LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

04/12/16   西荻窪 アケタの店

出演:緑化計画
(翠川敬基:vc、片山広明:ts、石塚俊明:ds )

 月に一回アケタで定例ライブがある緑化計画だが、ぼくは聴くのずいぶん久しぶり。今年の3月以来か。

 今夜は早川岳晴がCOILのツアーで不在、ベースレスで演奏された。
「ベースを呼ぼうとも思ったが、3人の緑化もありかと考えた」
 演奏前に、翠川が説明する。

 一曲目の紹介。始めようとしたとたん。片山がマウスピースを眺める。どうやらリードが割れてたらしい。
 「いいよ、ゆっくり交換してて」
 苦笑した翠川。一呼吸置く。リード交換する片山を横に、そのままチェロを弓で奏でた。

<セットリスト>
1.TAO
2.メノウ
3.フル・フル
 (休憩)
4.サウザンド・アイズ
5.ヒンデ・ヒンデ
6.ウエスト・ゲート

 たぶん今夜のセットリストはこんな感じ。あまり自信ないです。
 ほぼアルコを翠川は使用した。
 
 翠川のソロで始まる"TAO"の冒頭は、かなり隙間が多かった。ベースがいないせいかな。
 チェロとテナーがてんでにソロを取った。フレーズとしてはかなり聴き応えあり。
 しかしマレットを持った石塚のドラムは、音のまとまりがしっくり埋めない。ベースの重要性をしみじみ感じた。

 ところが中盤、翠川が刻みをはじめた。
 テナーが力強くソロを取る。
 すると一気に空気がジャジーに変化して、面白かった。
 ちょっとアレンジを変えただけで、いきなり変わるんだ。
 
 エンディング間際でもちょっと雰囲気が変わったはず。
 ポリリズムっぽくなったのかな?残念ながら詳しく覚えてない・・・。

 まずはアップ気味にライブが始まった。
 続く"メノウ"から、ぐっとテンポを落としてロマンティックな世界へ。

 "メノウ"ではなによりも、チェロが凄まじかった。
 アンサンブルを成立させながら、実質は独自の世界を築きあげる。まるでチェロのソロのよう。
 目を閉じて片山や石塚の音に軽く反応しつつも、アルコで自分の音世界をぐいぐい拡げた。

 一方の片山も負けてない。抜群のアドリブで音を引っ張る。
 若干ラフな音色で、次々に音を繰り出した。テナー一本で空間を埋めようとする。
 いわゆるソロ回しはなし。ずっと吹き続けた。
 石塚はスティックで叩いてたかな。
 スタックさせたシンバルを鈍く鳴らし、幾枚かぶら下げたチャイナシンバルも効果的に使った。

 前半最後の"アグリの風"にて、三人の緑化計画はしっかり根を下ろした。
 アンサンブルがきゅっと締まる。
 冒頭はチェロの独奏。
 その合間に片山は再びリードを交換した。そのせいか、以降は滑らかな音色を多用する。
 今夜は振り絞る高音のフラジオを、ライブを通じてほとんど吹かなかった。

 ちなみにどの曲も、選ぶのは翠川。
 譜面がぎっしり詰まったクリアファイルにペラペラめくり、即興で決める馴染みの光景だ。
 "メノウ"を選んだのも"TAO"の隣のページに、その譜面があったから。
 しかしエンディングの合図は片山が出してるみたい。
 ひとしきり奔放にアドリブが展開させたあと、彼がアイコンタクトを翠川へ送ってコーダへ導く。
 そぶりがまったく見えないはずの、石塚がびしりとあわせるのが凄い。

 見事に呼吸が合ったのが、まさに"アグリの風"だった。
 石塚はシンバルを組み合わせた、リフを叩いてたはず。
 この曲はテーマのラストで三連打が入る。
 
 ソロのあとに片山の視線で、テーマへ翠川を導いた。
 一度だけ繰り返された、テーマのメロディ。

 三連打の瞬間、すぱっと曲が切り落とされる。
 スリリングな終わり方だった。

 休憩を挟んだ後半も、きれいなメロディがふんだんに流れた。
 翠川は弦の押さえかたを変える、トリッキーな奏法もさりげなく織り込む。
 どの曲だったか・・・あれは"メノウ"かな?イントロで、本当に聴こえるか聴こえないか、極小のpppも披露した。

 後半でも三人アンサンブルががっしりと成立。
 石塚は珍しく刻みっぽいリズムを多く提示したが、ベースがいないのでサウンドの重心はどうしても軽くなる。
 ドライブし、たゆたう演奏。それを後半一曲目では堪能できた。

 このあたりから、ぼくは片山の足が気になって眺めてた。
 続く"ヒンデ・ヒンデ"で、翠川は特殊奏法を多用する。弓を弦の裏側に入れて弾いたり、弓の背で弦を叩いたり。
 しかしボディを叩くようなパーカッシブな奏法は使わず、あくまでチェロの演奏にこだわった。

 テーマのメロディが終わったとたん、石塚がワルツのリズムを叩きだす。
 翠川も片山も、リズムに沿って展開。
 ところが中間のフリーを挟んで、今度はドラムが4拍子に変わってしまう。ユニークなアレンジだった。

 そこで片山の足を見てて、面白かったんだ。
 明確にビートの頭を提示する石塚のドラムとは裏腹に、片山の左足は独自のリズムでせわしなく床を踏む。
 自分のフレーズの頭へ、合わせてるわけでもなさそう。つま先が性急に動いたかと思えば、かかとで拍を取ったりも。

 "ヒンデ・ヒンデ"にて片山は、アラブ風のしこたまかっこいいメロディを提示した。
 フレーズの魅力に弾かれ、あとは片山のつま先を眺めてた。
 翠川は淡々とドラムのビートとあわせてただけに、片山のリズムの謎を知りたくなっちゃって。結局、分からなかったけれど。

 そして最後の曲。
 「静かに行こうか。・・・この曲、サックスにきついかな?」
 翠川は譜面を指して尋ねる。首を横へ振った片山へ合図、サックスの無伴奏ソロにイントロを指定した。

 もちろん繊細なチェロのソロもたっぷり。
 ステージが進むにつれ、二人して音を埋め尽くす比率が次第に減る。
 基本的に翠川はずっと音を出し続けたが、時に片山はいさぎよくサックスを置き、ドラムとチェロのデュオへ空間をゆだねた。
 "ウエスト・ゲート"でも、チェロのみでのアドリブがじっくり味わえた。

 エンディングへ誘おうと、片山が翠川を覗き込む。
 ところが目を閉じて没入するそぶりの翠川が反応せず。片山が苦笑してた。
 テーマのメロディは、ゆっくりといくつかの音が伸ばされる。
 最後の音を片山は、完全オープンで吹いていた。左手すら、だらりと横へたらす。
 テナーのオープンだからAがでるのかな。音はB♭に聴こえたが。
 
 エンディングも同じ。テナーはなにもキーを抑えずに、静かに吹く。
 チェロとユニゾンでテーマを奏でる。
 そして二人はそのまま音を絞る。余韻がアケタの中を漂った。

 「来年もよろしく」
 翠川がにっこりと律儀な挨拶をし、ライブの幕を下ろした。

 久々に緑化の音楽を聴きながら、ふと最初に彼らのライブへ行ったときの印象を思い出してた。
 あのときはもっと脱力したジャズって感じてた。

 ところが今の印象は、美しく集中する音楽のイメージが強い。 
 緑化の音楽性は、ここ数年間でさほど変わっていないはず。ぼくの耳がちょっと変わったってことだろうか。

目次に戻る

表紙に戻る