LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2004/11/26  吉祥寺 Star-Pins cafe

   〜FUTURE DAZE vol.3〜
出演:MERZBOW

 深夜1時をまわったころ。メルツバウはステージへ姿をあらわした。
 ステージ上手のテーブル前へ腰掛ける。

 テーブルの上に2台のパワーマック。真ん中にミキサーらしき機械。機材は、それだけ。
 パワーマックへ火が灯された。上蓋のリンゴが白く光る。

 ステージではGround Reverseが、ライブの真っ最中だった。
 しかしメルツバウはステージ上には無関心なそぶり。
 スタッフと二言三言会話。ヘッドホンで音をモニターする。ペンライトで配線を確認。
 事務的にいくつかを行った。
 横に置いたペットボトルから、一口飲む。
 そして立ち上がると、ふっとステージ裏へ消えてしまった。

 メルツバウのライブを聴くのはずいぶん久しぶり。
 「ライブでアルバムで使った曲を演奏するようになった」ってインタビューを数年前に読み、どんなステージになるか楽しみにしてたんだ。
 機材の変化も興味あったが・・・これは前回見たときから変わってないみたい。

 今夜はクラブ・イベントのゲストで、メルツバウが招かれた。
 どういうイベントかわからない。この手の常として、タイム・スケジュールもさっぱり。
 とりあえずメルツバウが出るのは深夜だろう、と推測して0時半過ぎにスタパへ入った。

 動員はほどほどかな。フロアも空いている。
 ちょうどGround Reverseがライブの真っ最中だった。
 男二人がステージ下手のテーブルに、パワーマック2台とさまざまな機材を載せる。
 ノイジーなビートを提示してた。
 どっちがどの音を出してたかわからない。
 だけど常になんらかのビートを提示する、インダストリアル・ノイズ系の音楽だった。

 ビートはしょっちゅう変わる。性急に押したと思えば、奇数拍子っぽいフレーズがゆったり歪む。
 音はまあまあ大きめかな。無理すれば踊れそうなサウンドだった。
 ブロックごとに幾度か繰り返し、次の展開へじわりと変わる力強いテクノイズ。若干単調だったが、楽しめた。

 彼らのノイズがいったん低まった瞬間。
 冒頭に書いたとおり、メルツバウがいきなりステージへ現れたんだ。
 競演?!と喜んだが、単なる機材チェックみたい。

 Ground Reverseのライブはそのまま続いた。深夜1時25分ごろ、彼らのビートが収束する。
 今まで彼らに当たってたピン・スポットが絞られた。上手で一本、新たに輝く。
 ライトに照らされたのが、メルツバウ。
 そのままライブは始まった。

 今夜は黒ずくめの服装で、黒髪のストレート。茶色の薄いサングラスをかけてたみたい。イスに腰掛けての演奏だった。
 まず両方のパワーマックを軽くいじる。
 低音が漂った。数個の音符が連なる。ゆったりしたビートがループされた。

 今夜もメルツバウは無表情。フロアへ視線を投げるでもない。
 次にミキサーらしきものをいじる。軽く頬杖をついて。その仕草が、新鮮だった。
 
 音量は小さめ。次第に低音の比重が高くなる。
 フロアの壁が、机が、明らかに震える。強烈な低音はびんびん響き、肌の表面にまで低音が染みこむようだ。

 鳥の鳴き声らしきサンプリングが、一瞬だけ聴こえた。ライブが始まって、10分くらいかな。
 しかしすぐに粘っこいノイズへ覆われてしまう。
 いくつも提示されるループが重なり、ノービートの鈍重な電子ノイズがフロアに注がれた。

 先ほどまでフロアで身体を揺らしてた観客も、立ち尽くしたまま。
 ステージを、見つめてた。

 前半部分は驚くほど静かなノイズ。複雑な重層構造というメルツバウらしい音作りで、退屈はしない。
 しかしハーシュっぽさは皆無だった。

 メルツバウは本当に身じろぎもしない。背筋を伸ばすストイックぶり。
 白いマックをメインの機材にして、おもにそちらを操作した。
 動くのはマウスを操作する指先のみ。クリックの動作も、だいぶ以前より小さくなった気がする。

 たまにもう一台のマックへ身体を動かした。
 2、3回クリックして、再び白いマックへ戻る。本当に動きはそれだけ。
 ミキサーすらほとんどいじらなかった。
 真剣な視線は、画面に注がれる。
 一体どういう画面が表示されてたんだろう。

 音はいつまでたっても大きくならない。Ground Reverseのほうが大きかった。あれが不思議。
 スピーカーのまん前でメルツバウのライブを聴いてても、耳は平気だったもの。信じられない。

 フロア中央で聴いたら、体感的には一番おもしろかった。4つのスピーカーで音を使い分けてる。
 床起きスピーカーは低音のループ。むわっと腿を極低音が震わせる。比喩でもなんでもなく。
 さらに上から吊る下げられたスピーカーから、高音のノイズが降ってきた。

 極低音ループの積み重ねへ、別のノイズが折り重なては消えてゆく。
 ハーシュらしき音の片鱗が現れたのは始まって30分以上たってから。
 しかしもどかしさがつのる。一瞬だけ激しく吼えても、すぐに積み重なるノイズへ埋もれてしまった。

 PAが小さすぎ。もっとボリューム上げればいいのに。
 奏者はモニター無し。たぶんフロアのかえりで音を聴いてたはず。さらにもどかしかったのでは。
 なにせ終わっても、耳鳴りしないんだもの。メルツバウのライブで。こんなの、初めてだ。
 
 後半10分ほどだけメルツバウらしきハーシュ・ノイズが、厳しくきらめいた。
 全般的に大人しめなノイズだった。最近のメルツバウは、こういう円熟路線に変わったの?それとも、今夜はたまたま?

 唐突に音が収斂、静かになる。
 メルツバウの後ろに置かれたテーブルへもスポットがあたった。
 
 DJのZOMBOだ。そのまま二人のセッションへ繋がった。
 ZOMBOを一瞥するメルツバウ。しかしあとは無表情なまま、パワーマックの画面へ向かっていた。

 ZOMBOも演奏途中にちらりとメルツバウを眺めたのみ。
 あとはテーブルに置いたカオスパッドでノイズを操る。
 一転して耳へやさしめのハーシュ・ノイズへ。
 轟々と音が唸るけれど、どこかメロディアスさが残った。

 キーボードっぽいフレーズを出してたのは、二人のどちらだろう。
 二人がてんでに違う音を出してるのか、メルツバウが出す音の一部をZOMBOがリアルタイムで変調させてるのか、それすらも分からなかった。
 やはりノービート。サイケに盛り上がる。

 彼らのセッションは15分くらい。
 唐突にメルツバウがパワーマックを閉じる。全部あわせて、約1時間のステージ。
 観客から拍手が飛んだ。座ったメルツバウは、観客の拍手に応えるそぶりもない。

 そのままZOMBOはステージ中央のDJブースへ移った。
 ノイジーだが音響派っぽいアプローチの音を、フロアへぶちまける。

 メルツバウは機材を片付け始めた。
 マイペースでゆっくりと機材をカバンへ詰めていった。
 せわしなさはない。ZOMBOがDJしてる横で、慎重にケーブルの曲がりを直す。プラグを一本一本、丁寧に抜いていた。

 配線を片付けたあとは、ミキサーを。最後に2台のパワーマックを。
 黒いカバンに詰めた。
 全てが片付く。テーブルの上には、一本のペットボトル。

 一口飲んだ。そしてカバンを持ち、メルツバウは立ち上がった。
 ZOMBOへも、むろん観客へも視線を投げない。 
 メルツバウは無造作にステージ奥へ消えた。

 テーブルの上には、何も残っていなかった。
 ただひとつ、フロアとノイズが結びつく唯一の根拠。
 ミキサーに挿されていた二本のケーブルだけ、ぽつんとテーブルに残されていた。

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