LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2004/9/11  入谷 なってるハウス

出演:eu、大島輝之ソロ

 euはしばらく前に、江草啓太と植村昌弘が結成したユニット。初めてライブを体験する。
 グループで来たらしい観客が幾組かあり、客席は満員の盛況だった。

大島輝之ソロ

「観客が大勢いて緊張してますが」
 ぼそっとつぶやく。
 大島輝之は俯いてアコギを抱え、椅子へ腰掛けた。

 静かにガット・ギターを爪弾く。環境音楽な趣き。
 ピックを使わない。メロディもリズムも気にしない。
 ただ、弦を爪弾いた。

 しばらくすると、横に置いた機材のツマミをいじる。
 ちょっと弾いては、またカチカチ、と。
 クーラーの冷たい風を出す音が、店内に響いた。強く。

 横に置いた機材は、カセット録音機かな?
 早回しの音に混じって、今、大島が奏でたばかりなアコギの音が漏れた。
 チープなスピーカーを伝わり、ひしゃげた音で。

 ストーリー性は皆無。ひたすらの即興。
 大島はランダムに弦を爪弾き、横の機材をいじる。特殊奏法は使わない。
 たまにカセットから流れる音へあわせ、ギターを鳴らした。

 一人多重録音を狙ってるかと期待したのに。
 実際は違うみたい。あえて起承転結をつけず、音と向かい合う。
 アコギの音がするすると、空気をシンプルにふるわせた。

 いったん、ストロークが登場。強く展開するかと思いきや。
 やはり無機質な音の爪弾きへ戻ってしまう。

 「終わりです」
 唐突に演奏を断ち切り、大島は俯いたまま頭を下げた。
 わずか20分ほどの演奏だった。

eu
 (江草啓太:p、植村昌弘:ds)

 バンド名は「オイ」と呼ぶ。二人の頭文字を取った名前だろう。
 即興を軸にしたバンドかと、根拠も無く思い込んでた。
 実際はまったく逆ベクトル。アドリブ要素はあるとしても、悟らせない。
 きっちりと譜面が土台のアンサンブルだった。

 最初は江草がMC役。だけど小声でよく聴き取れない。
 まずは植村の書き下ろし作、"Egusa 2"からだったはず。

 植村が複雑なリズム・パターンを叩き、ピアノのメロディはそこへ吸い付くように進行する。
 "Egusa 2"に限らず、euは植村がシンバルを多用する印象あり。
 特にライドやクラッシュ。ハイハットはめったに叩かない。オリジナル曲に限定しての、アレンジだと感じたが。

 植村の自作曲では、ハイハットのペダルもほとんど使わない。偶然かな。意図かな。
 スタック・シンバルは珍しく使わなかった。
 シンバルの響きに比べ、タムの叩きは抑えてる感触。

 ただしピアノの音を掻き消すには充分な大きさだ。
 マイクをグランドピアノへ突っ込んでいても、PAバランスが悪かったのかな。
 もっともライブ後半には両方を聞き分けられる、良いバランスへいつの間にか修正されてた。

 植村の作"Egusa 2"から、江草がトルコ(だっけ?)の民俗音楽をアレンジした、という曲へ繋げる。
 とたんに世界観が、がらっと変わった。
 滑らかでダイナミックなピアノが溢れる。ドラムは刻み役で加わった。

 もう完全にピアノが主役。ドラムがいなくたって、成立するのでは。
 イメージしたのはジャズよりも、APJのようなプログレだった。

 スクエアプッシャーのカバーも一曲、披露した。
 植村は気管支炎をこじらせたらしく、喋りを控えてたはず・・・なのに。 これをやる前に咳き込んでガラガラ声ながらも、丁寧に曲の背景を説明してくれた。

 曲名はよく知らない。MUMUで一度、スクエアプッシャーのカバーを聴いたことある。そのときと同じ曲かな?
 ドラムが4/4拍子の中で、ちょっと跳ねる。
 そしてピアノはメロディを美しく、静かに柔らかく置いた。

 euのコンセプトはどこだろう。聴きながら考えてた。
 演奏はタイトできっちりまとまってる。もちろんだ。
 しかしアンサンブルの独自性はなんだろう、って。

 植村の曲ではドラムが主役となり、複雑なパターンを刻む。ピアノは上でユニゾン気味に、削るようなメロディを叩く。
 一方で江草が提供した曲では、とたんに世界が流麗さへ変わるのは前述の通り。

 たしかステージでは植村による"Egusa1"が演奏された。
 そのあとには、このライブのために江草と植村の書下ろしを、一曲づつ演奏したはず。
 誓って言うが、演奏は面白い。
 どちらのパターンでも演奏はタイト。それでいて生き生きとメロディもリズムも動く。
 いくぶんそっけない感じは、持ち味ってもんだろう。

 ふだんMUMUではほとんど喋らぬ植村なので、今夜のライブではMCが聴けて新鮮だった。
「チラシへは必要最小限のことしか書いてませんが・・・。高校卒業程度の人ならば次のMUMUのライブ情報が伝わると思います。
 おそらく今のライブシーンで、回収に対する資本投下率(緻密なリハのことだろう)が最も多いバンドです」
 と、植村はにこやかにギャグを飛ばしてた。

 最後は前回のライブで演奏された曲の、アレンジ変更版だそう。
 「今日は(なってるハウスの)店長もいないし。どうアレンジが変わったか分かるのは、おれたち二人だけなんだよな」
 もっとも前回と客層が違うのか、江草が植村は顔を見合わせ苦笑してた。

 この曲はSF映画のサントラっぽかった。メロディ世界が広がり、スケール大きく展開する。
 ピアノとドラムというシンプルな展開でこれだもの。大編成で聞いたら、すごく気持ちいいだろうな。

 約一時間弱のライブ。 
 即興要素の薄い演奏は意外だったものの。
 このあとどんな風に音が変わっていくんだろう。またライブを聴きたい。

eu+大島輝之

 せっかくだから、とアンコール代わりに3人のセッションへ。
「お客さんの都合にかかわらず、やらせて頂きます」
 と、ギャグを飛ばしたのは植村だったかな。euの二人はステージを降りず、そのままこの演奏へ雪崩れた。
 大島はアコギを抱えてステージへ戻る。

 植村と大島が参加する「sim」の曲が選ばれた。植村いわく、
「本当は即興演奏、がこの手のパターンですが。大島君が"反抗期"なので、曲をやります」

 事前に大島が曲を説明するときのこと。
「この曲はアンチ予定調和がテーマでして。最初静かに始まりながら、実は・・・あわわ」
 と、図らずも曲のネタばらしをしてしまう。
 苦笑しながら植村へ「別の曲やる?」と提案してたっけ。

 実際にはかまわず、この曲が演奏された。
 まず大島のアコギから。あるポジションで抑えた指が、同じ形のままネックを上下し、ゆったりとメロディを奏でる。
 ソロでの前衛ぶりはどこへやら。ぐっと聴きやすい曲だった。

 同じメロディがギターでずっと繰り返される。やがて、静かに重なるピアノ。
 壊れそうな音像を、アコギとピアノが磨いている。
 植村は腕組みして演奏を聴いていた。

 竹ヒゴをまとめたようなブラシでドラムをひっぱたいたのは、だいぶたってから。
 唐突さはあまりない。たしかにぐっと音はハードになったけど。
 暴力的なとこはなく、激しい場面へ画面が切り替わった印象くらい。

 やっぱり基本はアコギのメロディ。
 常に鳴っていた。
 
 全部で1時間半くらいかな。ボリューム的にはちょっと物足りない。
 だけど端整で涼しげな感触が残る、好ライブだった。

目次に戻る

表紙に戻る