る。しだいにぼやき漫才ぽくなり、可笑しかった。
中盤ではコルネット・バイオリンでのソロも。あれって、演奏可能な音域が、普通のバイオリンより狭いんだろうか。
指板の真ん中辺りに金具が飛び出してる。そのせいなのか、太田が使う音域は指板の上の部分のみ。
ここまで即興で最高域を使った囀りも取り混ぜてただけに、狭い音域での演奏が強調された。
歌は途中でねた切れとなったか、バイオリンの即興でコーダへ結びつけた。
「こんなので拍手しちゃダメ!」と苦笑する太田。
次がたしか、梅津の"ベルファスト"だったはず。
ホーメイをたっぷり使った曲も演奏されただが、ライブのどこの箇所か良く覚えてない。2部の冒頭だったかなあ。
"ベルファスト"を太田は、とっても好きなんだな。
「ソロでやるのも、どうかと思いますが」
前置きして、アコースティックで披露。個人的にはエレクトリックの一人多重奏でも聴いてみたい。
変拍子まみれのテーマを丁寧に弾き、続けて流麗な旋律を軽やかにフェイク、アドリブへつなげる。
黒田京子トリオでも選曲されるが、ソロだと切なさが強調されてきれいだった。ちょっと短めな演奏が残念。
エレクトリックへ再び持ち替えた。
まずリズム・ボックスを使用。あれはタブラかな?エッジの効いたビートが流れる。
即興で弾きまくる。そして耳馴染みあるフレーズが出てきて、嬉しくなった。聴きたかったんだ、これ。
"太田のトルコ"を一節歌ったあと、さらに激しいエイト・ビートをリズム・ボックスで足した。
メガホン片手にハナモゲラで無国籍なボイスを次々提示する。
エレクトリック・バイオリンを構えなおし、ぐいぐいテンションがあがった。
ディストーションを効かせ、バイオリンの音色が鋭くなる。
音に負けじと激しいシャウトを、太田は叩き付けた。
エンディングは無伴奏。"太田のトルコ"に戻り、リタルダンドさせたボーカルで堂々とエンディングを決めた。
「まだパワーは残ってますが・・・次はどっちで弾こうかな」
迷った後、アコースティックを選ぶ。
「これもソロでやるのはどうかと思いますが。MASARAに入ってます」
ピアソラの「オブリヴィヨン」を美しく奏でた。
ふくよかなバイオリンが店内に広がる。滑らかな旋律が心地よかった。
これが最後の曲。
コルネット・バイオリンに持ち替え、"ややっの夜のテーマ"を弾いた。
(テーマ曲ってMASARAの「オータのトルコ」で聴ける、イントロ部分なんですね。今回CDを聴いて、知りました)
テーマが流れると同時に、舞台以外の明かりが消される。
深く太田が一礼。
明かりはふっと絞られ、暗闇に包まれた。
膨大なライブを連日連夜やってる太田だが、ソロで聴く機会はさほどない。
ひとりだとロマンティックさと攻撃性が同居する、混沌さが存分に聴けて充実してた。
特に彼の作る、エレクトリックの一人多重奏がとても好き。だから、たっぷり聴けた今夜は嬉しかったな。