LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2004/10/9   青山 Lapin et Halot

出演:Susanna & the Magical Orchestra
 (Susanna Karolina Wallumrod:vo、Morten Qvenild:key)

 ノルウェーにRune Grammofonという刺激的なレーベルがある。
 ジャズを中心にリリース。所属する、一番有名なバンドはSupersilentか。
 80年代に活動したバンドFra Lippo Lippiのベーシスト、Rune Kristoffersenが97年に設立した。

 先鋭的なインプロを次々リリースするリューネ・グラモフォンより今年の頭、唐突にリリースされたのが今夜出演するスサンナ&マジック・バンド。
 その"List of lights and buoys"が、デビュー盤にあたる。
 
 中身は静かなエレクトロ・ポップス。スティーナ・ノルゲンシュタムをまっさきにイメージした。
 ふわふわと不安定で音数少ないキーボードをバックに、伸びやかな歌を聴かせる。

 面白いな、と思ったが。ライブは無理と思ってた。だってCDが手に入らないんだもん。もちろん日本盤なんてなし。
 ごく一部のディスク・ユニオン、渋谷のワルシャワ、さらにアマゾン。ぼくがリューネ・グラモフォンの新品CDを見かけたのはそのくらいだ。
 そんなミュージシャンはまず来日しませんでしょ。

 ところが「東京デザイナーズ・ブロック」のイベントとして、急遽来日が決定。いそいそとライブへ出かけた。
 おりしも東京は史上最大の台風が直撃。駅から会場まで歩く間にずぶぬれになった。
 もっともあと30分我慢したら、雨はすっかり上がったらしい・・・。

 会場はレンタル・スペースを利用。パイプ椅子が100席ほどならび、入り口でワインや水が振舞われる。
 ノルウエー大使館の関係者も、何人か来ていたようだ。
 入り口前のタバコを吸える場所で、キーボード奏者のMorten Qvenild(モッテン・クヴェニル)がスタッフと雑談していた。

 台風のせいもあり、動員はほどほど。椅子席があらかた埋まったくらい。
 今回は二日公演で、前日は立ち見が出る盛況だったという。
 日本人プログレ・バンドの前座を20分ほどはさみ、Susanna & the Magical Orchestraのライブが始まった。19時15分頃。

 下手に置かれた椅子へスサンナは腰掛ける。かざりっけなし。大きなモニタースピーカーに囲まれて。
 ワンピースに真っ赤な膝上ストッキングの服装。靴をはかず、靴下のまま登場した。
 モッテンは上手側に位置したキーボードの前へ。
 中央にRhodesを起き、Korgなどキーボードやミキサーらしき機材を積む。
 さらに右手、左手側もキーボードで囲んだ。濃密な伴奏を構築するかと楽しみにしてた。

 ところが。演奏が始まったら、たまげた。
 すごくシンプルなんだもの。

 冒頭2曲はRhodesの弾き語りなイメージ。他に何にもモッテンは音を加えない。
 和音にちょっと毛がはえた程度の、シンプルな伴奏。

 その上で、スサンナは歌った。
 たしかに帰ってCDを聴きなおしたら、弾き語りっぽい伴奏の曲もあり。気づかなかったなあ。

 スサンナは椅子へ腰掛けたまま、そっと喉を震わせる。声量をひけらかさず、あくまで歌声を宙へ突き抜けさせた。
 風邪をひいてたらしいが、声に危なっかしさは無い。ときたま繰り出すハイトーンがきれいだったな。

 腰掛けた膝に左手を乗せ、微妙に指を動かしリズムを取る。
 立ってた時は身体を揺らすも、曲の譜割と無関係なリズムだったな。

 いちおう事前にCDを聴いてたが、曲名までは覚えられず。
 今夜のセットリストは書けません。ごめん。

 ふたりとも譜面は使わない。スサンナは横へ置いた譜面台に歌詞カードを置く。
 ほとんど見てなかったが。母国語じゃない英語の歌詞だから、念のためだろう。
 一曲終わるごとに、足元へ歌詞カードを投げてゆく。

 モッテンの演奏が想像と違って面白かった。もっとスサンナを気遣った伴奏かと思ったよ。
 実際は自分の音世界へどんどん没入する。アレンジがどんなにシンプルでも。

 目を閉じて唇は軽く開け、肩までつかって鍵盤を押さえる。
 時に立ち上がり、中腰の姿勢で楽器に向かってた。たまに汗を拭うも、肉体感覚はかなり希薄だ。

 3曲目以降はRhodesのみでなく、他のキーボードも使用した。
 多少シーケンサーやディレイ・エコーも使っても、ほとんどが手弾き。
 モッテンのソロはごくわずかだ。2〜3曲だけ、ワンコーラス程度のアドリブを入れたくらい。もっと聴きたかったな。

 中盤でコルグを使ったソロを入れたとき、ボリュームが他のキーボートと同じで、ほとんど聴こえず。埋もれてた。
 あれは意図した効果だろうか。

 むしろスサンナの堂々としたそぶりが印象に残る。かなりあいまいでリズム感が希薄な伴奏へ、スマートに乗って歌う。歌のきっかけはどうやってるんだろう。
 モッテンとのアイコンタクトは皆無。しかしスサンナはするりと歌を載せていた。
 どの程度本国でライブをやってるか、よくわからない。でも場慣れはしてたね。

 ともあれ演奏をもっとライブらしくして欲しかった。エンディングがどの曲も、すさまじくあっけない。
 エンディングを盛り上げて、延長させる部分は皆無。
 歌が終わったとたん、いきなりコーダへ。時にはカットアウト気味に叩き切る。
 ライブじゃなくてプレスへのお披露目公演を見てる気分だった。かなりお行儀よい。

 もっともこれが、彼ら流のライブに対するポリシーだろうな。
 ハプニングや即興性はなく、淡々とステージが進行する。
 ステージはシンプルなライティングのみで、仕掛け無し。したがってストイックさが目立つライブだった。
 
 MCはモッテンがつとめる。スサンナは歌以外、何も喋らなかった。
「日本は初めてなんだ。とんでもない天気だけど、楽しんでってください」 と、数曲ごとに、軽く挨拶を盛り込む。

 本編のステージは、約1時間。アルバムの曲を、ほぼ一通りやるかっこう。
 最後に持ってきたのは"Jolene"。
 CDで聴いてたとき、訥々とつぶやくキーボード・リフはてっきりシーケンサーと思ってた。
 ところがモッテンは手弾きでリフを弾く。素朴な響きが広がる。
 スサンナがゆったりと歌を紡いだ。

 アンコールへはすぐに応える。
 「昨日も演奏したんだ。ぼくらが最初に演奏した曲だよ」
 曲は"ハレルヤ"。CDには未収録の、レナード・コーエンのカバーだ。
 なんでもノルウェーではティム・バックリーのバージョンが有名だそう。
 "ハレルヤ"は、しみたよ。か細いスサンナの歌声が厳粛に響いた。

 すっと袖へ引っ込む二人。前日はこれで終わりだったそう。
 ところが客電はまだつかない。もう一回、アンコールあるみたい。
 登場したモッテンはペットボトルを掴み、「水をここに置き忘れちゃったよ」と笑ってみせる。

 「最後に"Go"って曲をやります。でも、もう帰れって意味じゃないからね。」
 アルバムの最後に収録された曲。
 もともと短い曲だが、まったくエンディングを延長させない。
 一通り歌ったら、あっけなく演奏を終わらせた。

 しめて一時間半ほど。会場の都合で9時半までに撤収の制限付とはいえ・・・よそゆきライブって気分。
 もっと場数を踏んでも変わらないかな。そっけなさが心情のコンセプトみたいだし。

 戸惑いがのこったが、見て損は無い。アルバムと違った簡素な雰囲気ながら、コンセプトは伝わる。
 彼女らがこれから、どんな風に進化するにせよ。貴重な一瞬を目撃できたと思う。

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